荷造り
人からダンジョンの情報を購入するのもいいけど、やっぱり最後は自分たちで確認しないと意味が無いので、日帰りで下見をすること数回。
下見のたびに欲しいと思った必要な物、便利な物を揃えていく。
そうやって物を増やしていけば、物資搬入時の悩みどころにぶち当たる。
持ち込みアイテムの積載量から優先順位を決めて、持ち込む物を厳選していく事になった。
「暑さ対策はサイサリス任せにするのが一番なんだよな。他は、本当に最低限に抑えるか。
ああ、でも、冷たい水をもっと補給したい誘惑は抗いがたい」
「あのダンジョンは真夏の都会よりも暑いですからね。暑さ対策はもう少し多めに、水や使い捨てのアイテムを増やしませんか?」
「暑さは、けっこう我慢が出来るんですよ。あのダンジョンの中だと冷たいものが心地いいとは思いますけど。いざとなれば魔法で対応も考えています」
「ダンジョン内の魔力配分はシビアだと思うのだがね。大丈夫なのかな?」
「戦闘での魔力消耗って、昔よりも抑えられているので実は結構余裕があります。魔力も増えていますし。
光織たちも耐熱塗料でコーティングされた分、少し安定してきましたよ」
持ち込みで面倒臭いと言われるナンバーワンは水だ。
普段は魔法で水を用意しているけど、『火竜の塒』は水の魔法と相性が悪いので、それなりの量を持ち込んでいる。
物資運搬に使うクーラーボックスは容量に限界があるけど、一人分の水分であれば割と無理が利く。
それに魔法で出した水はぬるいけど、クーラーボックスの水はキンキンに冷やしておけるわけで。できるだけ魔法に頼らず持ち込みで対処する方が何かと都合が良かった。
イメージ次第で冷えた水を出す魔法がある小説とか多いけど、こっちの水を出す魔法は空気中の水を集める魔法なわけで、冷やす所まで出来なくもないけど……消費が重くなるので、やりたくない。
水は生命線でもあるから、魔力切れで出せませんでした、っていうのは避けたいし。
冒険者なら、準備の中でも特に手を抜けない部分である。
及川教授は熱中症対策じゃないけど、暑さ対策をもっとやった方が良いという。
塩やら水を増やすため、物資運搬のタイタンを増やす事を提案する。
それは普通に考えれば良い手段なんだけど、戦闘で足手まとい、守る対象が増えると道中の行軍そのものが危険になる。
出来れば少数精鋭で挑みたいので、本命の攻略では荷物持ちタイタンは2体を上限と考えている。よって、持ち込む荷物もそれに準じて制限をしていく方針だ。
そうやって荷物を減らした分は、魔法でフォローすれば何とかなるというのが俺の見立てである。
四宮教授はそんな事をして魔力は持つのかと気にしているが、ペース配分は昔よりも楽になっているので、余裕だと笑ってみせる。
実際、戦闘で光織たちが頑張ってくれている事もあり、俺の負担は小さい。
その光織たちも、耐火装備の充実でドンドン環境に適応しているので、思った以上に楽をさせてもらっている。
最新の特殊なコーティングをすると、ファイアウルフの使う火のブレスを受けてもノーダメージで、それを頼みにした戦術も取り入れていた。
なお、俺の装備にも同じコーティングをしてもらっているけど、そっちは気休めに近い。
アレは三人娘がレベルアップの要領で強化しているから防げるのであり、俺が同じ事をやったら火傷してしまう。
こっちは魔法で普通に防ぐか、ブレスを吐く前にブチ殺すだけである。その方が手っ取り早い。
現場入りしている自分の感覚も大事だけど、第三者に色々と口出ししてもらうと思わぬ忘れ物に気が付くので、出来るだけ細かい事まで口出ししてもらっている。
チェックって、自分でやると「もう大丈夫」ってバイアスがかかるので、第三者チェックだけは欠かさない。
そうやって仲間内で話し合いながら、荷物の厳選をしていった。
10日分の水に食糧、手当て用の道具に武器の予備。飛ばれたとき用に投擲武器も少々。
光織たちの応急補修用部品に予備の魔石バッテリー3セット。万華鋼の装備を使う関係上、どうしてもバッテリーは交換を前提にしないと困る。
ダンジョン内で2泊する事になるので、バトルクロス内で寝るための服も必須。
暑さ対策を含む各種便利アイテム。ダンジョン内では地面に座ると低温火傷をする事があるので、休憩用に床机のような椅子もあると良い。四六時中、バトルクロスの中にいたいとは思わないし。暑くても良いから、たまには外の空気を吸いたい。
「魔石集め、もう少し頑張らせないとなー」
物資のリストの中で、面倒くさいのは魔石バッテリーである。
特定のモンスターの魔石しか対応していないので市販の魔石を混ぜられず、用意するのが面倒くさい。
消費量と供給量を計算すると、下見でボスの手前まで行けるのは二回かそこらにしておきたいな。何度も泊まりの攻略をすると、ストックが厳しい。
戦闘に余裕はあるけど、万華鋼ありきだからなぁ。
無しでもどうにかできれば、もう少し助かるんだけど。
さすがにそれは高望みだよな。




