新しい能力
今回の仕事は、ダンジョンの奥までモンスターを退治しに行く事である。
前に俺がダンジョンに閉じ込められたのは、ダンジョン奥にいるオーガの間引きができていなかった事が原因ではないかと言う話も出ており、同じような事にならないよう、こうやって手を貸しているのだ。
普段はギルドの購入したタイタンが頑張っているんだけど、それでもたまには俺も動いている。
ギルドが購入したタイタンだけでは間引きが足りないかもしれないからね。働きやすい環境っていうのもあるし、こちらにもメリットはあるので、定期的に顔を出している。
「よい、しょっと」
生身の俺は軽く声を出し、ゴーレム相手に剣を振るう。
岩でできたゴーレムは、肘関節部分の魔力接合を断たれ、右腕を落とす。
腕一本分、リーチが短くなったら懐に潜り込むのも簡単で、片足を同じように切り落とし、倒れた所で首を断てば討伐完了。ゴーレムは魔力の霧に還元され、俺の経験値になった後はダンジョンに還っていく。
現在は縛りプレイのため、バトルクロス無し、精霊銀の魔法剣も無し、使う武器は鬼鉄製の剣に限定している。
けど、ゴーレムのような相手であれば、それで十分。
どちらを使ってもリアル無双ゲーができるんだけど、それに頼り過ぎると腕が鈍るので、こうやって戦い方を限定して、戦闘の難易度を上げていた。
ゴーレムとは倒した数を数えるのが馬鹿らしいぐらい戦っているので、これぐらいやってもまだ安全マージンは取れている。
本気で強くなりたいなら安全マージンを撤廃して、リスクを背負って戦うべきなんだろうけどね。まぁ、今はそこまでして強くなりたいとも考えていないし、バトルクロスを強化していく方が優先順位が高い。
下手にリスクを背負って失敗して、大怪我でもしようものならマヌケと言われても仕方がない。
もっと大切なやるべき事があるので、自分の中でも優先度の低い個人のワガママなんてどうでもいい。運動不足を解消する程度の働きで落ち着いておこう。
「光織、六花、晴海。そっちはどう?」
「ツルハシこそ、最強」
「ドリルに貫けぬもの無し」
「殴って終わりー」
なお、三人娘の方も魔法剣の使用禁止の縛りを入れてみた。
三人もゴーレムとは散々戦っているので、その程度で今更苦戦などしない。余裕を持って勝利している。
魔法剣どころかメインウェポンまで封印し、ゴーレム戦に挑んでいたのだが。
いや、ツルハシと拳はともかく、ドリルかよ。
縛り以前にネタ装備で倒すのはゴーレムが哀れだからやめてやれよ……。
本人にお任せで持ち込んだ武器を確認しなかった俺にも非はあるが、俺はあり得ない回転速度のドリルを装備した六花に、がっくりと肩を落とした。
「いったいどうやったんだ? 今までドリルで戦ってはいなかったよな」
三人娘は基本的にどころか応用的にも、俺がダンジョンに行かないと、ダンジョンに入ろうとしない。
そんな中で、俺は六花がドリルを強化していたとは知らずにいた。
目の前のドリルはゴーレムに通用するぐらいのレベルアップを重ねており、戦闘用として実用性があると判断できる性能を持っている。
少なくとも、一ヶ月や二ヶ月でどうにかなる話ではなく、もっと、ずっと前から準備していたと考えるのが妥当だ。
その方法が気になったので、俺はゴーレムの相手をしつつ、六花に話を聞いてみた。
俺からの問いかけに六花は首をかしげると。
「――剣人合一、人剣合一。剣と一体となれば、それすなわち全身己の支配するところ。
剣を支配せよ。己を支配せよ。己を十全に操れてこそ、剣士は剣士たり得る。
ならば、ドリルも同じ。戦士の魂が乗ったドリルに、貫けぬもの無し」
と、よく分からない事を言った。
いや、言葉はどこかの剣豪のものを引用したんだろうけど。
最後は〇ンダムファイターの台詞のパクリだろうけど。
言っている事を、頭が理解するのを拒んだ。
要は、レベルアップさせていないドリルでも、レベルアップした自分が使う事で、レベルアップしたドリル相当にしたと。そう言っているんだと思う。
言葉として、それは理解できるけど、頭が追い付かない。
これまで、レベルアップしたロボットのパーツ交換はいつだって頭を悩ませる問題だったのだ。
レベルアップした体の中に、レベルアップしていないパーツ。
それは冒険者をするロボットにとっては明確な弱点であり、克服できない欠点だった。
最近は交換用の予備パーツをタイタンの収納スペースに放り込み、先にレベルアップさせておいて周囲との差を少なくする。外したパーツを鋳つぶして、再利用する。
そうやって誤魔化しをしながら、バランスを取る。
元々交換するところって、負荷が集中して交換頻度が高くなるように設計したところだからなぁ。
かと言って負荷を分散させた場合、一度の交換範囲が広がり、被害がより大きくなる。
どうしても、弱点は克服できなかったりするわけだ。
それがどうにかなるのであれば、これほど心強い事は無い。
ただ、それをやっているのが、すでにパーツ交換と無縁な三人娘というのが笑えないけど。
アレかな? パーツ交換が必要ないほどレベルアップしたから、こういう事ができるようになったとか、そういうオチか?
六花の返答からそこまで考えた俺は、「これ、他のロボットに応用できない事なんだろうな」とアタリを付け、一瞬のぬか喜びから気落ちして、肩を落とすのだった。




