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コネクション④

 コネという名の人の縁っていうのは面倒くさい。

 コネとの利害一致や信頼の積み重ねは一朝一夕にいかず、時間経過で簡単に劣化するからだ。一回何かしたらもう大丈夫といった物ではなく、維持にも労力を割かなきゃいけない。


 なので、本当にコネと言える相手は厳選した方が良い。友達は選んで作るものではないが、コネは選んで作るものなのだ。

 いや、そもそも友達なんて「作る」ものじゃなかったな。普通は友達に「なる」んだから。





 入谷さんとの関係も大事だけど、それ以外にも、付き合いはある。


「一文字さん! お久しぶりです」

「またしばらく、厄介になりますね」


 今日は埼玉に、いつものダンジョンを攻略するためにやって来た。

 最寄りの冒険者ギルドに顔を出し、職員さんと近況の話をする。


「ガーゴイルやゴーレムまで相手にしてくれる冒険者に至っては、本当に増えてくれませんから」

「まぁ、こちらもできるだけ戦力を回しますから」


 オーガ、ガーゴイル、ゴーレムが出るダンジョンは、あまり人が来ない。

 冒険者から稼ぎにくいダンジョンと見做されているので仕方がない。


 そうなるとこのダンジョンを買い上げたくなるんだけど、不人気ダンジョンほど人が来ないわけでもなく、ダンジョンの資産価値はそこまで低くない。

 嫌な話だけど、少数でも冒険者が定期的にオーガを狩りに来る間は、うちの会社でこのダンジョンを買い上げられないのだ。

 銀行に大きく借金をして無理をすれば買えるだけの資金は出せるけど、投資した資金を回収するには時間がかかるため、そこまで大胆に踏み切ることができずにいる。



 中途半端なダンジョンの現状はギルド職員から見ても困ったもので、いっその事、人がまったく来なくなって、俺たちに買い上げてもらえた方が嬉しいと愚痴をこぼす。


「一時期の、一文字さんに何か言っていたような連中は来なくなりましたが、それでもまだ空気が良くならないと言いますか。困った連中はまだ多いんですよ」


 冒険者ギルドは、冒険者と企業の中間の存在だ。基本的な業務形態はネットオークションの運営会社に近い。

 冒険者と企業が直接、物とお金のやり取りをした場合は詐欺が横行するので、ギルドが間に入ってそれぞれの信用を担保するように動いている。


 そんなギルドは冒険者からはもっと高く買い取って欲しいと言われるし、企業からはもっと安くならないかと相談を受ける。この職員さんは冒険者の相手だけだが、それでも大変なのだという。

 冒険者ギルドがドロップアイテムの値段を決めているわけではなく、間に入って値段のやり取りをさせない事で市場を安定化させている存在なわけだが、それでも道理を弁えず交渉をしてくる馬鹿は大勢いる。

 冒険者は企業を信用していないので、自分たちのドロップアイテムを安く買い叩かれていないかと不満に思っているのはデフォルトだが、それで騒がれ迷惑を被る者にしてみれば黙れと言いたくもなるだろう。



 高品質な魔石の需要は相変わらず満たされないままで、ゴブリンやオークの魔石で満足できないって話は有名なので、もっと高く売れても良いじゃないか。

 そんな事を言ったところで、実際に商品化して物を売ろうとすれば、企業も利益を出さなきゃいけないわけで。利益を確保しようと思えば、魔石の買取価格は需要を満たしていなくてもどこかで止まる。どこも青天井の予算で買い付けをしているわけではないので、供給不足だろうと意外と値上がりをしないのだ。


 株なんかも企業の実態を無視して値上がりする事があるけど、最終的には企業価値に即した値段で安定化する。

 一時的なイベントによる急激な価格の上下、波はあっても、どこかでバランスが取れるのだ。

 ドロップアイテムの何らかの有効な利用方法でも見付からない限り、買取価格は大きく変動しない。



「それを、最近は物価が値上がりした、だから買取価格も上げなきゃいけないとか。知りませんよ、そんなの」

「上を目指す気力は無くても、お金はもっと欲しい。言っている事は分からなくも無いんですけどねぇ。それをギルドに言っても」

「そうなんですよー」


 愚痴を聞き、言葉に同意し、寄り添う。

 俺もダンジョンに行く前ではあるが、友達のように接する事で得られる信頼もある。

 実際、職員さんの話は自分も身につまされる部分があるので、打算を抜きにしても親身になって話を聞く分には、そこまでストレスでもない。こういった話の中にも役に立つ情報が混じっているので、言うほど無駄でもない。



「っと、すみません! 長々と」

「いえいえ、構いませんよ」


 何より、ここのギルドには世話になっているので、ちょっとぐらいの付き合いはしておくべきだと思っている。

 日頃の感謝は態度で示さないとね。

 心の中で思っているだけでは、何にもならないんだから。

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