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コネクション③

 人間、見ず知らずの相手を無償で助けるなんて殊勝な真似はしない。

 気が向けばそういった事、例えば募金などをする事もあるが、基本的には放置である。

 海の向こう、世界の裏側で餓死している子供がいる事は知っているけど、だからと言って身銭を切るような真似はしない。自分の幸せのためにお金を使っている。


 逆に、親しい知り合いが困っていれば手を貸そうと思うものだ。

 こちらに余裕が無ければ助けられないと諦めもするが、助けられるのであれば助けるのが普通だろう。そうする相手を「親しい人」と言うのだから。

 出来る範囲、常識の中で助け合うのが人間なのだ。



 コネクション、業務上で知り得た関係は、こちらを助ける価値のある人間だと認識させることが重要だ。

 打算的な、お金を含んだやり取りだけに終始していては、何かあった時に簡単に切り捨てられる。

 金の切れ目が縁の切れ目。仕事上の付き合いはそういった性質が強い。


 だから相手の私生活にある程度踏み込み、自身の私生活に招き入れ、「身内」になろうとする。

 営業職の言う事なんだけど、「客の仕事に付き合って半人前、客の私事(しごと)に付き合って一人前」なんて世界なのだ。

 休日の接待ゴルフに笑顔で付き合うのを無駄と馬鹿にする人もいるけど、それをしない人とそれをする人であれば、それをする人を優先するのが人情であり、一般的な対応なのは誰でも分かる。

 「仕事に私情を持ち込むなんて」と叫ぶのは頭の弱い人間の発言でしかなく、努力もせずに結果を求める情弱のたわごと。やる事をやっている人間がやらない奴より成果を掴むのは正常な事でしかない。


 まぁ、勿論法に触れる範囲の賄賂などは論外だし、接待よりもビジネスで勝負をかける事だって間違いじゃないよ。

 ただ、「信頼関係」って言葉をビジネスだけで考える人間は、本当の意味で人間を分かっていないと思うわけだ。



 いつ「いざ」って時が来るか分からないのであれば、普段からリソースを割いてちゃんと備える事が大切だ。

 仕事上しか顔を合わせない、普段から距離を取っている奴から有事に慌てて助けてくれと言ったところで、誰も助けてくれない。助けるだけの価値を示さねば話にならない。

 積み重ね(コネクション)は、だからこそ強いのである。


 仕事で顔を合わせ、そこに雑談を交えて私事に踏み込む。

 相手の無理を聞き入れ、難事に取り組む。

 時には自社の現場の仲間を売るような営業をする事になるが、会社的には利益が出るなら、時にはそういう事もするだろう。売られた現場の人間はたいそう恨むけどね、間違いなく。ただ、恨まれた分だけの実入りはあると思うよ。……大した実入りもないのに現場の人間を売るような真似は、マジでやめろよ? 客相手だからって考え無しにハイハイ言うなよ?



 営業の考え無しの行動にちょっと思考が逸れてしまったが、自分が助けて欲しいと思うなら、相応の態度を見せるべきだと思う訳だ。

 動かない奴は助けてもらえなくても当たり前。それが自助努力であり、相互協力と言える。

 助けて欲しいとか、もっと太い関係になりたいと思われれば、人は動く。

 漠然と「助けて欲しいな」程度の、棚ボタが期待できるほど、俺に人徳は無いのである。





 なお、こういった考え方は俺特有の物ではなく、わりと多くの人が同じ考えでいる。


「ここのお菓子はなかなかの物なんですけどね。お店の人があまりネット戦略に詳しくなくて、隠れた名店扱いなんですよ」


 だから、俺はお菓子を手土産に持ってきた入谷さんの相手をしていた。


 入谷さんは無敵な人でもなんでもない、ベテランではあっても一介の市議会議員。いざって時に助けて欲しいと思うのは俺たちだけでなく、入谷さんの側もそうなのだから。

 これは何かあった時のために保険が欲しいと考える入谷さん(小兵)の戦略であった。


 俺たちが入谷さんに助けて欲しいと思うように、入谷さんも俺たちに助けを求める事があるならこういった展開も不思議じゃない。

 加えて、失点があったばかりとなれば汚名返上、名誉挽回のために行動する事は間違っていない。むしろここで動かなければ、入谷さんは俺たちを軽視していると思われかねなかった。

 空気を読んでこういった行動がとれるかどうかが、仕事の出来る人間とそうでない人間の差なのだ。


 出来る人間だからこそ、細かい部分もしっかりしている。

 手土産などはバレれば贈収賄の罪に問われるから持って来ないようにするのが議員の常識だが、それを購入した人間をちょいちょい細工すると、無罪が成立する。送り主はスパイの親で、共通の知人である入谷さんは「合わせる顔が無いと言われ受け渡しの役を頼まれただけで、自分が購入した物、自分名義の物ではない」という小細工である。

 実際、自分の懐からお金を出してもいないので、調べたところで何も出てこないクリーンなお土産という事になる。送り主にはお土産を用意してこちらに渡す理由もあるからね。


 たかが1000円程度の手土産一つに気を遣い過ぎと言われるかもしれないが、1000円だろうと100円だろうと贈収賄が成立するのが日本の法律なので、気を抜けないので大変そうだ。

 個人的には、そこまで潔癖にする意味があるのかと言いたいよ。缶コーヒーを奢ってもらうのすらNGとか面倒くさすぎる。そりゃ、議員になりたい人も減るよ。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 面白いんですが、ここ最近の話は物語というか、作者さんの哲学を書く場になっているように感じます AIに政策評価させる辺り(261話以降)から、そう感じるようになりました。
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