俺とおっさんと今後の方針
四宮教授は答えの出ない問題で完全にフリーズした。
きっと、頭が良すぎるから俺には見えない、分からない問題が見えているんだろう。
対処すべき問題が多すぎて、身動きできなくなっていた。
俺の経験則で言えば、こんな時は他の誰かに相談するべきだと思う。
もしくは答えが出ない事を認め、考えるのを止めてしまう。
自分では答えが出ないと認められないのではなく、周りを巻き込んでしまうのを恐れているかもしれないが、それは既に手遅れである。
俺はともかく、及川准教授やその他の仲間たちにまで隠し通すことは難しく、きっと、いいや、確実にいずれバレるだろう。
隠してバレるのと、隠さず話すのとでは周囲の印象が違う。
ここは自分から話すのが最善だと思うぞ。
なお、俺が及川准教授に原神のレベルアップについて話をするのはたぶんNGである。四宮教授が機嫌を損ねるからだ。
原神の技術情報を外に漏らすのはNGだが、及川准教授は原神の開発者の一人であるし、そもそも原神のレベルアップは仕様外の話なので秘密にすべき技術情報ではない。
ただ、勝手に情報を漏らせば機嫌を損ねるのが人間である。俺だって、隠しておきたい事を知らない所で人に話されたら気分が悪い。
時には嫌われる事を覚悟で注意や忠告をするのが親しい友人なのだろうが、俺は四宮教授とそこまで親しくなった覚えが無いし。
そんな訳で、半分放置だ。
「もしもし。及川准教授ですか?」
いやまぁ。お節介だとは思うけど、嫌われない程度のちょっとぐらいは何かするんだけどね。
そうやって仕込みを終えたら、俺は作った鉄-ゴブリンメタル合金製の剣を持ってダンジョンに入った。
「うん。いい感じ」
剣に魔力を通してみる。
すると、魔力は普通の鉄よりもするっと全体に行き渡り、強度を増した。
この合金は金属としての基本性能は鉄と同じぐらいでありながら、鉄よりもずいぶん魔力への親和性が高くなっている。
言うなれば、鉄をレベルアップさせた状態である。
本来であれば長い時間をかけて戦闘に使い続け、レベルアップをさせなければいけない所を、大幅にショートカットしたようなものだ。
割とレベルの高い鉄が楽に手に入るのであれば、実用性は十分ではないだろうか?
「でも、なんで他の人は気が付かなかった?」
気になるのは、大手企業がこの事に気が付いていない事だ。
普通に考えれば、大企業だってこれぐらいの試験はしているはずである。
物理特性と魔力特性の両方をチェックしている訳で、気が付いていたのであれば売値の無いゴブリンメタルに買取価格が設定されたとしても不思議はない。
いくらそれ以上の金属に目が向いているとは言っても、未調査のままにしておくほど、企業が間抜けだとは思えなかった。
――もしかしたら、値段が付かないように、秘密裏にゴブリンメタルを集めている?
ふと、そんなことを考え付いた。
そう考えると、しっくりくる。
気が付いていないのではなく、秘匿しているだけ。
表に出てくる情報だけが全てではないので、気が付いている企業はあるけれど、まだ成果が世に公開されていないだけかもしれない。
「じゃあ、俺がバラしたらどうなるかね? 恨まれるな、間違いなく」
この情報が未公開の技術情報だとして、それを個人である俺がネットなどに流したら、どうなるか?
今の世の中、俺のように個人で鍛冶を嗜む変わり者が多数いるので、検証する奴が出てきて、本当だとすぐに証明されるだろう。
そうなれば特許を取ろうとしていた会社などがあった場合、その企業は大きな利益を逃す訳だ。それはそれは、恨まれるだろう。
これが企業であれば恨まれたところで怖くないのかもしれないが、俺はあくまでも小市民。
身を守るすべもないのに下手な手を打ちたくはない。
「これも及川准教授に相談かな?」
及川准教授であれば、この情報を活用してくれるだろう。
ついでに俺へと利益還元してくれるかもしれない。
合金が完成したと言うには、まだまだ細かい割合を探り出す工程が残っていた。
通常の合金は0.1%単位で最適解を探りだすものなので、ここからさらに踏み込んで研究をしていく必要がある。
こんな重さ10%単位の雑な数字では、もっと良い数値を先に見つけられ特許を盗られるような未来を迎えるだろう。上手くやれば世間を味方につける事も可能だろうけど、俺はネットで人を扇動するような技術を持ち合わせていないので、手を出されないためにもう少し細かい数字を見ていきたい。
「あ。鉄と銅と、ゴブリンメタルの3種類を混ぜた場合はどうなるんだ?」
いや、鉄と銅で合金って作れたっけ?
それと、炭素や他の金属を混ぜるパターンもあったな。ステンレス的に。
「お? もしかして、これ、終わりが見えない?」
色々と考えていたら、なんか自分が凄く先の長い事をやろうとしているのに気が付いた。
原神レベルアップの問題だけではない。終わりの見えない問いかけは、こんな所にもあったのだ。
「まぁ、チマチマやるだけだが」
俺は問題に対し考えるよりも、行動で対処することにした。