新装備開発・万華鋼編③
可変ロボ開発に半年ほどかかるという予想は、そこまで間違った推測ではない。
初めての試みがいきなり上手くいくなんてのは稀な話だし、それを当たり前のように求めるのは間違っている。
生産とは、設計と現場の経験がとても重要なのだ。一朝一夕で簡単にできるなどと考えてはいけない。
「却下。バランスが悪すぎるよ」
「そうですよね。左右対称にしたとしても、肩の部分が大きすぎますね」
そんな訳で、駄目出しの時間だ。
俺は試作された模型に対し、「アウト」と冷たく言い放った。
最終形の完成に半年時間がかかると言っても、その過程の段階だって監査はできる。
開発チームにはまず小型の模型を作らせ、ロボットの形状だけで合否を決めていた。
作られた模型を見ると、肩の部分に大きな荷物が付いていて、とても歪な形をしていた。
妹を学校に通わせようと頑張った主人公が出てくる戦争ロボットアニメの、くすんだ緑色をした巨大ロボットも、なんか肩にとてもでっかいパーツを付けていたのだが、今回の試作模型はそれを思い出させる。
ロボットの造形としてはカッコイイんだけど……これ、かなり重量バランスが崩れるので、実際に使う人間としては駄目だと言ってしまうよ。
実際にそんなものが肩にくっついていると、歩く時の上半身のひねりで発生する運動エネルギーが大きくなって歩きにくくなるとか、腕を振る時に相応の出力が要るようになるか、それとも腕と連動させず動かす邪魔になるとか。問題点が多すぎる。
有り体に言えば、これは無しであった。
「実際にコスプレでもやってみる? ロボ娘とか、そういったネタってあったよね。自分で体感してみれば、俺の言っている事がわかると思う」
「ちなみに、ですが。この肩の追加部分を背中に持っていった場合はどうでしょうか?」
「あ、それならOKです。バックパックを背負うのと変わりませんし」
「では、その様に再検討してみますね」
こちらとしても、最初からあまり条件を付けることができない。
アレが駄目、コレが駄目というのは、初回だと制限し辛いのである。 “駄目”の範囲が広すぎるため、言い出すとキリが無いのだ。ふわっとした要求事項が多くなるのは仕方がないのだ。
一応、「動きを阻害しない」「全体の重量バランスを考える」など、常識的な要求はしていたんだけどね。
そして、開発チームがロボットアニメを参考にデザインするのは仕方がない。
彼らにしてみれば、指標があまり定まっておらず、何でもできる状況での初期製作案である。失敗上等、企画が通ってくれれば幸運とばかりにロマンを求めたネタに走る。
一応でも左右のバランスは考えられていたし、こちらがやったロボットの変形・合体などという無茶振りを形にしたのだから、どこかに不具合があるってだけで責めを負わせる気はないよ。叩き台ができたので、ここから意見をすり合わせていくだけだ。
ブラッシュアップは開発の基本である。
「他に、何か要望はありますか?」
「形状的な問題はそれぐらいですね。あとは強度や出力とか、性能面の問題ぐらいだと思います」
「なるほど、分かりました」
そうやって小さな模型で初期の大雑把な方針を打ち立てる。
ここからは実物大の試作品を作り、より現物に近い形で不具合や問題点が無いかを見ていく。
「人型ロボットとして体を動かすのと、人型ロボットの腕の部分だけになって動くのとでは駆動方式が全く違うんですけれど。これに機構を全部組み込める事を祈っておいてくださいね」
「……残念ですが、祈りは届かず、あとは人の手でどうにかするしかないようですよ」
「人生、ですねぇ」
俺自身、現物無しで出来るアドバイスは限られるため、そこから先は物が出来上がらないと言えない事も多くある。
実際にやってみなければわからない。「もっと早く言ってくださいよ」と愚痴られる事になると分っていても、どうも出来ないのだから諦めてもらうしかない。
完璧に問題を予測しきるなんてことができるなら、そいつは天才だと思うし、むしろ俺に代わって問題の洗い出しをしてくれと言うかな。
俺は問題を指摘するものの、責任は取らせない。
なので、俺の指摘が遅いのも許して欲しいと思うのだった。




