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新装備開発・万華鋼編②

 職場の会議室。

 俺は及川教授や他の開発メンバーと、防諜設備の整った部屋で新装備の話をしていた。



 カートリッジ式のような単純な構造であれば開発期間など無いような物だが、小型の人型ロボットを変形させてパワードスーツの腕にするという奇抜なアイディアを実現するには、かなりの時間がかかる。

 その開発期間は作るまでだけではない。作った後も関係してくる。


「レベルアップだけなら、タイタン初期型で十分対応できるけど。人格を持たせ、使えるようになるのはずいぶん先でしょうね。

 もしかしたら、俺が万華鋼を自在に操れるようになるのが先かもしれませんね」

「一文字さんは特殊な人ですから。他の人でも真似できるレベルじゃありませんから、人類の例外ですよ」

「さすがにその言い方は酷くありませんか?」

「上の上の冒険者さんたちにはさすがに敵わないようですが。それでも、今の一文字さんは上の下に位置する、わりと凄い冒険者じゃないですか。あまりご自身を一般人扱いしないで下さいね?」


 自我持ちロボットにしか扱えない万華鋼装備を渡すのだから、作った後は相応のレベルアップをしなければいけない。

 これから図面を引くのだから、こちらに配備されるまで短く見積もって3ヶ月から半年はかかると思う。

 これでも常識外の無理をさせるような話なんだけど、納品まで半年とか言われると、長いと思ってしまうこの不思議。開発者とユーザー、二つの視点の温度差が凄いよ。



 まぁ、開発チームに無理をさせたくはないので、現実には下手すれば1年とか、それぐらい待たされることもあるだろうね。

 人型ロボットの製作ノウハウはあるけど、変形や合体をするロボットの開発はしてこなかったし。

 初の試みだけに、ノウハウの無い開発初期はきっと失敗が積み重なるんだろうな。



 ……ロマンで企画書が提出された事もあったけど、あの時はこんなものが必要になるだなんて考えもしなかったし。普通に却下していたな。

 こんな事になる事が想像できた人は、たぶんいないだろ。

 リスクと実用性を考えて動いていれば、そういう事もあるだろう。結果論だな。あんまり気にしないようにするか。こういう事があったからって、下手にロマン装備を認めるととんでもない事になりそうだからな。





「特定の魔石の魔力が必要なのは確定でしたが、発動に制御も必要となると、これは面倒ですよね」


 色々と試しているが、ちゃんとした集中、脳みその思考に割り当てられたリソースを投入しない事には、万華鋼は何もしない。


「カートリッジ式のバッテリーだけでは何の意味もないとなると……本当に打つ手がありませんよ。

 あ。そういえばなのですが、精霊銀の装備で同じようなことは出来ますか?」

「さて? 出来るかもしれないし、出来ないかもしれないし。試してみた事が無いから分からないね」


 新装備の事で及川教授と話し合いをしていたら、教授はふと思い出したように、精霊銀の魔法剣を気にした。

 アレも特殊な装備なので、何か固有の能力があるかもしれないと考えたようだ。


 この推測だけど、俺からはなんとも言えない。

 これまで光織たちがあの魔法剣を使ってガーゴイルやらゴーレムやらを切り捨てていたが、彼女らが何か特殊能力を扱ったという形跡は無い。


 これは今まで気にしていなかったので、ただ単に精霊銀にそういった能力がないのか、ただ魔石が噛み合わず能力を発現させるに至っていないのか、判別ができないのだ。

 ちゃんと調査をするなら、魔法剣に槍変換アタッチメントを使ってタイタンに持たせるか、光織たちのバッテリーを専用の物に入れ替えて調べればいいと思われがちだけどね。その辺、そう簡単な話でもない。


 問題の半分は、実験に使う魔石の確保。

 確証の無い直感ではあるけど、メジェドの神官の魔石だろうが他の魔石だろうが、精霊(・・)銀は反応しないと思うんだよ。

 もっと上のランクのモンスターを倒しに行って、そいつらの魔石を確保しないといけない。

 上のランクのモンスターともなれば戦闘時のリスクも相応に跳ね上がるので、魔石集めが大変なのだ。


 残りの問題は、これまた試行の量が膨大になるだろう点かな。

 万華鋼は事前にアタリを付けて動いたからまだマシだけど、事前情報ゼロで調査を行うのは、時間とコストがかかる。

 どこからどう手を付ければいいか分からないし、上手くいく保証も無い。下手をすると、いや高い確率で徒労に終わる。最悪なのは、ドロップさせた変異種オーガの魔石っていうオチだろうし。もう手に入らないんだよ。


 よって、そっち方面に手を出そうという気にはなれなかった。

 物理法則を無視した高い切れ味と魔法の発動補助をする精霊銀は、現状でも強力な武器だ。無理をする必要もない。

 ……魔法の発動を、補助?



「あああ!っ!!」

「うわっ!? どうしたんですか?」

「精霊銀の魔法剣! あれをベースに、オプション装備として使えば、あるいは!」

「え? え?」


 それは、ふとした閃きだった。

 万華鋼の装備は、何も武器や装甲だけに限定する必要など無かった。

 魔法剣を槍に変えるアタッチメントじゃないけど、何らかの補助兵装として使えば、あるいは!


 俺は突然大声を出されロクな説明もされず、状況が飲み込めなくて目を開いた及川教授を放置すると、自身の考えを形にするべく、急いで自分の机に戻るのだった。

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