俺と原神とレベルアップ
俺の使う『魔力式溶鉱炉』は、3日に一回しか使えないという欠陥がある。
しかも、炉の中に投入する金属は追加ができず、炉の中に入れた分しか融かせない。
よって、一回の精錬で得られる金属量は一立方メートルに満たず、頑張ったとしても精錬できるのはその10分の1ぐらいだ。
また、一回の精錬では上手く不純物が取り除けないため、2回炉にくべて精錬を行うため、実質はその半分程度。
そうなると二回につき最大で800㎏近いゴブリンメタルが得られるわけで、買ってから2ヶ月と少しの間に18回ほど炉を稼働させた結果、5トンを超えるゴブリンメタルが生産され、在庫として存在する。
毎回最大値まで武器のドロップアイテムが集まった訳ではないので、5トンでも頑張った方だと思う。
そのままでは売れはしない、不良在庫品でしかないゴブリンメタルを鉄や銅と混ぜ合わせ、どのように特性が変わるか、一ヶ月間ほど頑張ってみた。
その結果は。
「鉄であれば10%、銅の場合は20%か。これがベストかな?」
「ふーむ。しかしだね、銅の方は実用性が無いね。銅をそのまま使うのは、電線か料理器具ぐらいしか思いつかないからね!
鉄の方は、もう少し細かい数字を探ってみても良いだろうか。こちらは実用性十分だとも!!」
俺はまず、鉄と銅のそれぞれにゴブリンメタルを同量合わせて合金を作ってみた。
で、その後にゴブリンメタルが80%と20%の物を作り、それぞれの特性をチェック。
どちらもゴブリンメタル少な目が元の金属よりほんのわずかに劣る程度の特性を出し、多くなるにつれ数値が全体的に悪化したため、混ぜるにしても少量がベターであると判断した。
その後、30%と10%で特性を確認してみた。
鉄は10%の方が数字が良く、銅はどちらもいい数字が出ないという結果が出た。
試行回数10回。
その範囲では頑張った方だと思う。
四宮教授はここからが本番だと言わんばかりで、さらに細かい数字を探り当てていくべきだと主張するが、その表情はヤケクソに近いものが浮かんでいた。
と、言うのも、それと並行して行っていた、原神の方に変化があったからだ。
これをどうするか、その扱いに頭を抱えていたからである。
「教授。もう諦めた方が良いと思いますよ」
「分かっている! 分かってはいるんだ!
だが、本当にどうするべきか、誰も判断がつかないのだよ!!」
四宮教授は、見た目通り豪快な所がある人だ。
その四宮教授ですら、今の原神の扱いは、どうすればいいか判断しきれないものになっている。
「まさか、原神が『レベルアップ』するだなんて!」
「いえいえ、レベルアップは順当だと思いますよ? 原神に自我が芽生えるというのは、俺も想定外ですが。レベルアップまでは普通に起こり得る事ですって。
でも、これまで似たような事をしてきた……のは、いませんよねぇ。ダンジョンに人型ロボットを投入する前例は確認されていないか」
「ああああぁぁぁ……っ!!」
いったい何があったのか?
それは、人型ロボットである原神が、魔力を帯びたゴーレムのようなものになっていたのである。
ついでにAIが進化してソフトウェアが書き換え不可能になり、まだ自我は無い物の、それぞれ個性を獲得しつつある。
下手をすると、いずれ原神は自我を獲得し、一個の生命になるかもしれなかったのだ。
通常、ダンジョンでモンスターを倒していると、人であれば魔力を扱えるようになる。
魔力を消費して身体能力を向上させたり、魔法を使ったりできるようになるのだ。
また、モンスターを倒す数を増やしたり、強いモンスターを倒す事で扱える魔力が増大していく事が確認されている。
そうやって魔力を扱えるようになる事、使える魔力が増える事を『レベルアップする』と言う。
同時に、武器がレベルアップする事も知られている。
こちらは武器に魔力が通しやすくなるとか、武器が魔力を帯びるといった現象を言う。
この現象なら希少な話という事は無く、一応、俺の持つ水属性の槍などはこれに該当する。
ソフト屋である四宮教授にしてみれば、プログラムの力を借りずにソフトウェアが進化したとか言われるのは悪夢だ。
プログラムが人間の手を借りない進歩をすると言われてしまえばソフト屋はその存在意義を失い、仕事も誇りも失う。
その最初の段階を作り上げたと言えば聞こえはいいが、それはそれで大きな責任が発生しそうで恐ろしい。
「凄いロボットを開発した」程度であれば、人に自慢できる程度の功績に過ぎない。
しかし「ロボットに自我が芽生えた」となれば、一つの種族を生み出したと言えるし、その名前は歴史の教科書に載るようなものだと思う。
俺はあくまで協力者としてちょっと手を貸した程度の扱いになるだろうから、関係者に準ずる者として多少は騒がれるだろうけど、完全な身内ではないし?
ほら、及川准教授から、利害関係者であって開発関係者から外れるようにしっかりと手を打たれているし?
ぶっちゃけ、他人事のようなものである。
これまで、ダンジョンには機銃付きドローンのような無人兵器が投入されてきた。
だがしかし、戦車タイプの砲撃ドローンや、そのアシストを行う索敵用偵察ドローンのような、人型ではないロボットばかりであった。
原神のような、人型ではないのである。
まぁ、人型であった事が条件かどうかは分からないけど、ドローンが自我を持ったとか、そういう話は聞かないので、俺は人型がネックだったのではないかと思う次第である。
この辺りは目の当たりにした実例が少なすぎるので、ただの勘、想像の産物でしかない。
「人型ロボットの新たな可能性ですね。論文でも出せばノーベル賞、貰えるかもしれませんよ。
あ、その時は再現性を確認するとかで、原神の追加投入をしないといけないのかな?」
「私は、この情報を、原神を、どう扱えばいいのだっ!?」
「公開してしまってもいいと思いますがね? こういう時は少数で悩むより、みんなで考えるものでしょう」
「社会に与えるインパクトが大きすぎるのだよ!!」
言っている事は分かるが、何も聞かされていない及川准教授によって、もうすぐ原神がダンジョンに挑んでいる所を動画で公開されようとしていた。
四宮教授は早く決断をしなければいけなかった。




