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新素材④

 万華鋼の生産量拡大は、伸縮自在の万華鋼が上手くいった時点で既定路線だった。

 事前の根回しも終わっていたし、あとは定例会議で正式に承認を貰うだけだったから良かったものの、そうでなければ溶鉱炉の購入費用は四宮教授の自腹だった。

 そうなれば溶鉱炉を使いダンジョン合金を作って稼げばいいと四宮教授は考えていたが、その場合は税金関連が面倒な事になって支出と書類が増えるので、認めたくはないといったところ。


 自社で賄うのと外部から購入するのは全く違う。

 少数生産の万華鋼は、社員食堂のような外部委託した方が安くつくものや、板金素材などのように専門性が高く自社で賄うと業種が変わりそうな物ではないのだ。


「スピード感が大事というのは分かりますが、あまり無茶はしないでください」

「ははは! それは無理な相談だね!」

「自分に不利益が出ない範囲で諦めた方が良いですよ」


 ハイリスクな動きをした四宮教授に釘を刺すが、本人はまるで反省していない。

 及川教授は「私はもう諦めました」と苦笑してそれを受け入れている。付き合いが長く、俺よりも深く関わってきた相手だけに、苦笑だけで済ませられるようだ。

 残念ながら俺はその域に達していないし、そうなる予定もない。今後も何かあれば苦言を呈するつもりだ。





「次の万華鋼に、何らかの手段で、持たせる特殊能力の方向性を制御したいのですよ」


 炉を増やしたところで、次の生産までは間が開いてしまう。

 そこで俺は、万華鋼の持つ特殊能力をどうにかしてコントロールできないか、話し合うことにした。



「付与する特殊能力の方向性を制御するといったところで、まだ条件の特定をするには、サンプルが足りませんよ」

「その通りだね。壁にしたら攻撃反射、剣にしたら伸び縮み。そこに再現性はあるのか、再加工の際に形状を変えたらどうなるのか。まだまだ調べるべき事は多々あるのだよ。

 一足飛びに結果は出ないからね。その目的であれば、まずは確りとした足場を固めようではないか」


 教授二人は俺の意見に対し、「それを言うにはまだ早い」と否定の姿勢を見せた。

 いや。俺の目的そのものは良いとして、それに必要な基礎研究を先に進めるべきだと言っている。

 実際、万華鋼の特殊能力にはまだ不明な点もあるし、調べねばならない、やるべき事は山積みだよね。

 そして、そういった事情があるなら、できるだけ次に作る万華鋼も前回と同じような条件を整えた方が都合が良い。



 ただ、それを分かっていても、これはこれで早めに決めておきたい議題でもあるんだ。

 これはこれで、すぐに動いてサンプルが欲しい事なんだよ。


「俺がやりたい事は、主に二つです。

 まず一つ目。期間中、タイタンがそれぞれのダンジョンを巡回するんですけど、その時に使うタイタンの魔石燃料。これを片方だけ、できるだけメジェドの神官の魔石にしたい。そういう話なんですね。

 もう一つは、溶鉱炉に使う魔石をメジェドの神官の物……だとちょっと調達が厳しいので、エメラルドウルフの魔石に限定しましょうか。それが影響を与えるかどうか、調べてみたいんですね。

 正直、この辺りはあまり考えずにやっていたので、少し細かくデータを取りたいんですよ」


 たぶん、得られる特殊能力は使った魔石が影響しているんじゃないかと思う訳です。

 そこに形状という要素が加わって、特殊能力が形作られる。

 あとはタイタンの魔石燃料か、溶鉱炉の燃料か。そのどちらかに絞っていきたい。あ、両方の可能性も有ったな。

 とにかく、魔石と特殊能力の関係を見ていこうと思っている。



「それぐらいならば、問題無いのかな?」

「それぞれに使った魔石は今からでも調べられますので、まずはそちらを調べてみましょう。魔石が特殊能力に関係しているのなら、そこから逆算できるかもしれませんね。

 ですが、これまではかなり雑多に使ってきたので、特定のモンスターの魔石が多い、という傾向は掴めても、そこまでどれか一つが影響するとは思えません」


 俺が言葉足らずな自分の考えを説明すると、二人はようやく納得してくれた。

 面倒臭い話かもしれないけど、「影響がある」前提で動いた方が今後の条件の統一に繋がると、その様に判断したのだと思う。


 特殊能力の使用にメジェドの神官の魔石が必要というのなら、インゴット精錬の段階でも魔石は万華鋼に何かしらの影響を与えていると思うんだよ。

 そこまで、ちょっとぐらい意識しておかないと、余計な遠回りになりかねない。

 コンビニ弁当の添加物ではないけど、意識しないと表示されないデータって結構あるからね。表示項目は自分で設定しないといけないのだ。





「それならいっそ、魔石を砕いて、直接合金に混ぜてしまいたいね」

「それ、ただの不純物になってお仕舞いっていうのが定説ですよね。鉄の塊に砂を混ぜてもまともな合金にならないとか、そういう話と同じで」

「そうだね。今のところ、魔石を使って合金を作れた例は存在しないね。

 だけど、だよ。それを言い出せば、鬼鉄も既存の常識を超えて作られた合金だからね。魔石を用いた合金も、何らかの手段で作れるのではないかと、私は考えているよ」


 ……どうだろう?

 元素間融合とか、ナノ粒子にする事で混ざり合わない金属が混ざる技術もあるけど、魔石はそれでも混ざらなかったっていう話だからなぁ。

 俺の個人的な感覚では、何をしても混ざらないと思う訳だけど。

 「できない事を証明する」のも、科学の世界では必要なわけだから。やった方が良いんだろうか?



 ま、これも「いずれ」の話だな。

 何年か先でも覚えていたらか、会社の規模が大きくなってそういった事に手が出せるほどのゆとりができてからだ。

 今は目の前の万華鋼に集中する時なんだし。

 魔石の合金なんて、考える余裕は無いよね。

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