海外の反応
与党の政策が評価されたり、売国行為だと叩かれたり。
野党の「とにかく与党に反発する」姿勢が全くの無駄で、何の役にも立っていないと貶されたり。
AIの政治評論は、なかなか愉快なお祭り騒ぎであった。
この一連の騒動は、政治に興味が無かった連中に政治に興味を持たせた。
そして政治の在り方へ波紋を起こした。
芽が出るのはずっと先の話だろうけど、何かの一歩を踏み出させたのだ。
政治家の腐敗は、民衆の、政治への無関心も関係しいる。
世の中も、少しはマシになるだろうさ。
……そんな事を考えていた時期もありました。
むしろ、AIの政治参入は人にはまだ早すぎたのかもしれない。
日本は良かったかもしれないけど、海外はかなり悲惨な事件を生み出していた。
まず、アメリカ。
「さすが訴訟の国」
「金返せと大合唱だね。暴動にまで発展しているのだよ」
日本人だって、人のミスを集団で叩く事は多い。
しかしアメリカ人は叩くだけでなく、訴訟も起こす。
政治家のミスが具現化した事で、責任追及に訴訟がワンセットで大騒ぎになっていた。
ミスが意図的であると疑われたのも不味かった。
そういった政治への疑惑がいくつもAIによって指摘されると、図らずもアメリカ全土で政治家を引きずり降ろそうとする運動になった。
ついでに、暴動までもが最悪のアンハッピーセットである。
アメリカは割とバイオレンスに寛容と言うか、政府に対し国民は反抗する権利を認めている面があるから、そこまで踏み切る人も多いのだ。
これが、銃社会というやつの弊害である。
「EUも、これで瓦解しそうですし」
「EUというシステムも、そろそろ限界が見えていたからね。新しい方法が必要になったと見るべきではないかな」
「富の再分配といえば聞こえはいいですが、やはりEUは負担と恩恵の不平等が目立ちますからね。公平な在り方以前に、無意味な制限も多数ありますし。
一度リセットして、新しく似たような組織を立ち上げ、残すべき法と終わらせる法を考え直さないと、前例主義の悪しき慣習から抜け出せませんよ」
EUもなかなか大変で、「イギリスに続き脱退したほうが良いのでは?」という意見が目立ってきた。
と言うのも、EUに所属しないほうが経済的発展が見込める国がそれなりに見付かったからだ。
脱退した上で、新しく連合を組み直し、今の時代に合った形を目指すのが最善だというのが、多数のAIたちの意見だった。
EUの決まり事は、国の法より上として扱われる。
それらの決まり事は国にとって負担となるものも多いが、EUに所属するメリットから我慢していた国もあった。
そのメリットとデメリットが数値化された事により、デメリットが多い国の国民がEU脱退を求めだしたのである。
実際、なんでこんな事まで決めたのか疑問に思う決まり事が多数あるため、EUは過干渉が過ぎるのではと考えていた人は多かった。
AIはそんな人の背中を強く押してしまったのだ。
暴徒にこそならないが、国をまたいだデモ行進ぐらいは行なわれる。
イギリスはもう居ないのだ。ここでフランスやドイツあたりが抜けてしまえば、EUも維持ができなくなる。
政治家たちは、そうならないためにも必死に国民をなだめていた。
なお、EUの一番の目的は、ヨーロッパの紛争の抑制である。
できるだけ上手く軟着陸してほしいものだ。
東南アジアの、独裁国家は分かりやすい。
こいつが指導者だと国の未来は無いと思え。そんなのは最初から分かっているので、今更なのだ。
ごく一部の者が利益を吸うため、多数を犠牲にする。国の未来などどうでも良くて、独裁者が自分の幸せだけを追求しているのだから、当然の帰結だ。
軍隊が独裁者を守り続けるなら、反抗しても意味はない。
軍人は上官の命令を聞くものだから独裁者だろうが守ろうとするしかなく、暴力に抗えず民衆は独裁を受け入れざるを得ない。
命をかけてまで抗えなどとは、安全な日本から言っていい言葉じゃなかった。
だからAIが何を言おうが、どうにもならないのだ。
AIに寄生虫と煽られて怒り狂い、不安になった独裁者が、弾圧をしたとしても、だ。
正論を機械に突き付けられるのは、同じ人間に指摘されるよりも人の心に刺さったのである。
周囲の国には難民が溢れ、治安が悪化している。
東南アジアも、きな臭くなってしまった。
「アメリカで、暴動にロボットが使われたという話が無いのが救いだね」
「治安維持にロボットを活用する段階に至っていないのは、良かったのか悪かったのか。判断ができませんよ。
どちらがまだマシなのかは、私にも分かりません」
「そのリソースを、ダンジョン攻略に向けられないものなのかな?
暴動よりもよっぽど有意義だと、俺は思うけど」
「それが理解できないから、暴動をするのだよ。
いや、感情に従っただけなのだろうね。意義ではなく、己が己であるための試練なのだよ。人間は正しさや合理性の奴隷ではないのだからね」
海外は、AIの政治進出により混乱している。
日本の、あらゆる事をネタにするユルさは無く、国民がガチで政治家と対決する姿勢により、問題が大きくなった形だ。
日本人よりも政治に関心があり、本気で国の未来を憂いているのも、良し悪しである。
俺には理解し難いが、教授二人は達観していて、人はこんなものだと落ち着いている。
ここで俺が騒いでどうにかなるものでもない。
俺はニュースを流すテレビの電源を落とすと、仕事に戻るのだった。




