俺とおっさんと合金
さすがに複数のゴブリン相手に原神1体だけで戦わせる気にはならない。それはそれで、連携訓練をして欲しい俺の意図から外れる。
1体だけでできる事を増やしたいのではない。数の利を得るような戦い方を覚えて欲しかったのだ。
とりあえず、2体のままで戦闘訓練は続行。
「一回、俺が見本を見せたいところではありますね。原神って、そうやって人がやっている事の意味を理解して真似する機能はありますか?」
「有るには有るね。モーションプログラムの学習モードを使えばすぐに行動パターンは増やせるし、使うシチュエーションを教えておけば、そこからあとは自分に合った調整をしていくよ」
「なら、明日はそれをしてみましょうか。まずはモーションパターンの追加からですね」
今日から始めても良いんだけど、どうせやるなら今日の間に明日は何を教えるか、イメージをハッキリした形にしておきたい。
教える側がグダグダすると、教わる側がかわいそうだからな。
変な癖を付けない為にも、ちゃんとしたモーションを教えないとな。
「他にも、武器の変更なんかもやった方が良いかもしれないね。
槍は安全性が高いけど、モンスターによってはそれ以外の武器の方が良い事も多かったよね。ハンマーなんか、良いと思わないかな?」
「ああ、それなら作っている物がいくつかあるので、そこから回しましょうか」
「おや、催促したみたいで悪いね。はっはっは」
こちらはこちらで色々提案するけど、四宮教授も原神の成長を願い、色々と手を打とうとする。
お互いのアイディアは奇抜ではなく、妥当と思える程度の代物。
どこから順番に手を付けるかを話し合いながら、俺たちは今日もダンジョンの掃除を終えるのだった。
2体だけでも、原神はゴブリンよりも強いと証明されつつある。
今日も反省会をするけど、大まかな方向性はダンジョンの中で話し終えている。
すぐに反省会は終わり、話はただの雑談となる。
「そういえば、一文字君は鍛冶をしているという事だが、扱っているのはゴブリンメタルなのだよね。他の金属を扱おうとは思わないのかい?」
「一応、不人気ダンジョンの管理者って自覚はあるんですよ。だから、不人気ダンジョンでも稼げる、そんな手段を提供できないかっていうのが最初なんです。
まぁ、ゴブリンメタルに商品価値が出てきたら、他の金属に目を向けるかもしれませんね」
ゴブリンメタルは、本当に価値が無い。
魔石がかろうじて小銭になるものの、ゴブリンの落す武器やポーションは全く売れない。
だったら、ゴブリンメタルに商業的な価値を付加させて、ダンジョンに人が来ようと思うようにすればいい。
他にも武器を作ってみたいとか考えたのもあるが、俺はそんな安易な気持ちで鍛冶を始めたのだ。
「現在は純度を高めるように頑張っているのだよね」
「ええ、そうですけど」
「うーん。やっている事から逆行するかもしれないけれど、合金に手を出して見る気は無いかな?
いや、なに。これも素人考えではあるのだけどね。鉄や銅、その他の金属と混ぜ合わせる事で、ゴブリンメタルの新しい可能性が開けてくるんじゃないかな。
青銅や鉛はんだのような、有用な物ができるかもしれないよ。
あ。鉛はんだは、今では使われなくなりつつあるけどね!」
四宮教授は、ゴブリンメタルの純度をある程度以上に挙げても、望むような結果は得られないという推測を前提に、別のアプローチをしてみようとこちらに持ちかけてきた。
「まぁ、やってみるのも良いかもしれませんね。まずは鉄との合金でも試してみますけど」
「何かいい結果が出ると良いよね。うん、楽しみだよ!」
こちらとしては、特に否定する要素が無い。
鉄は純度を高めると別の金属であるかのような性質を獲得する事もあるらしいがゴブリンメタルがそれと同じかどうかなんてものは分からない。
だったら、身近にある金属を使い、混ぜ合わせ、新しい金属を作ると楽しそうだ。
これはこれで、一つの研究テーマになるだろう。
今のところ、大企業はそれ以外のダンジョン金属、『ミスリル』や『オリハルコン』、『魔鉄』といった物を集めている。
そして、大企業の研究リソースはそれらの特性解析と応用に振り分けられており、ゴブリンメタルは、ブルーオーシャンと見ていいだろう。
実際はすでに合金へ手を付けた動画配信者が大勢いる。いるのだが、個人レベルで合金開発をするのはかなり無謀だと証明されていた。
材料調達や合金化を始め、素材の特性研究は手を出すのを難しくする問題が多々あるのだ。
それら問題を乗り越えた所で、商品化に向けて動く事まで考えると、せめて中小企業並みの人員などが必要になる。あと、手を出してもらった所で、大学研究室並みの設備を求めてしまい、出資者と軋轢を生じさせかねない者も見付かった。
金になる研究をしたとしても、研究を金に換える手段が無ければ、普通は意味が無いのである。
もっとも、俺は普通の範疇から大きく外れているけどな。
「合金の作り方なんて全く調べていないので、しばらくは情報収集もしますよ」
「言い出したのは私だからね。何か協力して欲しい事があったら遠慮なくいってくれたまえ!!」
四宮教授は、腕を広げるオーバーアクションで“悩み事相談”を歓迎すると話を締めくくるのであった。




