謎の現象④
実験では、人にもロボットにも反応しなかった、謎の能力の再現試験。
それがモンスターに切り替えたとたんに上手くいった事は、俺だけでなく皆を驚かせた。
「敵対しているかどうか、判別しているとでもいうのかね?」
「……間違って味方への攻撃をしないように、タイタンが能力を抑えていたのか、それともそういう仕様なのか。あとは誰でも発動させられるかの試験ですね。
発動条件がある程度絞られたら、量産できないかも試しましょう」
「今のうちから鬼鉄を作っておきます。出来の方は、当時の感覚通りの物ができるとは思わないで下さいね」
理由の方はまだ条件がふわっとしているので、より細かく条件や制限を調べていく必要がある。
これが意識的に再現できるようになれば、かなり面白い事になる。調べないという手は無かった。
条件特定の実験は及川教授が乗り気なので任せることにした。
手の空いた俺は、それと並行して、量産できないか考えてみる事にする。
物が防壁では取り回しが難しいので、あのままでは普段使いができない。解体して素材に戻し、形を変えた場合、能力が失われるリスクあると考えれば、素材の流用はしたくなかった。
ならば新しく同じ能力を持った素材を用意して、生産に挑む。
「上手く出来ればいいけどなー」
反射能力持ちの防壁を作るのに、上手にできた鬼鉄が使われていたのは間違いない。
なので、同じ物が作れるかどうか、挑戦してみる。
ただ、俺はあの後も鬼鉄を量産していたのに、あの時のような「上手く出来た」という確信が得られたことが一度もない。
言ってしまえば、あの上手く出来た鬼鉄の生産も、条件が全く分かっていないのだ。
燃料の配合がどうだとか、使った原材料が特殊だったとか、そういった部分を再現しても、同じ物ができる事は無い。
こちらも数パターン試してみてみたが、案の定、上手くいかなかった。
「他、条件になりそうな事。
……アレは鍛冶を再開した、最初の仕事だったよな。ブランクがあった事が、良い方に働いたのか?」
パッと思いついたのは、俺のブランクだ。
しばらく忙しくて鍛冶から離れていたが、その影響が出て、良いものが出来上がった?
ダンジョンの攻略、モンスターの殲滅はタイタンが日課として行っているのだが、そこで殺されたモンスターの魂がストックされ、出来上がった物が底上げされたというのはどうだろうか。
俺自身は特に気負う事無く作業をしていたので、良い鬼鉄ができたのに俺が関わっているという事は無いと思うし、仮説としては、これが一番説得力がありそうだ。
ただ、そうなると、ダンジョン内の鍛冶をまたしばらく控えないといけなくて、俺の手が空いてしまう。
別に、待つ間は他の仕事をしていればいいんだけど……お預けをくらうのは、モヤモヤしてしまう。
それまでに、何かできる事、考えておく事は無いか、及川教授らと話し合ってみるかね?
サボるわけではないが、やるべき事に進捗が無いというのはどうにも気が落ち着かないのだ。
たとえ失敗でも、それだって進捗だと割り切れるようになりつつあるけど、待ち時間が長すぎるのはな。本当に嬉しくなかった。
そんなふうに考えた翌日。朝のミーティングで、俺は鬼鉄の生産をしばらく控えるとみんなに伝えた。
理由を説明すれば全員から理解を得られたので、ここまでは特に問題無かったんだけど。
「また、再現ができなくなりました……」
今度は及川教授の方でトラブルが発生していた。
どうやら反撃能力には、まだ俺たちの知らない仕様が隠されていたようだ。そのため、再現できた時と同じ条件を揃えているにも拘らず、また上手くいかなくなったそうだ。
「ふむ。一文字君の方だけではなく、及川君の方も、一時休止をするというのはどうだね?
もしかしたらではあるが、防壁にもエネルギーをチャージしなければいけなくて、先日の上手くいったときは、ちょうどチャージされたエネルギーが残っていただけど。そういった可能性も有るのではないかな? 強力な能力だけに、その使用には対価が必要と言われれば、納得しやすいのではないかね」
「そうなると、これまでの失敗も失敗ではなかった可能性が残るね。また同じ試験をしないといけないかな?」
うわぁ。これは面倒くさい話になってきた。
俺は思わず顔をしかめた。
四宮教授の指摘は、これまでの試験を完全否定しかねない話だったからだ。
そうなると仮説が否定されてしまうので、またやり直しだ。
「実験とは、そういうものだからね。仕方がないのだよ」
「地味で根気の要る作業なのは間違いありませんね」
新しい物を作るというのは大変だ。
ただ、今回のこれは、久しぶりの大問題である。
相応の覚悟を決めて取り掛からねばならなかった。




