謎の現象②
「何度画像を解析しても、衝撃その他が発生した兆候は見られないね。倒れる寸前まで、対象の衣服が力を加えられ不自然に揺れた画は無かったのだよ」
「倒れる寸前に、防壁への着弾を確認しました。因果関係を考えれば、これが原因で間違いないと思うのですが。
一文字さん。魔法で何か、こういった結果を出せるものはありましたか?」
「邪眼系の魔法か、呪術系の魔法ならできます。着弾がトリガーなら、呪術でしょうね」
侵入者がいきなり倒れた謎の現象。
俺が思いつく仮説だと、呪術ぐらいしか出てこない。攻撃反射、反撃系の呪術は呪術の基本なのですぐに思い浮かぶが、逆にそのイメージが強すぎて、それ以外の魔法が出てこない。
教授二人も俺と似たりよったりで、特に新しい意見は出てこなかった。
あとはもう、三現主義に従って現場に行って現物を見て判断するしかないと諦める。
「本当にただの鬼鉄を使っているはず……なんですが」
「完成してからほんの一日。レベルアップもしていない鬼鉄に、そんな事が可能なはずは無いのだがね。
現実を見れば、認めざるを得なくなるのだよ」
「何か、普段と違う事はしませんでしたか?」
「やり方はいつも通りでしたよ。まぁ、いつもより、出来は良かったと思いましたけど」
タイタンが撮影した戦闘のデータは、自衛隊に提出しないと拙い。
侵入者を殺してしまっても構わないとお墨付きをもらっているのに、それでも隠せば何か疚しい事があると疑われる。
そんな事になるのは嬉しくないから、隠し事はできないのだ。
そんなわけで俺たち三人は、現地の警察に呼ばれた事もあり、防壁に使った陣地展開ユニットの検証をするべく、メジェドのダンジョンへと向かった。
侵入者を迎え撃ったメジェドのダンジョン、その周辺。
そこは現在、警察が現場検証のため、一般人進入禁止のテープで囲われていた。
「あ、すみません。私はこのダンジョンの所有者です」
「あー。わざわざ来ていただき、ありがとうございます」
現場で起きた事の証拠を守るために、土地の所有者の俺でも今はダンジョンに行く事が出来ない。
下手に歩き回って侵入者の痕跡を消しては困るので、そこは素直に従っておく。
「では、ここで何が起きたかの説明をさせていただきます」
現地にいなかったという事で、警察からはまず、状況の説明をされた。
俺たちはタイタンからの連絡で何が起きたかを知っているが、それでも素直に話を聞いておく。
「今回の件で、一文字さんに何か責任が発生するという事はありませんが、現場のダンジョンを今日一日、封鎖させていただきたいのです。
犯人が残した証拠を保全するためですので、ご理解とご協力をお願いします」
その次は、警察が現場検証をする事への理解と協力を求められた。
これも素直に、首を縦に振った。
ついでにタイタンの映像データの提供を求められたが、これも問題なし。
いや、できれば遠慮願いたかったが、ここで協力を拒むのはアウトなので、仕方がないと受け入れた。
「タイタンの映像には、企業秘密に属するものもあります。くれぐれも、情報の拡散がされないようにしてくださいね?」
「ご安心を。守秘義務は必ず守らせていただきます」
一応、釘は刺しておいた。
無駄だと思うけど、やらないよりはマシだから。
この事は自衛隊にも連絡して、あとは任せてしまおう。俺は、もう知らない。
「あ、タイタンの使っていたユニットだけ、回収していきます」
「……上の者に、確認をとってきます」
そうやっていくつもの「警察への理解と協力」を示した後に、こちらの要求を口にした。
普通なら証拠になりそうな物を持ち出されるのを嫌がり断られて終わりなのだろうが、それまでに俺たちが協力的だったので、相手も譲歩をしてくれた。
担当者ではなくその上司との話し合いの結果、簡単なチェックだけ急いで先に済ませるから、その後で良ければと、陣地展開ユニットは持ち帰りの許可が降りた。
俺たちは被害者という事もあり、証拠隠滅の可能性がとても低いのも、許可が降りた一因だろうね。
「ご協力、ありがとうございました。
犯人一味はあれで全員ではなく、あの五人は本命のための囮か、威力偵察をしに来たと考えています。今後も襲撃が懸念されますので、より一層の注意をお願いします」
「こちらこそ、ありがとうございました。今後もよろしくお願いします。
それではこれで、失礼します」
とにかく、問題のユニットを回収した俺たちは、あとの事を警察に任せてゴブリンダンジョンにとんぼ返りするのだった。




