第二次防衛計画③
あたりまえだが、ダンジョンへの不法侵入者たちは冒険者である事が予想される。
かなりの確率で身体強化や攻撃魔法を扱える人材であり、通常の防壁では簡単に突破されるかもしれなかった。
よって、ダンジョン要塞化に使う防壁には、相応の強度が求められた。
具体的には、鬼鉄をふんだんに用いた防壁や、リビングメイル素材の防壁である。
そうやって素材にこだわるせいで、陣地展開ユニットの製作は遅々としていた。
「在庫の確保も急務ですね」
「売れているから、仕方がないのだよ!」
鬼鉄は、ゴブリンメタルに鉄を混ぜた合金である。普通の金属よりもレベルアップしやすいと好評だ。
こちらは情報を公開しているし一般販売しているので、わりと知られた話である。
一般販売している分、在庫があってもすぐになくなる。
リビングメイルのドロップである全身鎧は、一応、熔かせばそのまま鉄として扱えるだけと思われている。ただし、手順を踏んでロボットの装甲素材として扱えば、リビングアーマーという、ロボットを早い段階で自我を持った状態にできるので、こちらも重宝されている。
こちらは一般販売をしていない。情報を隠すため、ごく一部の、協力してくれている製鉄会社やその傘下企業だけで独占していた。
ただ、最近はイギリスが買占めを行い始めたため、市場に物が出回っていない。売らないと周囲が疑ってくるので、少し前に在庫をそれなりに吐き出したのも良くなかった。
どちらの金属も、今は自由に使える手持ちがあまりなかったのである。
在庫の確保は急務だ。
「うん。ハンマーを握るのは久しぶりだけど、体が覚えてるよ」
だから俺は、少しでも在庫を増やすために自らハンマーを振るう。
思えば、ここ最近は他の仕事にかまけていて、鍛冶をしていなかった。これが天職、これが本職と言うほど鍛冶に傾倒していたわけではないが、我ながら中途半端な事をしてしまったようだ。
もう少しだけ、ハンマーを握る時間を増やしても良いだろう。
鍛冶に使う溶鉱炉は、数千万円した逸品である。
これを有効活用しないのは、勿体ないお化けが出てきても納得の無駄金使いだ。いくらお金を持っているからと言って、やって良い事ではない。
「感覚は狂ってないな」
完成品の出来栄えを確認すれば、以前同様の品質の鬼鉄ができていた。
ハンマーで叩いてみた感触から言えば、かなり上手くいったのではないかと自画自賛してしまえるほどだった。
人間、一度できるようになった事は意外と何とかなるものらしい。
武術の稽古とかだと、一日サボれば取り戻すのに三日かかると言われているんだけどな。
「自分の目だけじゃなくて、他の人にも確認してもらうから、気にしなくてもいいか」
何分、久しぶりなので自分が思うほど出来が良くない可能性がある。
一応、金属の出来栄えについては加工時に使う電子ゴーグルでも確認しているが、自分のチェックだけでは断言できない。
もっとも、商品に使う原材料はちゃんとした機械でチェックを行うので、ゴーグル以上にしっかりした検査をされるから、俺が気にする必要は無い。出来が悪ければ撥ねられて終わるだろう。
この時の俺は、逆に出来が良かった事に気が付かず、軽い気持ちで作った鬼鉄を鴻上さんの方に流した。
そして鴻上さんも「最低限の品質が保証されている」事を確認させると、陣地展開ユニットの素材として、流れてきた鬼鉄を使わせる。
それが侵入者たちにとって最悪の展開になるのだが、それは俺のあずかり知らぬところで行われた話であった。
他にやっておくべき事は、ダンジョン入り口周辺にいる神官の排除である。
ダンジョン入り口付近にお目当てのモンスターが居なければ、欲しいドロップアイテムを得る事などできやしない。
神官を求め奥地に踏み込ませることができれば、それだけ相手の時間を消費させることになる。それは時間稼ぎが最大の作戦目標になる俺たちにとって都合が良い。
ダンジョンに入って2時間圏内にいる神官は絶対に残さず刈り取れるよう、タイタン部隊の巡回をさせた。
ゴブリンダンジョンと違い、メジェドのダンジョンは分岐が多く、完全に調べ尽くす事は難しい。
だが、それでも無駄を承知で巡回の頻度を増やしておいた。
これはこれでタイタン運用のコストがかかり、また予算を使ってしまう事になるのだが、そこはもう諦める。当面の襲撃を一回でも防げば、恐らく状況は改善するから、それまでは我慢なのだ。
相手が動き出したのは、こちらが防衛ラインの構築を始めてから3日後。
まだまだ準備が足りない状況で、どこかの国のスパイを迎え撃つ事になった。




