第一次防衛計画
メジェドのダンジョンの私有が国に認められたのは良いんだけど、その管理をもっと厳しくするように言われてしまった。
「現状は、ずさんも良い所だからね」
「不人気ダンジョンでしたからね」
ここは『赤字ダンジョン』時代の状態で購入したんだけど、その管理は有って無いようなものである。
このダンジョンはちょっと田舎の町中にあり、これまでに購入したダンジョンと違い僻地ではなく、少し歩けば民家もあるような場所だ。
すでに空き家だが、ダンジョンの隣には民家もあったよ。他は畑や田んぼだった、耕作放棄地が残るばかりであった。
ダンジョンのスタンピードが怖くて、近隣住人は逃げ出した後なので、ついでに周辺の土地もまとめて購入したよ。
基本的には更地にして、周囲の視界をクリアにしておいた。
ダンジョン入り口は興味本位の子供や若者が不法侵入をしようとする事があったため、ダンジョンはプレハブで隠し、周辺には柵が設けられ、勝手に入れないように対策がしてある。
ダンジョン発生当時は危機意識のない人間が多く、死亡事故も結構あったようだ。
そしてなぜか、ダンジョンのある土地の所有者が責められるという謎の展開もお約束なので、町中のダンジョンはそれぐらいの対応をしないと拙いのだ。
しかしそんな柵など、越えようと思えば簡単に越えられる。メジェドの神官が落とす布の価値を考えれば、強引な手段で侵入してくる人間が現れても不思議ではない。
だから周辺の土地を購入してまで、防衛網の強化を図ろうというわけだ。
「まずは柵の強化だ。柵じゃなくて、壁にする」
「柵では、簡単に穴を空けられますからね」
そんなわけで、ダンジョンの周辺を鉄筋コンクリートの壁で囲う。
一瞬、ダンジョンでドロップした岩を加工し、石壁でも作ってやろうかと考えたが、それはさすがに手間がかかるし、強度の面で不安があった。石材の加工に時間とお金もかかる。
ダンジョンという魔力供給源があるので、どうせだからと鉄筋を鬼鉄で作ってみたよ。
壁の上に監視カメラ、内部にマキビシとトリモチ付き落とし穴に電流トラップと毒ガス発生装置などで防衛力を高める。
最後にタイタンをダンジョン入り口すぐに配備しておけば、低コストで強力な警備員の誕生である。
即時展開の第一次防衛計画としては、これが限界だった。
町中に展開できる戦力なら、これだけやれば簡単には突破できないだろう。
さすがに日本の町中で戦争さながらの戦力を展開される想定まではしない。俺が対応するのは、あくまで少人数による隠密作戦とか、そんなものだけである。
バレて国際問題になっても構わないとばかりに、ロケットランチャーとか持ち出すような奴らが攻めてきた場合は、民間人ではさすがにどうにもならないと思うんだ。そこはもう、そんな奴らの入国を見逃した国の責任だと思っている。
これら防衛計画は、話の半分を国と共有する事にした。
国に全部教えないのはこの情報を見れる誰かが裏切っている事を警戒してであり、それは国の役人も承知のため、全部教えろとは言われなかった。
カメラの配置とかまで教えた場合、絶対に無効化されると思うし。ダミーの見せカメラと本物のカメラの配置や詳細なんて、普通は教えないものだよね。
隠し事が有るのは双方承知の話。
知られて対策されるのは嫌だが、何があるか分からない状況を作り、敵に無駄な対策をさせて負担を強いる作戦だからだ。
見せ札と伏せ札の併用は、戦術の基本である。
「“半島”の工作員が動いているという情報が入っています。
壁もまだ未完成。こちらからも人員を出しますが、巧緻より拙速を選ぶ可能性が高いので、十分な警戒をお願いしますね」
「“西”と“大陸”、“同盟国”は何か仕掛けてきそうでしょうか?」
「さて。私には半島の話しか降りてきていませんので、なんとも言えませんね」
姿消しのマジックアイテムが作れれば、ヤバい工作員が更にヤバくなる。
情報が出回った段階でこうなるとは考えていたけど、さすがに動きが早い。有事を想定し、いつでも動ける部隊を用意していたんだろうな。
動いているのは、半島の国家のどちらからしい。
もしくは、両方か。
どこの国か、とは明言せずに会話をしているので、両方と悪い方に考えておこう。
そちらが動いているのは分かったけど、他の国の動向がわからないのは怖い。
一応聞いてみるけど、自分も知りませんと言われてそれで終了。無理を言おうが、何も確定情報は引き出せないようだ。
「個人的な予測はどうでしょう?」
「……同盟国は、味方であると思いますよ?
他は、さすがに何ともしがたいですが。おそらく今は結果待ちではないでしょうか」
なので、ただの世間話をするだけに留めておく。
嘘か本当かも分からない、ただの世間話。違っていても、嘘であっても文句の言えない、そんなお話をしておいた。
これがこちらを誘導する罠であっても、聞いた話は個人の予測なので、ネット上の噂話と同じで、真偽を判断するのは聞いた本人の責任である。
「今後もよろしくお願いします」
「ええ。お互いの利益のために」
防衛網は、やり過ぎでちょうどいいらしい。
国にダンジョンを売ったほうが早くて手軽だったと後悔しないよう、もっと頑張らないとな。




