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俺とおっさんと脳筋対応

 画像処理ソフトが優秀で助かる。


 俺は炉に火を入れる時、目の保護のためにディスプレイ機能付きゴーグルを着用し、ゴーグルに付いたカメラの画像を見ながら作業をしている。

 融けた金属を裸眼で見るのは危険なのだ。これも安全のためである。


 そのついでに、得られた画像を解析し、画像データと完成した金属の情報をリンクさせ、「自分にとって最適な状態」を狙って作れるようにしてみた。

 こういった作業はデータが集まれば集まるほど精度が高くなるので、あと100回とか200回とか蓄積を続ければ、技術や経験に依存しない安定した金属精製ができるようになるだろう。


 作る金属の品質が安定化すれば、自分のやっている事に一つの区切りがつくだろう。

 自分が思うような武器を自分の手で打ってみたいと思って始めた事だが、目標ははるか遠くなので、都合のいい区切りに一息つきたいものである。





「鍛冶場はどうだったかね? 良い物は打てたかい?」

「まだまだですよ。絵で例えるなら、今は思った通りの線が引けないようなものです。

 まだ始めて1年どころか半年も経ってませんからね。楽しみながら、気長にやりますよ」

「うむ! 何事も楽しみながらやるのが一番だね! そうでなければ長続きなどしないよ!」


 昼前になったので、そろそろ昼飯の用意をしようと思って鍛冶を終えた。

 汗だくなので飯の前にシャワーを浴びたが、そこで四宮教授と顔を合わせた。あちらはあちらで、リモートの講義が終わり、昼飯にするようだ。


「では、昼食を用意するよ! 一文字君は椅子にかけて待っていてくれたまえ!」


 コンテナハウスのキッチンスペースは狭いから並んで料理をする事もできないし、俺は自分の部屋でのんびりするのだった。

 ……せめてお茶の用意だけはするか。





 飯の時間が終われば、食休みを挟んでダンジョンへと向かう。


「基本的には進路の指定と歩く速度、進行ペースの管理。そして戦闘が始まると思えば、迎撃するのか撃って出るのか。攻めを重視するのか守りを重視するのか。そういった内容に対し比重の設定を最初にやって、何かあればその都度指示を出す事になるよ。

 二度目ともなればマップデータは自身で作成しているし、フルオートでも問題ないはずだね。……だから、そんなに緊張しなくてもいいのだよ?」

「ああ、はい」

「もっとリラックスしたまえ。適度な緊張は良いものだが、緊張しすぎでは良い仕事ができないよ」


 昨日の反省を踏まえ、四宮教授は厳ついマスクをしているため、本人は普通に喋っているつもりでもかなり声量が絞られている。

 これならゴブリンどもが声に釣られて寄ってくる事も無いだろう。


 そんな四宮教授に教えられ、俺は原神の操作を行っていた。

 マニュアルは一通り目を通したものの、実際に自分でやってみると、本当にこの操作で大丈夫かと不安にもなる。

 四宮教授が呆れた声を出しているが、個別設定やら全体指示やら、ユーザー()インターフェース()に慣れていないので、操作に手間取ってしまうのだ。

 初見のモンスターと戦うよりも、どうにも落ち着かない。

 そのあたりはもっと改善して欲しいし、できればゲームのような形で練習できるよう、ソフトを組んでもらいたいところだ。


「そこはまた後で考えさせてもらうよ。データの蓄積が進めば、それをゲーム風にアレンジするだけで行けそうだからね」

「よろしくお願いします」



 モンスターの気配がしたので、俺は原神3体に殲滅の指示を出す。

 数はそう多くないので、昨日のような戦いをしてくれれば難なく勝つことができるだろう。


「5体までは余裕でいけますね。難易度を上げるために機数を2体に減らしてみましょうか。もう1体は、俺たちの護衛という事にしましょう」

「そうだね。まずは負荷を上げてみる所から始めようか」


 昨日の戦いぶりを見て思ったんだけど、原神3体で戦うと、このダンジョンではほとんど無敵だ。

 運用する側としては助かるんだけど、開発として見るとフィードバックデータが少なく、原神の成長に繋がらない。


 反省会の中ではわざと難易度を上げる事を検討しようと話が付いており、手始めに3体一組を2体に減らしてみる事にした。

 こうする事で手数が減り、より工夫をした戦いをしなければいけなくなるので、原神のAIも色々と考えてくれるだろう。



「んー。余裕は無いですけど、まだまだ大丈夫そうですね」

「これは、道幅をもう少し広くしないと駄目だね。往年のシューティングゲームのように、画面に現れた瞬間に敵を倒しているのを見ている気になるよ」


 原神2体は、腕の振る速度を上げて味方が減ったフォローとしていた。

 機数を減らした分を完全にカバーできるわけではないが、元々の出力に余裕があった事もあり、定格出力ギリギリまで頑張る事で多数のゴブリンに対応してみせた。


「それにしても、解決策が脳筋ではありませんか?」


 俺としては、連携でフォローしていけばいいと思ったんだけど。

 こういった力こそパワーな解決方法は脳筋で、解決策になっていないと感じてしまう。

 もっと、技術的な対処は出来ないものかな?


「そのやり方が王道という事だよ。小細工をするのは、その先の話だね」

「もっと負荷を上げないと駄目だと、そういう事ですよね……」


 ある意味、高速で槍を振るのも“ロボットを作る”技術があってこそだと思うけど。

 俺としては“武術という意味で”技術を身に付けて欲しいんだよ。

 もう少し、何とかならないものかな?

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