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ダンジョン購入

 作った方が良い物、作らなきゃならない物。

 俺がやる事も多いけど、やってもらう事はいつもいっぱいだ。



 『赤字ダンジョン』改め、『メジェドのダンジョン』は、剣を持ったタイタンがメジェドの神官(サモナー)の首をチョンパする経験値稼ぎの場となった。


 ダンジョンの持ち主が、売れると分かった途端にゴネにゴネて売値を吊り上げようとしたけど、その時のやり取りを録音していたので、それを公開するぞと脅してなんとかした。

 人間、金が絡むと屑になる奴ってかなり多いよね。

 少し前まで「買ってください」と頭を下げていたのに、いざ売れるとなると「これぐらいは出してもらわないとね~」と人の足元を見るんだから。


 需要があるものの値段が高くなるのは仕方がないにしても、これまで苦労した分を少しでも取り返そうとするのは分からなくもないけど、他人に喧嘩を売ってまでお金を稼ごうとするのは馬鹿だと思う。

 近江商人の売り手・買い手・世間を意識した「三方ヨシ」じゃないけど、周囲に敵を作るような金の稼ぎ方って、長続きしないんだ。

 特に今のご時世は、ネットに悪評ばら撒かれると、それで人生が詰んだりもするからな。


 経営者なら、周囲の視線には多少なりとも意識を向けるべきだと思うよ。



 で、ドロップした布なんだけど、これは国が全部買い取る事になった。

 民間人に持たせておくには危険すぎると、圧力が

かかったのだ。


「モンスターの性質を考えれば妥当なのだろうね。面白いものを作れると思っていたから、残念だよ」

「まぁ、誰でも姿消しの衣服が作れると考えますからね。国の判断としては妥当でしょう」

「それよりも、ダンジョンの入り口をしっかり管理するように言われたのが面倒です」


 メジェドの神官がドロップする布は、身に着けた者の姿を消す装備品を作れそうだと、誰もがそう考えた。

 そんな物が出回って、犯罪に使われないと楽観視するほど、国は甘くなかった。

 普段は優柔不断で動きが遅いと陰口を叩かれる政治家たちも、ここで時間をかければ外国や反社組織に流出する危険性があるからか、即決したのである。





 ダンジョンの召し上げという案も出されたのだが、さすがにそれは拒否させてもらった。


 買値は安いが、こちらが情報を公開したので、資産価値は桁違いになっている。具体的には、桁が4つ増えた。

 それに俺たちが情報を公開する前は、国は前の持ち主の申請したダンジョンの受け取りを拒否していた負い目がある。

 そういった理由もあり、強くは出られなかった。


 妥協案として、他のダンジョンとトレードする話を振ってみたが、これは国が嫌がった。

 利便性の高いダンジョンは、自衛隊が使う事を考え、かなり整備していたからだ。

 道と住居、侵入防止の柵、その他の施設。多額の資金を投入し、インフラを整えたダンジョンを手放したくなかったのである。



 一般的に交渉、条件のすり合わせは、お互いに利益を確保しつつも、多少の妥協と諦めが求められる。

 自分の主張を通そうとするために、相手を打ち負かそうとしてはいけない。それは交渉ではなく恫喝だ。

 相手の要求をのみ、自分の利益を損なう事を受け入れ、それでも自分の利益を確保するのが“上手な”交渉だ。


 それを考えると、俺も国の交渉役も、そこまで知恵者ではなかったって事だよな。

 相手は上司から条件を厳しく設定されていた可能性があるので、ショボいのは俺だけかもしれないけどね。



 布の売却は、国の譲れない最低ラインだっただろう。

 ダンジョンの権利の交渉は決裂したが、こちらは至極あっさりと合意が成された。


 危険物に相当するドロップの布は、全部国が買い取り。

 値段は神官がドロップした魔石を基準にして、同ランク帯のモンスターがドロップするアイテムを参考に決められた。これは国の提案をそのまま飲んだ形だ。


 こちらが欲を出せば値のつり上げも出来ただろうが、そんな交渉をする気にはならなかった。

 値段設定の理由に納得できたし、金額に満足できたのだ。

 交渉が面倒だったとも言う。



 最後に、余計な連中に布が渡らないよう一般開放の禁止と、不法侵入対策としてダンジョンの出入り口の警備を強化するように要請された。


「不法侵入者への対応で事故が起きても、こちらでどうにかします。問題ありません」


 かなり大きい権利を与えるから、やり過ぎなぐらい、警備をしろと。そう言ってきた。

 面倒だけど、言っている事はまともで妥当だから、これも言われるままに了承。


 一般開放はしないつもりだったから、これも気にならない。



「不法侵入者対策への投資、警備のランニングコスト。責任の所在。

 一文字さん、良いように転がされていますよ」

「いや。別に損は出していないと思うよ? ……たぶん」


 なお、凄い交渉人は、相手に譲歩してもらう事なく、自分の要求を通すらしい。

 つまり、そういう事であった。

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