現場見学④ 赤字ダンジョン
成功するかどうかも分からない事にリソースを費やすのは、一般的には馬鹿な事だと思われる。
やるからには成功を目指すべきだし、中にはそれでもやらねばならない事情があったりする人もいるのだが、今回の様な状況では、そうと言い難い。
いるかどうかも分からないサモナーを探すなど、時間と労力を無駄にしていると怒られかねない愚行だと言われてお仕舞いだ。
そしてやるにしても、止め時を設定するなど、区切りをハッキリさせてから動くのが賢い方法だ。
いつまでも損を垂れ流しにするのは経営の世界ではご法度。
「成功しなければ、これまでの投資が無駄になる」などと考えてはいけないのだ。
今回、投資していいリソースを制限しなければ、最終的に上手く行っても、結局は大損になりかねない。
こんな岩だらけのダンジョンに泊まる気はないので、夕方になったらダンジョンから出られるようにして、区切りとしよう。
……それでも駄目だった時は、シノミヤえもんに泣き付くとしよう。きっと、いい知恵を貸してくれるよ。
この赤字ダンジョンは一応だが、完全に踏破されている。
隅から隅まで人が歩き回り、ボスモンスターが居ない事を確認してあった。
出てくるモンスターはどこでも同じ。
ギミックの類も存在しない。
ひたすらに面倒くさい、儲からないダンジョン構成だ。
「どこにいるんだろうな」
「外道照身霊波光線! ……残念、ガッツが足りない!」
「聖剣よ……、私を導いて! 次は、あっち?」
「道がなければこの手で作るの!」
道中の敵が弱い事もあり、光織たちからもすでにやる気が感じられらない。
片手間で倒せる敵ばかりなら、縛りプレイで難易度を上げて楽しむしかない。
光織たちはある程度騒いで、わざと敵をおびき寄せて、戦闘回数を増やすようにしていた。あとは一人で戦うだけでなく、武器を使わない、一部のセンサーをオフにした状態で戦っていた。
「ほえ?」
縛りプレイでストーンゴブリンを倒していた晴海。
彼女はせっかくなので聴覚センサーのみで闘っていたのだが、ストーンゴブリンを倒したところで変な声をあげた。
「晴海、どうかしたのか?」
「なんかね、変なのがいたの」
「変なの?」
探知能力全開の、レドーム装備中の三人娘。
晴海はレドームを停止させて縛りプレイをしていたが、レドームは他の二人が起動させて、敵の位置を探っている。
「いないよ」
「いないね」
「「ねー」」
光織と六花は敵などいないと言うし、俺もモンスターなど感知出来ない。
視覚的に見えないだけならともかく、魔力とかまでしっかり探っているのだから、居れば分かる……?
あ。
「光織、聴覚を残してレドームとセンサーオフ。その状態で周辺警戒。
六花はそのまま、足元にいるロケットストーンの処理を頼む」
「はい」
「了解!」
もしかしたら、逆なのか?
探ろうとすると、分からなくなる。
敵を探そうと強く意識している事で、誘導を受けているのかもしれない。
これは敵を探そうと伸ばしたアンテナ、知覚の糸をハッキングされた様な状況だったのかもしれない。
俺たちは自分たちの足音以外に、モンスターの足音が聞こえないか、じっと耳を澄ます。
すると、壁の一部に違和感があった。
普段であれば聞き逃している、何者かの呼吸音。
ここに出現するモンスターは呼吸を必要としないストーン系のモンスターばかりなので。
「そこっ! 死ねっ!!」
ここにいるのは、呼吸が必要なモンスター。
未発見の、推定サモナーと予測される。
俺はそいつを殺そうと、周辺への警戒を怠らずに、剣を振るった。
モンスターが居たのは壁際なので強く剣を振り抜けなかったが、それでも刃が不可視だったモンスターに深々と食い込んだ。
俺が倒した、壁に擬態していた
「探そうと思えば思うほど見えなくなる能力の持ち主だったわけか。また厄介な能力だな」
それからしばらく、ストーンゴブリンなどはほぼ見えなくなり、稀にはぐれ個体が挑んでくるだけになったので、それを潰してやればいいだけとなった。
挑んでこないモンスターなら、追いかけても旨味がないので、こちらから襲いに行く事は無い。
挑んでくるなら楽なんだけどな。
で、倒したサモナーだが、コイツは服を着た、ごく普通の人間にも見えた。
殺せば魔力の粒子になって消えるから、人間ではないんだけどね。
「これ、俺の他に探し方に気がついた人もいそうなんだけどなぁ」
コイツの探し方だが、ネットで調べた範囲だけど、こんな方法は載っていなかった。
気が付けば単純な方法なので、誰かしら思いついても良さそうなんだけどな?




