現場見学③ 赤字ダンジョン
水中ダンジョンの視察を終えた俺は、最後の赤字ダンジョンへと向かった。
今度は三人娘も一緒である。
「あんなに一緒だったのに……。もう、置いて行っちゃ、やだよ」
「私達、卒業しても、ずっと一緒だよ!」
「……そういう事を言っていたのに、卒業してからメール1つ寄こさないのー」
まぁ、学校を卒業したら、顔も合わせないし連絡する気も失せるんだよな。
中学までなら地元って事で顔を合わせる機会も稀にあるけど、高校だと家も離れている事が多いから、わざわざ会いに行こうって気にならないんだ。
学生時代の友達と言っても、それぐらい浅くて軽い関係だった奴の方が多いと思うよ。
さて、やって来たのは新潟にある赤字ダンジョン。
ドロップ無しという最悪なモンスターが出る癖に、地形も岩やら何やらで足場が悪く面倒臭い所である。
ダンジョンの構造は結構広めの洞窟タイプで、
「でも、ドロップしないネタの予想はされているんだよな」
このダンジョンの一番の特徴は、モンスターを倒してもマトモなアイテムをドロップしない事だ。石や岩が手に入るのだが、だからどうしたという話である。
普通のモンスターは、最弱と言われるゴブリンですら魔石やポーションを落とすのだから、ここは異常じゃないかと言われている。
解決はしていないが、一応、この謎への推測はすでに終わっていた。
「じゃあ、モンスターを探すのは任せたよ」
「別に、倒してしまっても構わんのだろう?」
「六花の右腕の封印を解く時が来たようだな!」
「それはイメージが悪いから、使いたくない技なの!」
おそらく、このダンジョンのモンスターはサモナーなのだ。もしくは、ゴーレムっぽいモンスターを作る錬金術師とか。
ダンジョンに出てくるモンスターと思っていたのは、本当にダンジョンモンスターであるサモナーが召喚したモンスターで、ダンジョンで湧いたモンスターではないから、まともなアイテムをドロップしない。これが現在の公式見解である。
ただの推論で実際にサモナーのモンスターを見つけた事例は無いものの、他に考え付く理由で説得力があるものがあまり無いため、そういう話になっていた。
見付からない敵を探すとなると、レドームの出番だ。
足元に潜んでいる地雷のような岩モンスター『ロケットストーン』を探す必要もあって、今回は三人全員にレドームを装備させている。
高感度センサーであるレドームのおかげで、俺たちは足元の岩に擬態したモンスターも難なく処理していった。
「経験値効率まで最悪か。これは酷い」
レドームには、敵の強さとそこから得られるだろう経験値の測定をする機能が付いている。
モンスターを処理していけば経験値が得られるんだけど、こんな何も出ない、得られない所で頑張ろうと思えば、それぐらいしか欲しいものは無いんだけど。
その経験値すらここは最悪だと、レドームが教えてくれた。
「こりゃ、お金を貰っても割に合わない」
ここの経験値効率の悪さは、ゴブリンダンジョン以下である。
それでは経験値欲しさにダンジョンを購入したところで何の意味もない。
赤字ダンジョンの名前の通り、メリットが全く見えてこなかった。
しかし、サモナータイプのモンスターがいるという噂、推測がされているので、せめてそいつがいるかどうかの確認だけはしたい。
サモナーがいたとして、そいつのドロップが美味しければ、それなら手を出す価値もあるんじゃないだろうか。
即物的な判断だけど、このまま帰って「あのダンジョン、やっぱり駄目ですよ」と言うだけでは子供のお使いのようで、なんか嫌なのだ。
こんな事に勝ち負けなど無いが、なんか負けた気分になるのだ。
……水中ダンジョンの駄目さ加減は最初から分かっていたし、対処法もちゃんと具体案があるので、ああいうのは良いんだよ。
何の対策も取れないようであれば、手も足も出なかったという事で、完全敗北という気分になると、それだけの意地であった。
「……どこか、変な所に隠れているとか、そういうオチは無いよな?」
レドームを使って三人娘がサモナー探しをするものの、3時間ほど粘ったにも拘らず何の成果も出なかった。
普通のダンジョンであれば、ほぼ間違いなくエンカウントしているはずだ。
そうなると、根本的に考え方が間違っているというか、俺たちは何か見落としているんじゃないだろうか。
サモナーがいるという前提が正しければ、そうでなければおかしい。
洞窟内をくまなく探し回って見付けられないのは、どういうことか?
光織たちに確認してみたが、ダンジョンの壁が偽装されていて、どこかに隠し通路とか本当のダンジョンがあるとか、そういうギミックは無かったという話だ。
少なくとも、レドームの探知範囲に、“壁の向こう”は存在しない。
「ワンダリングなボスモンスター説は、さすがに無いだろうけど」
モンスター対策をしてから、定点カメラで監視したくなってきた。
出てくるモンスターはどうとでもなるが、ダンジョン内を歩き回る俺の気分はかなり下降している。
このダンジョンがどうなっているのか。
どうして石やら岩をドロップするモンスターしか出ないのか。
その謎が俺の手で簡単に解明できるなら、これまで来た他の誰かが気が付いていてもおかしくはない。
それでも挑まねば話にならないのだから、地道に可能性を一つ一つ潰していくしかないなぁ。