現場見学② 魚モンスター
何を作るか決めたところで、翌日に準備が終わるとか、そんな都合のいい話は無い。
設計して、材料を発注して、物が揃ってから製作開始。工場にも既存の仕事があるので、人員の確保のために仕事の調整もやらないとね。
上の立場から「早くやれ」「残業しろ」「休みも出てこい」などと言えばパワハラになるので、そうならないように配慮もするよ。
いつまでなら出来るのか、最後に現場の意見も聞いて、無理をさせていないか確認しておいた。
よって、完成までは早く見積もっても一月近くかかる。
時間が空いたので、サクサクと次のダンジョンを確認しよう。
鴻上さんがお勧めしたダンジョンその2。
水中戦メインのダンジョンである。
かなり広い湖に小さな浮き島が点在している環境だ。
ここは魚タイプのモンスターが出てくる。サハギンとかローレライのような、人型が混じったモンスターではない。
クラゲやら貝類のモンスターもいない。
出てくるのは、本当に魚タイプのモンスターばかりだ。
主に口のところが尖ったダツっぽいやつと、マグロのような大型のモンスターが出てくるらしい。
敵が魚モンスターなので、基本は水中での戦闘になる。
応用的には浮き島に逃げ込んでも安全ではなく、水面を跳ねて飛び掛かってくるし、浮き島を壊しに来る事もあるという。
だから水中戦ができないようであれば、絶対に行ってはいけないと言われている。
「一人でダンジョンに、来るのは久しぶりだな」
そんなわけで、今回は単独行動である。
光織たち三人娘はお留守番だ。
出てくる時にゴネられたが、彼女らは雨の中でも戦えるようにしてあるけど、泳ぐぐらいはともかく、水中戦は考慮してないから、連れてこなかった。
今のままだと、装甲に重めの一撃をもらったらそのままお陀仏だ。
水中戦仕様にならないなら、足手まといになる。
俺はダイビングウェアをベースにした水中戦闘用の服を着込むと、槍を片手に湖へ飛び込んだ。
水の透明度は高いけど、光の屈折やらなんやらで、視界が悪い。遠くが見通せない。
レドームでも有れば良いんだろうけど、あった所で俺には使いこなせないし、今はどうでもいいかな。
ただ、将来的には魚群探知機じゃないけど、そういった装備があっても良さそうだ。
遠方の索敵ができないと、マグロモンスターの突撃を食らって死ぬからな。
奴ら、時速100kmで突撃してくるらしいからな。直撃したら本当に死ねるぞ。
「慣れれば戦えるけど。水中だから疲れるし、体温の維持が面倒だよな。
あと、トレジャーボックスの回収が大変だ」
とりあえずで一時間ほど戦い、戦果を確認してみる。
マグロのモンスターが11体と、ダツのモンスターが38匹。
思っていたよりモンスターとエンカウントしなかった。ダンジョンがかなり広いという話なので、モンスターが密集していないのかもしれない。
このダンジョンを買ったとしても……プラスの利益に持ち込むのは、かなり大変そうだ。
戦闘経験、モンスタードロップ。
どちらの面で見ても、効率が悪すぎる。
戦闘難易度は高め。
連続戦闘による体温の低下はロボットなら気にしなくてもいいけど、敵が強い。
マグロ突撃が危険なのは分かっていた事。
これは有名なので、ここに来る冒険者が知らないというのはありえない。
経験という意味で知らないやつはいても、知識としては、ここに来るに誰もが知っている。
索敵の範囲が狭まっていたこともあり、緊急回避を余儀なくされ、かなりスリリングだった。
もう片方のダツのモンスター、これも曲者だ。
ダツのように突進してきたのが突き刺さりそうになるのをギリギリで回避すると、ヒレでこっちを切り裂くのだ。余裕を持って回避しないといけない。
コイツはくちばしだけでなく、全身が危険なモンスターであったのだ。
最後にドロップアイテムだけど、魔石が主力で、次点はおまけとして魚の切り身とかが手に入ってもあまり嬉しくない。
この切り身は安全だし美味しいんだけど、普通の魚とそこまで違いが無いので、売値が安いのだ。
そもそものエンカウント率が悪いので、稼ぎはさらに酷くなる。
そりゃあ、冒険者だって寄り付かない。
「専用のロボットを作れば戦えそうだけど、黒字にはならないだろうな」
そんな面倒くさいダンジョンを買おうという気にはなれなかった。
仕事で来ているので、判断材料は企業利益優先だ。
今は利益を見込めないので、いつか高効率で魚モンスターを狩れるようになってから挑めばいい。
俺はその後も何度か水中ダンジョンの情報を集め、やはり購入しないと判断するのだった。