対策検討①
エメラルドウルフ対策は時間がかかりそうだ。
地力の差がある以上、数と経験と技術、装備の力で地力の差を埋めるしかない。
その辺が一朝一夕でどうにかなるなら誰も苦労はしない。
頑張って、頑張って、埋まる“かもしれない”のが現実だ。
だから上手くいく事を信じて、できる事をやっていこう。
そんな訳で、帰ってきたらみんなで対策会議だ。
「狼系のモンスターなんですよね。ネット小説でありがちな、胡椒爆弾などはどうでしょう?」
「効かなかったらしいよ。唐辛子スプレーとかも効果が無かったって聞いてる」
「……それが有効であれば、高難易度ダンジョン扱いもされませんか」
「そういう事だね」
エメラルドウルフ対策に胡椒や唐辛子といった刺激物を使う作戦は、これまで他の冒険者たちが実行済みである。
俺たちは工夫してエメラルドウルフと戦おうとしているが、他の冒険者たちだって頭を使い、できる限りスマートに勝とうとしていた。
そういう理由で、すでにいくつもの対策が試されていて、有名どころと言える香辛料攻撃はすでに結果が出ていた。
もちろん、効果がなかったに決まっている。
そんな方法に効果があるなら、このダンジョンの問題は数年前に解決していただろう。ダンジョンの管理者だって、必死に知恵を絞ったに決まっているのだ。
それでも不人気ダンジョンなんだから、一筋縄ではいかないのは当然だった。
「足元にいるエメラルドウルフに対応するため、参式パイルバンカーの撃ち出し方向を正面に向けるというのはどうかね?」
「アリですね。音も大きいですし、緊急避難にだって使えそうです。良いと思います」
香辛料が効かなければ、普通に戦って有利を取れる装備を考えねばならない。
参考資料は先日まで戦ってきたので、動画がたくさんある。各々が手持ちのタブレットで戦闘記録を確認すれば、会議室で顔を突き合わせて話し合う事もできる。
四宮教授は、最初にパイルバンカーをエメラルドウルフ向けに改良する案を出した。
四足歩行のモンスターを相手にする、つまり人型よりも低い所に居るモンスターを相手にするのだから、足元の武装を強化するのは良い判断である。
「ブレードキック、つま先に衝角を取り付けるというのはどうでしょう?」
そうなれば及川教授も、某スーパーなロボットの装備を口にする。
これもアリだ。パイルバンカーは炸薬による高火力を期待できるが、連発には向かないし、コストが重い。
もっとコストの軽い、使い勝手のいい装備は大歓迎だ。
「効果があるかどうかはわかりませんが、腰回りにスカートを履かせても良いかもしれません。
下半身の防御力向上を見込めますし、スカートの中に武器を仕込む事もできます。スカートでなければ、前掛けでもいいです」
そして変わり種を思いつく鴻上さん。
宇宙世紀のロボットを参考にしたのか、それとも他の何かを思い出したのか。武器ではなく、下半身の防御装備を提案してきた。
股関節付近の装甲はちゃんとあるんだけど、それよりも少し広がった裾を持つスカートをはかせて防御力を高めようというのが目的だ。
体のラインがやや大きめになるので被弾しやすくなるものの、それ以上に防御を重視する形である。
これについては、判断保留。
敵の攻撃が下半身に集中するのは確かなので、保険として防御力を高くするっていうのは変な話じゃないんだけど、回避能力の低下はちょっと悩んでしまう所。
相手が素早い事もあり、スカートによる重量増加が致命的な被害に繋がるかもしれないからだ。
これは少し様子見が要ると思った。
チャフのような物も効果があるかもしれないなどと、全員参加で意見を言い合う。
事前に、戦う範囲に鉄杭を一杯立てておけば、サンダースピアが無効化されないかなどと、他の冒険者がまだ試していないかもしれないアイディアも飛び交う。
ブレインストーミング方式にしていたので、意見を言う前に調べておけとは誰も言わず、役に立つかもしれないアイディアだけでなく、ただ思い付いた事を言っただけという発言も出ていた。
意見の検討は後でするとして、アイディアはとにかく数で勝負だ。
他にも、エメラルドウルフが電撃の魔法を使うのだから、もしかすると奴らは電波で会話をしている可能性があり、スマホの通話を妨げるようなノイズ発生器などでその邪魔を出来るかもしれない、などと、また現地で確認して欲しいという要望も出てきた。
言うだけ言ってみたが、今回の下見では判断が付かなかった事は、申し送り事項として、先の予定として残しておく。
即採用クラスの意見はすぐにでも動き出すが、それでも用意する装備が実装されるまで、時間がかかる。
「よし、じゃあ次の下見だ!」
そんな訳で、俺は水中ダンジョンへと向かっていった。