製造ライン拡大計画⑤
「で、これらを攻略する、何らかの手順は考えてあるんだよね?」
「はい。まずはエメラルドウルフ対策です」
難易度が高すぎて企業が手を出していないダンジョン三つ。
一応でも、これらの不人気ダンジョンの攻略可能と判断した理由が知りたいので、その辺りを確認してみる事にした。
まず、エメラルドウルフ対策からだ。
電撃、サンダースピア対策は誰でも思いつくものだから、これはどうでもいいか。ある意味、全身金属鎧のタイタンだが、装甲と内部骨格、電子部品の間はちゃんと最初から絶縁されている。衝撃吸収やらなんやらのため、外部装甲へのダメージが致命傷になるような作りはしていないのだ。
新規の対策は不要だったりするので、この説明はカットする。
「相手が複数、6~10匹で襲いかかってくるのであれば、こちらも相応の数を用意すれば良いのではないかと考えています。1チーム15体のタイタンを用意すれば、数で押し負ける事は無いでしょう。むしろこちらが数で押し切るようにします。
味方の数を増やす分、レベルアップに必要な経験値が分散してしまいますが、敵も強くなるのであれば、相応の効率をたたき出せる物と考えています」
「レベルアップ前のタイタンだと、数で押そうが個の力の差で押し負けるかもしれないよ?」
「全員レベルアップ前にする必要はありません。最初は高レベルタイタンで牽引しつつ、数体、レベルアップしたタイタンを引き抜くパワーレベリング方式で対応可能と考えています。
そうして、数を熟し、経験を積んでいけば、低レベルのタイタンだけでもエメラルドウルフに対応可能な体制が整うでしょう」
……理には適っているなぁ。
タイタン達はロボットのため、経験の共有が可能だ。
たとえレベルアップの回数が足りなくても、戦闘経験が積み重なれば、いずれは素のままでも対応が可能になるだろう。
戦いは身体能力だけで決まるものではない。戦闘の経験、慣れといった要素は無視できず、致命的な性能差さえなければ、それでどうにでもなるのだ。
序盤の戦闘さえ乗り切れば、確かになんとかなるだろう。
「水中のダンジョンには、水中戦闘専門のタイタンを用意しましょう。
そして、ギルドが所有する水中戦のあるダンジョンに売り込みます。商機は陸上だけではないのですから、この機会に販路の拡大を目指すのも良いと思いますが」
「いや、それは、他のダンジョンのフォローにはならないし、新しいリスクを抱える事にならないかな?」
「その時はその時ですよ。すぐに動ける事ではありませんから、このダンジョンについては、長い目で考えてください。
できる事は、多い方が良いでしょう?」
2つめの水中ダンジョンについては、そもそも今回の件と関係無く、うちの技術力なら対応できるタイタンを作れるから、別のラインを立ち上げたいようだ。
言いたい事は分かるし、水中戦のあるダンジョンは国内だけでもあと4~5個はあったはずだから、売れる可能性はあるだろうけど。俺としては、かなり微妙だ。
「3つめの赤字ダンジョンについては、レドームで地面のモンスターに対応しつつ戦えば良いと考えていますよ。
人間であれば対応が難しくとも、タイタンならばそれで対応できるはずです。
もっとも、これについては保証できる話でもありませんし、現地で確認をしてから判断するべきだと思います」
「まぁ、そうだね。他もそうだけど、購入前に現地の確認は必要だよね」
3つめのダンジョンについては、人間だと面倒くさいモンスターも、ロボットなら対応できるという、シンプルな話だ。
赤字が出るというか、魔石などが回収できないのはマイナスだ。レベルアップ目当てで頑張るとしても、価格に上乗せするっていう手を使うしかないか?
レベルアップ前の、コスト重めのタイタンがレベルアップまで魔石を消費する量は、かなり多めだからな。仮に2ヶ月使うとすると、そのままの値段では売れなくなるぞ。
「ドロップアイテムがない事については、どう考えてますか?」
「価格に反映させないとした場合、そのダンジョンで育成するタイタンだけを見れば赤字一歩手前のコストになるでしょうが、それでも全体で見ればまだ黒字です。
だったら市場を早期に制圧する為のコストと割り切り、規模の拡大に努めるのも戦略ではないでしょうか」
それは鴻上さんも織り込み済みで、価格への反映を最小限に抑えつつ、会社全体の利益を最大化するため、生産ラインの拡大を優先したいという考えらしい。
他の会社が真似をしていない今のうちに、大型ロボットのトップブランドとしての地位を確固たる物にするのが最善だという訳か。
「そこまで長い間、リードを保てるとは思っていません。他社は必ず近いうちに、同性能、いいえ、より高性能のロボットを送り込んでくるでしょう。
我々が戦えるのは、今しかないんです」
強気の拡張路線も、数年先を見通してしまえば必要な一手であると。
「成功する企業は、必ずターニングポイントで大きなリスクをとる決断をしています。もちろん、そういった決断をした企業の半数以上が、失敗して消えていったわけですが。
それでも、我が社が前に進むには、ここで弱気に出るわけにはいかないのです」
鴻上さんは、どちらかと言えば安定志向、堅実堅調な成長を望む俺には無い判断をしていた。
俺ならやらない。
けど、この会社は鴻上さんの会社なんだから。
「なるほど、ですね。
では、この三つのダンジョンのどれかを――」
「三つとも、でも良いと思いますよ?」
承認しようと口を開いたが、鴻上さんは俺が考える以上にアグレッシブだった。
うん、まぁ、良いんだけどさ。
一度に風呂敷を広げすぎると、畳むのが大変だよ?