俺とおっさんと自由時間
酒が入ったので、頭がしっかり働かない。だからこの日のお仕事は終わり。
風呂で汗を流し、疲れをとってさっさと寝た。
「おはよう! 原神のメンテナンスは順調だよ!」
翌朝。
朝の七時に自分のコンテナから顔を出すと、四宮教授がすでに仕事をしていた。
原神のメンテナンスしていたようだ。
「おはようございます。朝、早いですね」
「うむ! 早く寝た分は早く起きて、朝ごはん前に軽く頭と体を動かすことにしているのさ!
私はもう若くないからね! こうやって健康には気を遣っているのさ!」
原神のメンテナンスは、キャンピングカーのような、専用の車両で行われる。
これも俺の購入品だが、四宮教授も関係者でありメンテを行うので、スペアキーを渡してあった。
まぁ、車内は精密機器を扱えるほどの状態ではないから、メンテナンスと言ってもハードは簡単な事しかできない。通常メンテのメインはソフトウェアになる。
だからメンテ車両は基本的には四宮教授専用と言っても良いのである。
今も専用の台に支えられた原神の横に設置された機械でコンディションチェックと同時に、学習したデータが悪さをしないか確認していたようだ。
他にも何かしていたかもしれないが、マニュアルに書かれた事以外は俺にはよく分からない。
俺は専門知識がないし、そう簡単に分かるようになるなら、誰も大学に行かなくなるから、分からないのも仕方がないよな?
二人で和風な朝ごはんを食べて、コーヒーを飲みながら今日の予定を話し合う。
「今日の予定だが、昨日と同じく午後から原神をダンジョンに連れて行くという流れで良かったかな?
それと、明後日は午後に講義があるから、明後日も午後からの出撃であるなら、今日明日の間に原神への操作を教えておきたいのだが、どうだろう?」
こういったミーティングは冒険者時代にもやっていた。
何も考えず、ただダンジョンの奥を目指して突っ込むようでは、冒険者は生き残れない。
事前に計画を立て、仲間との連携を確認する時間を用意するのが当たり前なのだ。
そういう事をしないとすぐに赤字になるし、怪我のリスクが高くなる。
たとえ二人だけと少人数でも、こういった話し合いは頻繁に行い、予定の調整をしないといけない。
話し合いに手を抜くと、余計に手間がかかるのだ。
冒険者のときは、それが理解できるようになるまで随分かかったけどな。
こうして午前中がフリーになった俺は、昼まで鍛冶をすることにした。
「玉鋼じゃないけど、砂状にする事でどこまで変わるかな?」
ゴブリンメタルの精錬はあれから何度もやっている。
魔法陣を使った炉なので、製鉄で言うところの銑鉄、高炭素状態の金属が出てこないので転炉は必要ない、と思っていた。
だが、それでも造滓剤の石灰石や木炭を還元剤として少量使っていくのが有効で、何度か融かしては固める工程もあった方が良かった。
一度目はともかく、二度目以降は金属の状態も混ざって安定しているため、そのままの形状を保って融かす理由もない。
なので、一度融かした金属は粉にして、ある程度状態の良い物のみを選別してから融かすようにしてみた。
結果として、これは正解だったようだ。
この工程を入れるか入れないかで随分品質が変わった。
今では鉄とそこそこの勝負ができるところまで質が良くなっている。
それでも鉄に勝てないのは仕方がない。
これぐらいの手間で鉄以上の評価になるなら、企業が動いている。
鉄鉱石の殆どを輸入に頼っている日本なら、ゴブリンメタルが実用性十分と思われれば、不人気ダンジョンが美味しい資源採掘場になる。
そうなっていないという事は、企業が匙を投げる程度に価値が無いのである。
……いや、頑張って集めた所で、そこまでの量を確保できないからか。
ゴブリンメタルの回収量に鉄の値段を考えると多少のリスク分散にしかならないし、コストと利益のバランスが問題になる?
原神による機械化、自動化が進んだら状況は変わるだろうか?
うん、俺が考えても分からないな。
こういう難しい事は、偉い人が考えればいいか。
一個人でしかない俺は、趣味のレベルで実用品を作る事に専念しよう。
幸い、ダンジョンの安定化は早い段階で目処がついたし。何も焦る理由もないからな。気楽に行こう。
考えても何もできない事は頭から追い出し、俺は今回分の素材やらなんやらを炉に放り込み、ゴブリンメタルの精錬をするのだった。




