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製造ライン拡大計画④

 かつて、ダンジョンは「土地のマイナス要素」でしかなかった。

 ダンジョンがあった所で、それを攻略してくれる冒険者には限りがあり、人が集まらないからだ。

 そして冒険者にしてみれば採算の取れないダンジョンに行く理由がなく、ただでさえ少ない冒険者は、稼ぎやすく、交通のアクセスが良いダンジョンに集中していた。


 そんな状況が一変したのは、俺たちがロボットによるダンジョン攻略を始めてからだ。

 不人気ダンジョンのうち、稼ぎにならないと切り捨てられたゴブリンしか出てこないダンジョンは全て企業が押さえていった。

 他には、交通のアクセスが良くないダンジョンもここで買い漁られ、売り尽くされていった。


 そこから時間が経ち、売れるダンジョンの基準は徐々に、緩やかにだが、確実に緩和されていく。

 作られるロボットの性能が上がったとか、試験用のロボットのレベルが上がったとか、特定の傾向を持つ不人気ダンジョンに対応するためだとか、理由は様々だが、買えるダンジョンの幅は数年前よりかなり減っている。


 よって、今も売れ残っているダンジョンは、冒険者と企業の両方から見てかなり条件が悪く、誰も見向きもしなかったダンジョンばかりでしかない。

 俺が買うのを渋った理由は、だいたいそんな理由だ。

 コストに見合わないダンジョンを押さえてどうするんだと、そう思っていたのだ。





「条件のマスト(譲歩不可)は、タイタンのレベルアップに使える事。

 それ以外に目をつぶっても、売りに出ているダンジョンは、三件しか残りませんでした」


 鴻上さんが持ってきた資料を見れば、タイタンのレベルアップに使えそうなダンジョンはたったの三つ。

 どのダンジョンも、お金を払ってでも買っていって欲しいと言われるような、かなり酷い条件の物ばかりであった。



「初っ端から属性持ちモンスターか。これ、本当にタイタンの訓練に使えるんですか?」

「ありがたい事に、風属性ですからね。防電さえしっかりしていれば、戦えるはず(・・)ですよ。メタ装備さえ用意しておけば、遅れはとりません」

「……やってみないと、断言はできないわけですよね。先に、それで本当に上手くいくかどうか、試さないと拙いんじゃないですか?」


 一件目。高難易度ダンジョン。

 僻地にあるのは良いとして、出てくるモンスターがオーガよりも上の難易度、属性持ち、遠距離攻撃魔法を使ってくる『エメラルドウルフ』という、ヘルモード。

 風属性の魔法と言えば、ゲームとかだと「ウィンドカッター」「かまいたち」「トルネード」とか、そういう魔法を使ってきそうだけど、エメラルドウルフの場合は、「サンダースピア」という、電気でできた槍を撃つ魔法を使ってくる。電気系の魔法は風属性らしい。


 こいつらと戦う時はできるだけ正面を絶縁しておくか、電気を誘導してくれる装備で身を守るしかない。

 電気の槍(サンダースピア)は魔法の産物だけど、多少は物理法則が有効なのだ。


 そうやって遠距離攻撃への防御手段が確立しているなら楽に戦えそうだと思えるけど、別に、近接戦闘が弱いというわけでもない。

 エメラルドウルフは狼系のモンスターだけあって集団で戦闘を挑んでくるのがデフォルトで、連携しつつ素早い動きで攪乱してくるから厄介だ。

 顔を守るために野球の審判が付けているような防具を身に着けないといけないので、頭が重くなるうえ、視界が悪くなるというのもマイナス要素だ。


 ……これでも属性持ちのモンスターとしては初心者用というのが、救いの無い話なんだけどな。





 二件目は、単純に立地が良くない。ダンジョンの外も、中もだ。


「一日の大半は海の中。引き潮の、数時間だけが入れる時間というわけですね。そして内部は水中メインと。戦艦とまでは言いませんが、俺たちも船を造りますか?」


 思わず造船したくなるような、そんなダンジョンである。

 一応、少ないながらも陸地があるので、タイタン用に使えない事もないんだけど。使えなくもない事と、使える事は、言葉に含まれる情報に大きな開きがある。

 ここを押さえるなら、水中専用のタイタンが必要になるんじゃ無いかな?

 つまり、ギルドに売るようなタイタンには使えないと思うんだ。





 最後、三件目。


「……これは、判断に迷いますね」

「通称、『赤字ダンジョン』とまで言われていますよ」


 出てくるのは、『ストーンゴブリン』という、石でできた小人型ゴーレム。

 小さいので通常のゴーレムよりも弱いのだが、倒しても、石とか岩しかドロップしないという、冒険者が絶対に来ないようなダンジョンである。


 ただ、それでもレベルアップさえするなら、企業が購入する。

 彼らはドロップアイテムなど二の次で、ロボットのレベルアップさえするなら、企業は気にしない。

 だが、このダンジョンは足場が最悪だった。丸い岩がゴロゴロと転がっているだけで無く、その岩の中にモンスターが混じっていて、下から上へと発射されるのだ。この岩が『ロケットストーン』というモンスターなのだ。

 そしてこいつらもアイテムを落とさない。


 普通の冒険者や人型ロボットが歩こうものなら、顎を打ち抜かれるとか、足をすくわれるか。そして倒れようものなら、全身を打たれてそのままやられるだろう。

 非常に危険である。


 ドロップ無しなのにロボットがやられる可能性が高いのだから、赤字になる確率が高すぎる。

 例えレベルアップのためであっても、金銭的な旨みの無さまで考えると、普通の企業はここを購入したりしない。





「どれも欲しくは無いなぁ」


 候補に挙がらなかった他はもっと酷いのだが、それを見たあとでも「これぐらいならまだマシかな?」といえないのが今回候補となったダンジョンたちである。

 まともなダンジョンが残っていないとはいえ……買いたくないと思った俺は、悪くない。

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― 新着の感想 ―
[一言] 工場の奴らは絶対2件目を欲しがると思うんですよ タイタン水泳部作るとか言い出すに違いない クローアームとかつけて
[一言] どのダンジョンも〇〇耐性とかがタイタンに付きそうなダンジョンですね。
[一言] どっかダンジョン買ったものの経営失敗して、丸ごと買い取れるような企業はないかなw
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