製造ライン拡大計画③
よその企業に大きい人型ロボットは無い。
どこも、主力は人間サイズばかりである。
それはそうだろう。人間サイズで作れば、武器などは人の物の流用が利くのだから。
複数の企業がスタンダードを作っている所に、独自規格と言うのは無謀な挑戦である。何かしらの明確な強みが無いと生き残れない。
そんな厳しい世界で、タイタンは運良く新しいスタンダードと成れそうだった。
「そういえば、タイタンの長時間駆動の秘密を探るべく、ギルドのタイタンからバッテリーを盗んでいったコソ泥が出たそうだよ。
無駄なのに、ご苦労な事だよ。この分なら、当分はリビングアーマーにたどり着かれる事は無さそうだね!」
もっとも、タイタンと同性能のロボットが出回るのは、もっともっと先の話だろうけどね。
イギリスあたりはリビングアーマーの秘密に気が付いているだろうけど、あっちも公開していないから。全力で隠すつもりも無さそうだが、積極的にバラしはしないみたいだね。
大きく動いている所があるんだし、いずれバレるとは思うけど、秘密が守られている間は、うちが独占させてもらうよ。
……そんなにたくさんタイタンを作れないけどね。
独占の意味があんまり無いなぁ。
「増産計画が必要ですね」
「新しくダンジョンを確保するのかね?」
「はい。そこで、一文字さんの承認を頂きたいのですが」
「俺は、経営には口を挟みませんよ?」
「そういう訳にはいきません」
「経営権を放棄したとしても、相談ぐらいは聞いてあげようよ」
俺はタイタンの生産数が少ない事を、仕方がないと諦めていた。
人間の問題ではなく、レベルアップと言う特殊な工程の問題だからだ。
所有するダンジョンの規模などを考えると、どうしても生産台数には制限がかかる。
だったらダンジョンの数を増やせばいい。
鴻上さんはそんな主張をして、新しくダンジョンを買ってしまおうと提案をしてきた。
俺は企業経営という難しい問題に関わりたくないので、現場のテストパイロットの他は、開発チームの上司という立場に満足している。
前オーナーではあるが、だからといって、権力を振りかざすつもりは無かった。
好きにすればいいんじゃないかと思う訳だ。
ただ、鴻上さんはそれでも俺の意見を聞きに来る。
重要な案件の場合は、俺の承認無しでは動かない。
できれば、こういった相談をして欲しくないというのが本音である。
重要な案件だけに、下手を打てば会社が潰れる事も考えられるんだよ。
あとで俺が資金を投入してしまえば、そうはならないんだろうけど。正直、そういう事はもうしたくない気持ちもある。
俺の金を頼りに経営する企業なんて、どう考えても不健全だろう?
それはそうと、新しいダンジョンの購入計画だ。
新しいダンジョンを買って、タイタンを増産する。
それは分かるんだけどね。
「タイタンの増産のため、新しいダンジョンを買う訳だよね。その場合、タイタンの特需が終わった場合、ダンジョンの管理が手間に……なるけど、管理できないわけじゃないんだよね」
「はい。戦力は自社だけで賄えますから、ダンジョンが消えでもしない限り、特に問題は起きないと思われます」
「そうなんだよなぁ。ダンジョンが消えない限り、問題は無いんだよなぁ。
今じゃ、ダンジョンが消える方が問題なんだし」
通常、ダンジョンを購入したときに一番問題になる、ダンジョンの攻略放棄によるスタンピードは、俺たちだと問題にならない。
ロボットを使ってダンジョンを攻略し、そこから資源を得る事が目的なんだから、攻略を放棄する事は無い。よって、スタンピードも起きない。
ダンジョンを買う事で生じる、一番の問題は考えなくて良かった。
むしろ、そうやってお金を出してダンジョンを買って、そこでのレベルアップを生産工程に組み込んだ場合、ダンジョンが消えてしまう方がよっぽど困る。
予定していたダンジョン攻略が行えなくなれば、出荷予定が狂ってしまう。
……いや、待て。
「生産ラインの増加は考えずとも、ダンジョンは増やさないと拙いですよね」
「ふむ。言われてみれば、その通りであるな。今あるダンジョンだって、いつ無くなるか分からないのだからね」
そうやって将来の懸念を口にしてみると、全く違う方向から、自分たちが爆弾を抱えている事を思い出した。
「そうでした。我々は、いつから所有しているダンジョンが消えないものだと錯覚していたのでしょうね」
俺が最初に購入したゴブリンダジョン。
鴻上さんの勧めで購入したアンデッドダンジョン。
気が付いたら所有地の中にあった野犬ダンジョン。
これらのダンジョンは、永遠不変ではない。
いつの間にか消えていました。いつ、そう言われてもおかしくないのだ。
現状が安定していたため、俺たちは無意識にリスクから目を逸らしていた。
「ダンジョンを買いましょう。
そこでレベルアップさせるタイタンは予約分に入れず、別で販売しましょう。今ならまだ、在庫を抱えても大丈夫です。すぐに売れるでしょうから。
買えそうなダンジョンのピックアップはしてありますよね?」
目の前のリスク。しかも特大のそれから目を逸らしてはいけない。
理由は違うけど、鴻上さんが良い感じに動いているので、今はその流れに乗ってしまうのが良いだろう。
俺は手のひらをくるりと返し、鴻上さんに動き始めるよう、指示を出すのだった。