製造ライン拡大計画②
工場でタイタンを作ってもらって、俺がダンジョンに連れて行っては育成をして、ギルドに売る。
ギルドはそれでダンジョンを独自に攻略したり、冒険者への貸し出しで金を得る。
ダンジョン素材は未だに品薄で、そうやって流通量を増やしたところで焼け石に水。
まぁ、インフレは法的に抑制されている様だけど、冒険者ギルドも上手く立ち回っているんだけど、供給が追い付いていないのだから、昔話題になった「ロボット冒険者が人間の冒険者を駆逐する」といった状況にはなってくれない。
「一文字君! リビングメイルのドロップアイテムだがね、イギリス政府が大量発注をかけているのだよ!
彼らは、それを戦艦の装甲素材に使うつもりのようだね。こちらと同じく合金化をするようだけれど、合金化前の鎧だけでも千t単位で発注がかかっているようだね」
「戦艦に使うかどうかはわかりませんけど、とんでもない大口発注ですよね」
工場に顔を出すと、四宮教授が今朝のニュースから漏れた、国外のホットニュースで騒いでいた。
イギリスがリビングメイルのドロップアイテム、金属製の全身鎧を通常の3倍の価格で買い取ると発表したらしい。
リビングメイルのドロップアイテム、金属製の全身鎧は鉄くず扱いで安く買い叩かれる素材だったのだが、今はうちの会社がリビングアーマーを作る素材として買い取っているので、今では同重量の鉄と比較して倍ぐらいの値段になっている。
それを使って戦艦の装甲を作ろうと思うと……うちが関わる事ではないけど、とても面倒くさい事になりそうだ。
合金化には、ダンジョンでモンスターを殺しながら金属精製をしないといけないんだからな。
イギリスだって自前のダンジョンがあるのに、それでも海外に手を伸ばすんだから、どれぐらいのサイズの船を作るんだろうか。
千トン単位だと、どれぐらいの日数、どれぐらいのモンスター殺害数が必要か、計算したくもないほどたくさんなんだろうね。
以前の戦艦は集めやすいゴブリンメタルを使っていたはずだけど、それでは物足りなくなったのかね?
遠い国のダンジョン事情は横に置き、問題はこっちの話だ。
ギルドがタイタンを購入を決めた事で、一般の冒険者から、タイタンに関する問い合わせが届き始めた。
「現在はタイタンの一般販売を行っていません」
「いえ、お金の問題などではなく――」
「販売再開の予定は、今のところ、有りません」
機に敏な冒険者は、タイタンの購入を考えて動き出していた。
でも、先にギルドへの大量販売が決まったので、彼らがタイタンを欲しがったところで、易々と買える物ではない状態となっていた。
生産能力が足りていないのだから、諦めてもらうしかない。
AIの電話番に対応させなければ、工場の電話回線がパンクしていたよ、
笑える話だけど、他のロボット生産会社には、タイタンサイズのロボットを売ってないか、そういった物を作る予定がないかと、問い合わせが殺到しているようだ。中には「無いなら作れ」とまでいった馬鹿も混じっている。
中小企業規模のうちで作れるのだから、大企業だって作れるだろう。そんな考えの人が大勢いたようだ。
そんな、単純な話でもないんだがなぁ。
たとえ大企業であっても、レベルアップという工程を抜きにしても、新しいロボットがポンポン出てくるわけではない。
試作機を作り、動作テストをして、改良と改善を繰り返し、耐久テストを含む様々な基準を乗り越えて、新型ロボットを世に送り出すのだ。ベースとなる技術は既存の技術の応用でしかないが、だからといってぶっつけ本番で、試作もせずに、タイタンのようなロボットを作れるわけがない。
そして作れたとしても、生産ラインを用意できるかどうかはまた別問題だ。
場所、物、人の手配は大変なのだ。特急で対応させるにしても、特に部品の類は自社だけですべて賄う訳ではないのだから、限度というものがある。
そして生産ラインがあったとしても、ロボットは車以上にお高いのだし、基本的に注文から納品まで、数カ月単位で先の話と言う訳だ。
注文したら翌日に届くお手軽商品ではない。
ただ、馬鹿な奴というのはそこがちゃんと理解できておらず、在庫が無いのは怠慢だとこちらを詰り、存在しない商品を相手に値引き交渉までするというのだから恐れ入る。
無茶振りにもほどがあると、同業者の苦労を想像して笑うしかなかったよ。
彼らはお客様で神様かもしれないが、無茶振りをすれば自身が「疫病神」になる事を理解してないんだろうな。
「欲しい」と思うのは勝手だし、それを咎められる謂れは無いが、他の誰かに負担を押し付けようとするなら、それはただの自分勝手だよ。金なら出すと言われようが、客とも言えない。
こういう時、「だったら自分で作れ」って思っちゃうんだよな。生産者としては。