有名税④
高い有名税の支払いを終えた俺は、面倒事に対する最後の処置のため、冒険者ギルドと商談をしていた。
「今回の様な件を未然に防ぐためなので、こちらとしても最大限に勉強させていただきます。
こちらの資料をご覧ください。それでも大きな買い物になるのは確かですが、これまでの運用実績を考えれば、早い段階でプラスに転じる事が保証されていてーー」
有名税の発生源。埼玉冒険者ギルドとの契約、モンスターの定期的な駆除依頼をどうにかするのである。
その手段として、俺はある程度育ったタイタンをギルドに売却する事を決めた。
リスクアセスメント、危険予防の考え方で最善と言われる危険への対策は、「危険作業をしない事」である。
危険な作業はやらなければ安全と、非常にシンプルで効果的な方法だ。
もっとも、これは一番難しい対策でもある。
やらずに済むなら、そもそも仕事として引き受けたりしない作業が大半なのだ。
俺の有名税の問題みたいなケースはレアである。
普通は機械的対策、道具による対策、教育による対策と、リスク低減処置で対応するものだ。
高所作業で例えるなら、柵を設置する、フルハーネスの墜落制止用冶具を使わせる、安全教育を受けた作業員以外にやらせない、といった具合だな。
今回みたいな有名税の問題だと……俺がすぐに法的措置を取る奴だと認識させる教育による対策と、連中と顔を合わせないように俺がコソコソする方法の対策ぐらいしか思いつかない。
「いや、こちらの情報を周囲に開示する対策もありますよ?
私的な冒険稼業ではなく、企業による業務となれば、周囲の反応も変わってくると思います」
「変わるのかな?」
「何もしないよりは、確実に」
「けど、この仕事、そこまでして続ける理由もありませんよね」
タイタン売却は、そこまで変な話ではない。
もともとうちの会社は、ロボットの製造と販売をする、そういう企業だ。
俺にも利益があると思ったし、ギルドの人が親身になってくれたから直接手を貸したが、本来は業務外の請負契約だったのだ。
それを本来の流れに戻すだけ。
取れる手段は俺が考えたものの他にもたくさん有るようだが、手間とコストとリスクを考えると、これでいいと思う。
これがお互いにとって、最大の利益になるよ。
「冒険者ギルドでは、ロボットの貸出業務も行っていますよね。これもその一環になるでしょうか。
予算に関しても、ローンを5年で組めば月あたりの支払いはこれぐらいですし、ドロップアイテムによる収益で相殺すれば、現実的な範囲に収まるはずです」
「手持ちの現金が減りすぎると、買取業務に支障が……」
「いやいや、そのための分割払いじゃないですか。
先程も申し上げた通り、ギルド単独で収益を上げられれば、他のギルドで行うような、貸出に使う搭乗型ロボットの購入費用と大差ない額に収まるはずですよ」
そんなわけで、限られた予算でやり繰りしなければいけない冒険者ギルドを相手に、プレゼンをしている。
実際に運用して、どんな戦闘をしているかを見せているので、こちらの言葉には信憑性があるし、なんなら直接ダンジョンに連れて行ってもいいと強く申し出る。
高額商品の購入を即決できないのは当たり前なので、最初の商談はメリットとデメリットを説明するだけで終わる。
このあとも何度か話し合い、利害のすり合わせをして、合意に持っていくのだ。
オプションの装備、メンテや修理などのランニングコスト関連、そういった部分でどこまでサービスをするか、サービスを引き出すかの調整である。
人間的に仲が良かろうと、金銭部分は互いにシビアに交渉をした。
主に俺が前に出たけれど、細かい条件の設定を鴻上さんに任せ、及川教授にチェックしてもらいつつ、双方が納得できる落とし所を探り出した。
そうしてなんとか、金銭的な利益が出る範囲に収めてきた。
値引きやサービスは同業他社を参考にしたから、かなり痛かったけどね。
こちらは中規模の会社なので、大企業レベルのサービスをすると、規模の差で効率化できない部分が出て厳しいのだ。
まぁ、これは今回限りのつもりだから、大きな利益に繋がらなくても良いんだけどね。
逃げるようでシャクではあるが、ここは意地を張る場面ではない。
俺とギルドの関係を以前と同じぐらいの距離感にすれば、連中の感情にくべられる燃料が無くなり、たぶん少しは状況も落ち着くはずだ。
それ以前に、連中の前に出て嫌な思いをしなくて良くなるのは確実なのだ。
俺はこうして、一時の平穏を手にするのだった。




