有名税③
ネット上で誹謗中傷への対処をしたのは良いんだけど、問題はネットだけで起きているわけじゃない。
出入りしているギルド、現場では未だに暴言を続けている連中がいた。
「アレが、例の」
「なるほど。確かに、金を持っているんだな」
コソコソと噂話をされるのも気分が悪いけど、こちらに聞こえるギリギリの音量で、ネット上に書き込んだのと同じ発言をしてるバカもいた。
「チッ。死ねば良いのに」
「ロボに頼るだけの能無しが」
「モンスターに殺されちまえ」
俺でも聞こえるという事は、タイタンの集音マイクであれば完璧に録音がされているという事でもある。
俺はギルドの職員に話を通し、リアルタイムで連中の発言をギルドのサーバーに送信していた。
これはこれで誹謗中傷の証拠となり、次の裁判を有利に進める一助になるので、第三者にも証拠として保管してもらっているのだ。
それと、ギルド職員から、そういった行為を止めるようにと忠告までやってもらった。
ネットでアウトだった行いがリアルでは許されるとか、そんな甘い話はない。
リアルだって場をわきまえず悪口を垂れ流していれば、名誉毀損・侮辱罪で訴える事も可能になる。
一回や二回ならともかく、継続的に、多数に対しそういった事をしていれば、有罪となり相応の罰が下される。
ネットに続いてリアルで訴えられ、敗訴した場合は悲惨だ。
今はまだ冒険者を続けていられるが、人格に問題ありとして、冒険者資格を停止、ダンジョンへの入場を許可されなくなる可能性が高かった。
国の資格である冒険者免許は、人格に問題ありと判断されればそういった処分も可能になるのである。
その辺りは、猟師の銃の規制とそこまで変わらなかった。
この件にギルドが関与しているのは、ギルド内の問題を最小限に収めるためだ。
問題は俺と連中の間、個人間のトラブルだが、どちらもギルドに所属しているとなれば、ギルドだって無関係ではいられない。
この場合、ギルドは中立の立場をとらねばならないが、俺への協力は常識の範囲であり、中立性を損なうものではないから許可されていた。
ギルドは俺贔屓だけど、そこで連中を除籍するような強権を使うなど、偏った対応をしてくれるわけではない。
証拠の保存をするのは、俺の主張が過剰にならないようにするため。
忠告をするのは、ギルド内で行われる誹謗中傷という問題行為を自主的に解決するため。ついでにそれ以上の犯罪への牽制にもなる。
どれも、公平公正な立場で行われる一般的な対応だ。
あとは、警察への早期の相談だ。
「はいはい。被害届と告訴状は受け取りますけど――」
「大丈夫です。今はそういった事があったという記録さえ作ってもらえれば、それでいいので」
現段階では、人から悪口を言われたというだけの、それだけの話。
警察が相手を逮捕すると言うほど、深刻な話でもない。まぁ、連中のやっている事が悪質になれば、刑事事件に発展する恐れがあるとして警告ぐらいはやってくれるようだけど。逮捕は無理だね。
今は話を聞いてもらい、調書という形で警察にも証拠を残しておきたいだけだ。
たまにフィクションで「警察は役に立たない」「話を聞くだけで何もしてくれない」などという台詞を耳にするけど、だからといって最初から警察を無視するのは早計だ。
ちゃんと相談したという実績を記録に残し、相手の逃げ道を塞ぐだけでも意味はある。
警察を役に立たないと決めつけ何もしないでいると、何か起きた時に「早くから分かっていたなら、なんでもっと早くに言わなかったんですか!!」とお叱りを受ける可能性もあるので、相談をした方が絶対に良い。
「今回の件の前に行われた裁判の話や、冒険者同士のトラブルですし、こちらも早めに動くかもしれませんので。
では、何かあれば携帯電話に連絡します」
「はい。ありがとうございました」
冒険者は魔力次第であるものの、一般人より強い力を持っている。
よって、格闘家がそうであるように、ちょっとしたもめ事がやり過ぎになり、被害が大きくなる危険性が高い。
警察は民事不介入の原則で静観する事が多かろうが、事件発生時のリスクによっては早期解決を目指す事もある。
冒険者関連の問題は、早めに動く事もあると説明を受けた。
……長年足踏みしているとは言え、生身でオーガを相手できるランクの冒険者なら、そういう扱いだろうなぁ。
ロボット頼りのオトモ冒険者よりは、戦い慣れていて厄介だろうし。
一部では俺単独の戦闘能力が疑われている事も含め、暴発する危険性もあるだろうさ。
こっちが見た限り、相手はパーティでも俺一人で圧倒できる程度の実力しか持ち合わせてないんだけどな。




