有名税①
タイタンはゴーレム相手にはパワー負けするものの、ガーゴイルが相手であれば力押しで勝てる。
手にしたハンマーを振りかぶっては、ガーゴイルを砕いていく。
敵の数が多い時は、手早く片付けるためにハンマーの追加機能が使用される。
『インパクトハンマー』。モンスターにハンマーの棘が当たると、その圧力で棘の奥に仕込まれた炸薬が爆発して、棘を押し出す。要は、変則的なパイルバンカーである。
最初に企画書を見た時はネタ装備かと思ったが、実際に使ってみると、クリーンヒットすればガーゴイルを一撃で倒せるほどの、意外と強くて面白い武器であった。
「『インパクトハンマー』はかなりの威力が期待できるな。回数制限付きだけど」
それを見ている俺は、これぐらいはやっておこうと、頭を砕かれ消えたガーゴイルが落としたトレジャーボックスを回収する。
見ているだけだと暇なのでこうやって体を動かしているが、本来はこんな仕事も必要ないんだよな。
普段は『リトルレディ』に任せているんだから。
その昔、バトルクロス初期型の中身を担当していた『リトルレディ』が暇をしていたので、現在の彼女らはタイタンのダンジョン攻略について行き、トレジャーボックスの回収係をやっている。
リトルレディは光織たちより細身なので、パワーが足りず単独でモンスターと戦うには厳しい。なので、戦うよりも補助的な役割をさせた方が良いと、アイテム回収係をやっていた。
このリトルレディ、ポーターとして冒険者相手に売り出してみたいところではあるが、残念ながら、需要が無かった。
そんな役割に数百万円を払う物好きはいない。欲しい事は欲しいが、値段が高すぎると。そう言われてお終いだ。
売れたところで採算が取れなければ意味が無い。潜在的な需要を発掘できるほど、ロボットを安くできないのであった。
そうやってタイタンを連れまわし、試作装備の実験をしていると、少しだけ問題が発生する。
「チッ!」
周囲の冒険者の目だ。
埼玉ダンジョンはそこまで人気が無いけれど、お金を出さなければ人が来ないような不人気ダンジョンという訳でもなく、オーガのいる浅いあたりではたまに他の冒険者を見かける。
そんな冒険者が俺を見ると、3組に1組は舌打ちしたり、好意的ではない視線を向けてくる。
さすがにカメラの存在を意識してか、不意打ちを仕掛けて来たり罵声を飛ばす輩がいないのが不幸中の幸いであった。
こういう連中は、ガーゴイルに挑む気概が無く、オーガ相手に金を稼げればいいという奴らなのだと思う。
もしくは、冒険者になったばかりの頃に金で苦労してきたため、タイタンを連れて歩ける俺が妬ましい奴らなのかもしれない。
何と言うか、そういった連中の顔は非常に分かりやすい。金の欲に目が眩んだ、そんな顔ばかりなのだ。
埼玉ダンジョンにタイタンが常駐するようになって、そういう連中が地味に増えていた。
相手がこちらに嫌な顔を向けるだけなので、今のところ、ダンジョンの中でも外でも、俺の方から接触する気はない。普通、誰でもそうする。
中には物理的説教をしに行く人もいるかもしれないけど、俺はそういうキャラじゃないのだ。
実害の無い面倒臭い奴らなど、相手にする価値は無いのである。
……それで済むと、思っていたんだがな。
「ネットで一文字さんが叩かれているようです。
『埼玉ダンジョンで、成金がお遊びでロボット任せの冒険者ごっこをしていてムカつく』
こういった書き込みが増え始めていました」
それに気が付いたのは、及川教授たちであった。
及川教授たちは開発チームが作った試作品の動画をネット上にアップしているのだが、その関係でネット上の反応をエゴサしていたのだ。
その時に関連の薄い検索結果として、俺の話が出回っていたのに気が付いた。
これは拙くないかと調査した結果、誰かが悪意を持って俺の悪評を広めているのが分かった。
連中は俺の名前を直接出す事はせず、しかし俺だと分かるように、嘘の混ざった悪評を拡散している。
狡猾で、非常に嫌らしい手を打ってきた。
「一文字さんだと特定できる情報を混ぜているので、法務部に話を通しておきます」
「そうですね。顧問弁護士の方たちにお願いしましょう」
ネット関連の法律は、徐々に整備されている。
この手の書き込みへの対処だって手順に則って粛々と進めれば、削除させるだけでなく、だいたい赤字になるが、書いたやつに賠償金を支払わせることもできる。
何もしないでいれば、状況は絶対に悪くなるので、実害が大きくなる前に潰さないといけない。
「有名税。その一言で済ませたくないな」
「書き込まれた事が嘘だと、どこかで公式に発表しておいた方が良いですね。出来るだけ早く動きましょう。後手後手に回って良い事など、一つもありません」
炎上する前に、小火のうちに消火する。
早く動いた方が小さい労力でリスクを無くせるのだから、面倒がるならそれしか手はないのだ。
俺のボヤキに及川教授は何も言わなかったが、こういった事は名が売れれば、回避できない、日常の一コマになる。
万人に好かれる人など居らず、特に俺の様な幸運な成り上がり野郎は叩きやすいので、どうしても敵が多くなる。
それが嫌なら、目立たないようにひっそりと生きていくしかない。
自重したくなければ、甘んじてそれを受け入れるしかない。
世の中、理不尽ばかりだよな。




