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事業体制

 俺の冒険者ギルド再加入は、諸手を挙げて歓迎された。


「これからもよろしくお願いします!」


 ダンジョン攻略能力が高い冒険者が所属しているギルドは、ギルド内部で立場が強くなる。

 内部の派閥がどうとかいう話が有るようで、埼玉支部の職員からは、余所に大きな顔をされずに済むと本気で喜ばれた。


 俺自身は埼玉のダンジョンに常駐しないけど、こちらで古参のタイタンをレベルアップさせるべく、人を現地雇用することにした。

 タイタンはオーガと同じサイズという事もあり、同数ならば正面からぶつかっても何とかなるのだ。それに、パワーがあるのでガーゴイルぐらいまでは力押しで何とでもなる。

 さすがに奥のゴーレムが相手となると厳しいものの、これならダンジョン攻略に十分な貢献が出来るだろう。



 なお、埼玉支部の抱えるダンジョンはそこそこ不人気というか、なかなか人が居つかないダンジョンである。

 オーガを倒しに来る人はそれなりにいるんだけど、その奥のガーゴイルやゴーレムは、あまり相手にされないのだ。

 タフなモンスターを相手にするより、もっと脆い、倒しやすいモンスターを狙う冒険者が多いからだ。

 倒せる冒険者も少しは居るのだが……本当に、少しでしかない。


「ダンジョンの完全攻略ができる冒険者って、すぐに他所へと移ってしまうんですよね……」

「こっちは安定してレベルアップできる環境であれば問題ありませんしね」


 ダンジョンは、出てくるモンスターがほぼ一定である。

 極ごく稀に変異種のような例外モンスターが出てくるものの、変わり映えのしないモンスターばかりを相手にしていると、収入が増えてくれない。優良企業に勤めるサラリーマンのように、同じ場所にずっといても給料が上がるなどという事は無いのだ。


 収入アップを目指すのであれば、新しいダンジョンでもっと強い敵と戦うしかないのである。

 そういったサイクルがある以上、それを無視して居ついてくれる冒険者というのはどこでも歓迎される。

 人気のダンジョンに人が集中してしまう現状では、冒険者が足りていないギルド支部の方が多い。

 だからこそ、多数のタイタンをダンジョンに送り込める俺が歓迎されるのであった。



「ギルド所有のダンジョンを大っぴらに使えるというのは良いものだね! これならロボットの派遣も捗るというものだよ!」

「問題は、多くのダンジョンにタイタンを投入したところで、コストをペイするまでの時間が長い事なんですけどね」

「……初期投資が可能な資金が有るからこそできる荒業である事は認めるのだよ」


 なお、現在のタイタンの製造コストは1500万円ぐらい。

 埼玉のダンジョンに投入したとして、稼ぎの予想は年間500万円ぐらいを見込んでいる。


 3年間頑張れば回収可能。しかし途中で何かあって追加のコストが発生すれば、回収までの期間はどんどん伸びていく。

 もう少し付け加えると、最初はゴブリンダンジョンで初期研修をする必要があるので、いきなりオーガのいる埼玉ダンジョンには挑ませられない。

 諸々を考えると、回収までは5年を見込むのが無難と言ったところだ。


 大量にタイタンを生産した場合、資金回収が終わるまでの期間はずっと赤字のような物で、それ以降が黒字に転じると言ったところで、手持ちの資金が尽きて終わるのが普通の企業だ。

 銀行がお金を貸してくれればその間の赤字を埋める事が可能なんだけど、それが簡単にできれば誰も苦労しないわけで、貸し渋りをされて追い返されるのが世の常である。


 ……銀行からは話が上手すぎる、楽観的過ぎるから信憑性に欠けると言われたよ。畜生。



 だから普通はお金を貯め、タイタンをチマチマ増やしては投入し、将来の不労所得を得るために投資していくしかないんだろうけどね。うちの会社には、結構前に『重量軽減系のレベルアップをした鬼鉄』で得たあぶく銭があった。

 だから資金チートでかなりの数のタイタンと原神が配備されているんだよね。主な配置場所はアンデッドダンジョンだったけど。


 アンデッドダンジョンに回していたタイタンを埼玉のダンジョンに割り振って、アンデッドダンジョンには新しいタイタンを配備してと、一歩前に進んでタイタンの新規作成をする余力がある。

 先の先を読んで、さらに追加のタイタンや原神を生産しておく事も可能である。

 すでに黒字部門と化している会社のロボット管理部門は、将来性と全体利益を考慮し、銀行に頼らずとも5ヶ年計画で追加資金の投入ができる下地があった。





「これで銀行が「やっぱりお金を貸しますよ」と言い出しても、「もう遅い!!」と言ってやることが可能なのだよ!!」

「地域との付き合いでしたからね、銀行からの借り入れを提案した理由って。「もう遅い」なんて言わず、普通に借りても良い気がしますよ」

「地銀とのお付き合いは重要なのだからね。確かに関係を持つためにお金を借りた方が良いのだろうけれど。すでに生産してあるのだから、お金を借りてまで追加で生産する理由はもう無いので「もう遅い」と言うしかないのさ!」


 儲かる部門への投資話が消えてしまえば、あとは無理をしてまで進める必要もない、かなり微妙な開発関連が残るばかり。

 こちら関係でお金を借りるというのは俺たちの外聞が悪く、あちらも貸したいと思える話ではないだろう。


 会社内の一事業への投資話は問題なくとも、会社全体としてお金を借りたいという話はしたくなかった。

 元よりお金を借りなくても何とかなる話だったので、付き合いというか、コネ作りでもなければ銀行に声をかける必要が無い。

 持っていった話を断られた段階で、俺たちの間には縁が無かったと思って諦めてもらおう。

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[一言] 「必要の無い時に貸し付けて、必要な時に取り立てる」 それが『銀行』というもの
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