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ギルド再加入

 冒険者ギルドは昔よりもサービスが拡充しているし、普通に他所のダンジョン攻略をするなら、入っていた方がお得なんだろうと思う。

 まぁ、一番の目玉(ロボットのレンタル)は全く興味が無いのでどうでもいい。

 何より、普段は自前のゴブリンダンジョンを周回しているだけなので、そこまで冒険者ギルド(仕事の斡旋業者)を利用する機会が無いのである。



 しかし、四宮教授は冒険者ギルドに入るようにと、強く勧めてきた。


「確かに、いつものダンジョンに行くなら、冒険者ギルドはほとんど関係ないのだがね」

「そうですよ、魔石とポーションは確保、武具はリサイクル。外のダンジョンは他のモンスターを相手にしたくなった時ぐらいじゃないですか」

「それでも、なのだよ。組織に所属するデメリットばかりではなく、メリットにも、もっと目を向けて欲しいのだよ。

 それこそ、大きな敵と戦える力を手にするには、相応の力ある仲間が必要とは思えないかな?」

「それがあるから、高ランク冒険者と仲良くなりたかったんですけどね……」


 四宮教授がこんな主張をする一番は、味方を増やすため。

 頼りになる仲間がいれば防げる不幸から身を守るため、最も簡単な手段として組織に所属するべきだと言う。


 分かるよ。

 分かるんだけどさ。


「結局は、俺がギルドを信用しきれないって所が問題なんですよ」

「……何かあったのかね? 今まで、一文字君がギルドと揉めたという話は聞いた事が無かったはずだよ」

「そりゃ、揉める以前に諦めていましたからね」


 できれば、もう冒険者ギルドには入りたくないんだよ。

 何が問題で嫌なのかと考えてみれば、「冒険者ギルドに所属していた時期」と「史郎のパーティメンバーだった時期」が完全に一致している点だ。


 俺にとって、ギルドは嫌な過去を思い出す場所でもあるんだよ。

 ギルドが良いとか悪いとかではなく、ギルドに“何かできた”とか“何もできなかった”とかでもない。

 単純な巡り合わせの話であった。


 そんな心情を反映してか、俺は冒険者ギルドに保護してもらえる未来が見えなかった。

 理屈は横に置き、中堅どころを名乗る、ただの下っ端冒険者は何かあっても切り捨てられるだけだろうと悲観的になってしまう。





「個人的な心情を否定する気は無いのだがね。例えば、精霊銀の魔法剣で高ランク冒険者とうまく取引ができたとするよ。しかし、それだけで縁が結べる可能性があるかどうかは分からないのではないかな?

 希望的観測ではなく、現実的な視点で物を見た場合、取り得る選択肢として適切と言えるのかな?

 厳しい事を言わせてもらうのだよ。一文字君の中で、それは本当に選ぶべき選択肢と、胸を張って言えるのかな?」


 そんな俺の感情論を、四宮教授は一刀の下に切り伏せた。


 精霊銀の魔法剣というレアアイテムを手に入れ、それをネタに高ランク冒険者と仲良くなろうとした俺ではあるが、それが本当に上手くいくかどうかは賭けでしかない。

 成功する確率は五分五分か、それ以下。分の悪い賭けでしかない。

 そりゃ、コンビニで弁当を買ったってぐらい軽い買い物にはならないだろうけどさ、車屋で新車を購入したって、その店にどれぐらいの縁が出来るだろうか。


 現実的に考えるのであれば、冒険者ギルドに所属して、そこで功績を挙げてギルドが保護したいと思うほどの冒険者になる方がまだ何とかなりそうに見えた。



 光織たちを守るためになりふり構わず、取り得るあらゆる手段を用いるのなら、冒険者ギルドに所属するのは良い選択肢のはずなんだよ。

 冒険者ギルドは日本に所属する組織じゃないから、俺が所属できそうな他の組織を頼るよりはずっとマシだってのも分かるんだ。

 それが分かっていても、踏ん切りがつかないんだよ。


 ここまでくると重傷だな。

 長い間、自分の中で放置していたイメージがこべりついて、しつこい油汚れなみに染みついている。


「踏み出せない。しかし、状況は理解していると思っていいのかな?」


 考え込んでしまった俺が黙っていると、四宮教授が助け舟を出してくれた。

 そうなんだよ。状況が理解できていないんじゃない。分かっていても踏み出せないのだ。


「悩んでいるだろうが、悩んでいようが。状況は、周囲は待ってくれないのだよ。むしろ、悪意のある者たちは一文字君が動けないうちに仕掛けてくるだろうね。

 時間は、有るようで無いのだよ。急かす様ではあるのだがね。早く結論を出した方が良い。熟慮を要する案件もあるのだろうけれど、これは違うのだからね。

 これは“絶対”なのだよ」


 助け船かと思ったら、グダグダな俺の思考を一顧だにせず、四宮教授に止めを刺された。

 こうなると、ダイスの(運を)神様に(天に)お伺いを立て(任せ)たくなってしまう。


 ……いや、駄目だな。

 サイコロを振って決めてしまうのは、逃げだ。いつか何かあった時に、俺はそれを理由に「自分は悪くない」と、目を閉じて現実から目を背けるだろう。

 ここはダイスの神様などではなく、自分で決めなきゃいけない。

 人の意見を聞いたとしても、最後に決めるのは自分だけなんだから。





「もう一度、ギルドに所属しますよ」

「そうかね。もし、何か遭ったら。それを私のせいにしてもいいのだよ。何せ、これは私が無理に通した案件だからね」

「しませんよ、そんな事は」


 決めるのであれば、即断即決。

 悩みを振り払い、俺はまた、冒険者ギルドに入ることにした。

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