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俺とおっさんと互いの家族

 細かい反省点などをまとめ、優先順位を決めて順番に対処していくという事で、反省会は終了した。

 急いで対処すべき事は四宮教授の大声ぐらいなので、他は焦らず、四宮教授らが着実に対応するだけだったが。

 ロボットのバージョンアップに俺の出番という物は存在しない。



「じゃあ、飯にしますか」

「そうだね。今晩は私の持ち込んだ食材を使おうと思うのだが、どうだろう。一緒に食べていくかな?」

「ご相伴にあずかります」


 話し合いを終えたのは夕方である。

 そろそろ夕飯という事で、一緒に食事をする事になった。



「今日は初日だからね! 奮発して豪勢にいこうじゃないか!!」


 四宮教授は料理が得意なようで、美味そうに焼かれたステーキをメインに、スープとサラダを用意してくれた。


 分厚いステーキには茹でたニンジンとコーンが添えられていて、ちゃんと味付けもしてある。

 主食はご飯ではなくパンであった。俺は普段米食だが、たまにはパンもいいだろう。

 専用のステーキ皿まで持ち込むほどの気合いの入れようだった。


 なお、俺が作ると肉の焼き加減が適当だったり、付け合わせの野菜が無かったりする。

 ここで暮らし始めて料理もやり出したが、かなりいい加減な男飯である事は否定できず、人様に出せるレベルではない。


 一応、ネットに書かれているレシピ通りに作っているはずだが、何がどう違うのかは理解できていない。

 もっと数をこなし勉強しなければいけないんだけど、胃袋には限界があるからな。食材を無駄にしたくもないし。





 四宮教授の焼いたステーキは、店で出せるレベルだったと思う。

 それを食っている間は幸せだった。


 ――幸せな時間が終わり、状況が変わったのは、食後にビールを飲み始めてからである。



「酷いと思わないかい!? 『お父さん、暑苦しいからちょっと離れて』だよ!

 確かに年頃の娘に男親は嫌われるものさ! 思春期だからね!

 しかし、物には言い様があるし、言っていい事と悪い事があるんだ! 家族のために頑張って働いているお父さんを、そこまで邪険にしなくてもいいじゃないか!!」


 こうなってしまった責任の半分は、俺が話題選びに失敗してしまったからだ。

 気になって、聞いてしまったのだ。

 「ここでしばらく暮らすという事ですが、ご家族は大丈夫なんですか?」

 と。


 酒に酔っていたというのもあるだろう。

 四宮教授のタガは外れ、半泣きになって愚痴を言い始めた。


 四宮教授には高校生の娘さんがいるようで、最近は家族旅行を計画しても嫌がられるし、「それならお金だけ出して、付いてこないで」と言われるぐらい嫌われているようだ。

 今回の出張も、そんな娘さんと物理的に距離を置き、感情の冷却化を図る意図があるらしい。


 本当に教授がいなくなったときに、娘さんは開放感を得るだろう。

 そうやって開放感を得た後にあるのは、喪失感に似た感情であるはず。待ち望んだ夏休みになって、暇を持て余すような感覚。

 “いる”時と“いない”時の両方を経験してこそ、人の真価が見えてくる。

 もしかしたら娘さんの感情は開放感を得たままで固定化される可能性も否定しきれないが、何もしないよりは、このままでいるよりはいいと、四宮教授は賭に出たというわけだ。



 そんな重めの事情に踏み込んでしまった俺がマヌケというわけだ。

 この豪華なご飯は、娘さんから離れて寂しい父親の気持ちを癒やすための、強がりみたいなものだった。





「そういえば、一文字君のご家族はどうなのだね? 突然息子が大金持ちになって家を出てしまったのだ。心配しているのではないかな?」


 そうして、面倒くさい話題は、俺の家族の話題へと飛び火した。



「うちの家族は、心配しているでしょうね」


 それはもう、善意100パーセントで。


 俺の家族は、あまり俺に理解のない人たちだった。

 両親はお隣の、史郎の家と俺たちが生まれる昔から仲が良く、子供たちにもそうであるようにと願った。

 ただ、思い返してみると他の同年代との付き合いが制限され、史郎とばかり行動するように誘導されていたのだと思う。

 俺と史郎はそうやってセットで行動する事が多くなり、腐れ縁となったのだ。


 それが悪い事とは言わない。

 親にとって子供の面倒とは神経を使う事だから、祖父母などの身内や信頼できる友人に預かってもらうなど、息抜きをする必要があるんだ。

 親の事情を考えれば、子供の相性などを考慮するよりも、現実的に取れる手段を選ばなきゃいけなかっただけ。

 俺や史郎の親の言う事なす事は、ごく一般的な、常識的なものだったと思う。間違った選択ではなかったんだ。


 俺に冒険者になるよう、お願いした事以外は。


 俺の親は、史郎だけでなく、その妹も我が子のように大切にしていた。

 そんな娘を救うために兄の一人(史郎)が立ち上がったのだから、(もう一人の兄)も協力してあげて欲しい。

 家族の誰かの困難に、家族みんなで協力して立ち向かう。

 言葉だけ見れば、綺麗なものなんだろうな。


 そこに、俺の意思が介在していない事を除けば。



「それでも、大金を得た人間が近くにいればもっと大きな心配をさせる事になるので。

 こうやって、今は距離を置くのが正解ですよ。目先の感情論よりも状況が落ち着くのを待つべきです」


 あの人たちは、苦手だ。


 悪い人ではないし、こちらを搾取しようとするわけでもない。

 俺に何かあったとき、俺を庇い我が身を犠牲にしようとする事もできるだろう。

 馬鹿みたいに人の善意を信じ切っているわけでもない。世の闇を見る目は、俺よりもしっかりしているだろうな。


 ただ、俺に善である事を求めすぎる。

 こっちはただの俗物だっていうのに。

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