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冒険者ランク③

 フィクションの様に「俺はSランクなんだぞ!」と威張れなければ、「Fランクがドラゴンを倒しただと!?」とランク詐欺もできない。

 そんな今一つ自慢にならない通信簿式の冒険者ランク。

 それに、どんな価値があるのか?


「戦力の把握で適材適所は基本ですけど。

 それよりも、ギルドはかなり身銭を切ってますよね。維持できるのかな?」

「そのための適材適所ではないのかな? 需要と供給の天秤は、未だに需要へ大きく傾いているのだからね!」

「安易な薄利多売は自分の首を絞めますが、勝算があるのでしょうね」


 それはぶっちゃけ、お金であった。



 冒険者は自分たちの戦闘データなどをギルドに提出する事になる。つまり個人情報を売るようなものだ。

 これは冒険者にとって面白くない話で、自分たちの戦いぶりを隠しておきたければ、わざとデータを荒くしたり、肝心なところが映らないように注意するようになる。

 映像記録はこれまで義務だった音声データの提出とは情報量が違うので、そんな冒険者が大勢出てくるだろう。


 そうやって冒険者ランクの特典だけ手に入れつつ、義務は最小限に抑えてくる。

 それでは増えたコストに見合う結果にはならない。やるだけ無駄だ。



 だから冒険者ギルドは、提出されたデータの“質”に応じてお金を出すことを決めた。


 特に質が高いダンジョン攻略映像に関しては、後進の冒険者育英のため教育資料として使いたいと、ギルドから要求される。

 教育資料に使う事を許可したなら、そこでさらにお金が貰えるようになる。名を売りたい者ならば、それもメリットになるだろう。


 俺は金と名声、そのどちらも要らないので、なんのメリットにもならないんだけどな。





 正直な感想は、デメリットが気になるし、自分の客観的な評価は気になるけど、そこまで知りたい事でもないから、冒険者ギルドに再加入したいと思えない。

 組織の看板は無駄に重いし、行動の制約が入るのは嫌だ。所属組織なんて、会社の工場1つで十分である。

 冒険者ランクが魅力的でない事はもちろん、ギルド加入者特典などがある事を加味しても、ギルド再加入は止めておこうとしか思えない。


 そんなふうに結論を出していたが、四宮教授から物言いが入った。


「ふむ。一文字君、冒険者ランクには分かりにくい恩恵もあるのだよ。それには気が付いているのかな?」

「明文化されていない特典ですか。ギルド加入者っていう肩書が、何かの役に立つとか?」

「違うのだよ。“ギルドがこちらの戦力を把握する”というメリットなのだよ」

「いや、それに何の意味が?」

「簡単に言ってしまえば、光織たちが一文字君に属するものだと、第三者(冒険者ギルド)視点で証明されるという事なのだよ。

 人格があろうが、人型ロボットの人権は認められていないのだからね。原神たちは一文字君の冒険用の備品、武器の類としてカウントされるのだよ。

 つまり、何かあっても、手を出しにくくなるという訳さ」


 光織たちが俺の物だと、冒険者ギルドが保証する。


 言っている事は、分からなくもない。

 しかし、本当に効果があるかどうかは微妙な所だった。

 借金の形で差し押さえになるとか、普通に考えられるんだけど。その場合は、俺の所有を冒険者ギルドが保証するかどうかなんて関係無くないかな? 俺が借金漬けになるかどうかは横に置くけど。



「一文字君。組織の後ろ盾というのはね、背負わされた看板の重みに比例して、強くなるものなのだよ。

 だからギルドにロボットの所有を認めさせ、所属するだけでもメリットがあるという訳さ」

「そう上手くいきますか? ギルドも、国が相手では一歩距離を取る可能性が高い様に見えますけど」

「そうでもないのだよ。相手は一枚岩ではないのだから、国の中の誰かが敵対しようと、国に所属する別の誰かとは共闘できるからね」


 冒険者ギルドに対して貢献をしていれば、その貢献の度合いの分だけ、ギルドは冒険者を守らねばならなくなる。


 国に忖度し、冒険者ギルドが義務を果たして貢献している冒険者を守らないという風評が立った場合、それはギルドにとって重要な上位の冒険者の離脱を招きかねない。

 これが底辺冒険者であれば自身の生活のために割り切るだろうが、上位の、金銭に不自由しない冒険者はすぐにギルドを辞めていくだろう。金と実力のある人間を確保し続けるのは難しいのである。



 ただ、俺のような再加入者は、庇護の対象外になったとしても不思議ではない。

 一度組織を抜けたのだから、また抜けたとしてもおかしくは無い。組織への忠誠度、帰属意識の面で不安があると言われればそれまでなのだ。

 それに、所属直後であればギルドへの貢献の度合いはゼロであり、簡単なトラブルであればともかく、難しい案件では庇護の対象外にされるのが普通だ。

 新人は保護されるべきだが、それにしても限度というものがある。仲間を無条件で守るべきだなどというのは、現実を無視した理想論でしかないのである。


 残念ながら、俺は守ってもらえる自信が無い。

 ギルドから望まれての再加入と言えど、そこまで特別扱いするのも、組織としては良くないだろうからなぁ。

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