疑惑の男、四宮②
四宮教授と話をするにあたって、及川教授はどうしようかと考えた。
しばらく観察していたけど、たぶん、及川教授も関わっている。
メインではなさそうだけど、意識してみればけっこう態度に壁を感じるし、隠し事をしているのは間違いない。
俺だって腹芸は得意じゃないけど、それぐらいは分かるんだよ。
……疑わずにいた時は、気が付きもしなかったけどね。
そんな訳で、及川教授も交えて話し合いだ。
「単刀直入に聞きますが。ここ最近、俺に何か隠して外部と接触していますよね?」
あれこれ考えてみたけれど、どうやって切り出せばいいかは分からなかった。
話を誘導してボロがでるように誘導できればいいのかもしれないけど、俺にそんな話術は無いし、四宮教授は俺より頭が良いので、俺では何もできずに終わるだけと予測できる。
よって、小細工無しの直球勝負が最善だと判断した。
「奥さんからの証言も上がっています。俺と、光織たちに関する何かを電話で話し合っていたと。
四宮教授。あなたは一体、何をしているんですか?」
奥さんからの許可を取り、嘘や誤魔化しは許さないと強気に出てみる。
すると、四宮教授は「仕方がない」と、何かを諦めた表情をした。
「外部の人間と接触しているのは確かであるよ。
しかしそれは業務外の事であり、業務に関係の無い話であると断言するよ。もちろん、光織たちに何かをするという話でもないのである」
……嘘は言っていない。
だが、隠し事はあると認めているし、言っていない事実がありそうだった。
それと、だ。
「 “業務に関係なく”“光織たちにも何もしない”ですか。
でも、俺は? その言い方だと、俺には何かすると、そう言っているように聞こえましたが」
四宮教授の言い回しは分かりやすいので、俺は容赦なく隠し事についてツッコミを入れた。
案の定、四宮教授は何も答えず、曖昧な笑みを浮かべただけだ。
つまり、俺に何か仕掛けるようだった。
これで俺の誕生日が近ければ、もっと若ければ、サプライズでも仕込んでいるかと思うかもしれないが、俺の誕生日はまだ当分先の話だし、祝ってもらって喜ぶほど、俺も若くない。そういった可能性は考えなくていい。
それに、「光織たちに何もしない」と言おうが、「間接的に何かする可能性はある」だろうと、俺は思う。
ものすごく嫌な考え方をするなら、光織たちが攫われそうになっているのを見て見ぬフリをして、あとで何もしていないと強弁する事が可能なのだ。
その場合、本当に嘘は言っていないので、騙してはいないね。騙していないだけ、ではあるけど。
「そうであるな。一文字君には迷惑をかける事になるだろうね。
しかし、誓って光織たちには何もしないし、何もさせないのだよ。そこは信じて欲しいね」
少しの間、沈黙が場を支配した。
先に口を開いたのは、四宮教授であった。
俺の視線に耐えられなかった訳ではなさそうだが、今度は確かに、本当の事を言っている。
何か言っていない事はありそうだけど、そこを追求するのは横に置く。
「光織たちに何かするつもりが無いのは分かりました。
それと、もしも四宮教授が裏で動かなかった場合ですけど。その時は、光織を取り上げられたりと、光織たちに手出しをされかねなかった、という解釈でいいですか?」
「その通り、なのだよ」
「だったら、裏で動かず、直接俺に教えて欲しかったですよ。こんな回りくどい言い回しなんてせずに」
俺は四宮教授の考えがわからず、愚痴を漏らす。
こうやって話し合って、嘘をつかず、分かりにくい方法でこちらになにか教えてくれた理由が見えない。
俺の頭はそこまで良くないけど、ああいう露骨な言い回しをされれば、流石に気が付くよ。
わざと、俺でも気が付けるレベルで、言葉の裏に何かあるように含ませていた。
それと、今の会話だけ切り取れば、四宮教授は俺を裏切っていないと見えるんだけど。それは四宮教授が何をやったか次第なんだよね。
心情的に俺の事を裏切っていない。
それは、俺に不利益をもたらさないのとは違う。
結果として、より大きな不利益をもたらす事もあるのだから。
それと、普段であればさっきの愚痴に謝罪の一言でもあっただろうし、なんでそんな言い回しだったかの種明かしをしてくれている。
それが無いという事は、俺にかける迷惑とやらが、よほどのものだという気がする。
たぶん「何をしていない」かは説明できても、「何をしている」かを説明できないのが原因と見た。
その後も追求をしてみるが、四宮教授は何を隠しているか教えてくれなかった。
「ちなみに、ですが。これ、及川教授も関わっていますよね。主犯と言えるレベルでは関わってなさそうですが」
だから俺は、矛先を四宮教授から及川教授へと向きを変えた。




