俺とおっさんと反省会
「うむうむ。順調だったが、反省会といこうじゃないか!
……手加減してくれると嬉しいね」
「残念ですが、ガチでやります」
「ふぅ。仕方がないか」
ダンジョンへの原神投入は問題なかったが、それ以外でダメ出しをしなければいけない点が多々あった。
そういうわけで、反省会である。
「四宮教授。大声は禁止でお願いしますね」
「ああ、悪かったよ。私は地声が大きいから、普通に喋っているつもりでも、周りからうるさいと言われてしまうんだ。
それに、前にダンジョンに潜っていたときは大きな声を出さないとやりとりができなかったからね! 指示を出すときはつい、大声になってしまうんだ」
最初にどうにかしておくべき事として、四宮教授の声量にツッコミを入れた。
自覚ありの戦術であれば問題ないけど、自覚なしで大声を出されるというのは、ダンジョンでは致命的だ。今後を考え、早々に矯正しないと不味いだろう。
「音による敵の誘導は戦術として行う分には構いませんが、自覚なしでやられると困ります」
「次回からは、声音抑制マスクを着用するとしよう。原神への指示は、スマホでするとしよう」
「……スマホ?」
「制御用のアプリを使うんだよ。コマンド操作なら」
「あ、なるほど。
でも、じゃあ、なんで今回は音声認識を?」
「それは、音声認識プログラムが正常に機能してくれるかの確認だよ! 現場ではスマホを操作するより、声で命令した方がいいだろう?」
「まぁ、そうですけど」
四宮教授は、自制するのではなく、装備で声を落とすようだ。
意識してどうにかしてもらうよりも、その方が信頼できる。
そして今回は「いくつものテストをするから」と、詳細な理由を確認していなかった。
実際に何をするかだけは聞いていたんだけどな。
細かい目的は聞いてもよく分からないからと、スルーしてたんだよ。
「で、戦闘が単調になってしまったのもよくなかったですね」
「まぁ、戦いやすい環境を整えるという意味では間違っていないんだけどね? 戦闘データをとるという意味では、整備されたここでの戦闘はぬるすぎると。
難しい問題だね!」
次の問題は、原神があまりにも簡単にゴブリンを屠っていたという事。
ダンジョンの管理という部分だけを見るなら悪い事ではないんだろうけど……戦闘経験を積ませるという意味では、あまりにも単調な作業になってしまった。
このダンジョンで戦い続け倒しても、他のダンジョンで通用する戦闘経験が積めるかどうかは疑問である。いや、疑問だとか言わず、無理だと断言していいか。
「他のダンジョンに遠征に行くか、と言うよりも、アトラクションのように考えよう!
このダンジョンに様々な状況を設定し、原神にはそれらを乗り越えてもらうのさ! 下手に自然の環境に任せると、何が起こるか分からない。ならば、我々で環境を用意するのがいいとは思わないかな?」
「それには手間とコストがかかる。それは理解していますか?」
「当然だとも! 我々は、そうやって原神のクオリティを上げてきたのだからね!」
対策としては、他の所に行くのが一番わかりやすい。
ただ、現地のダンジョン管理者に話を通さないといけないし、情報の不要な拡散をされた場合、周囲がどう動くか読めなくなる欠点がある。下手をすれば、同じ分野に目をつけた大資本に先行される恐れがあった。
その場合、大資本を持つ他企業に不完全な対モンスター用のロボットを先にリリースされ、本来先行者であった四宮教授らが後発扱いされ、市場参入を阻まれる恐れがあった。
よって開発段階の今は他のダンジョンへ動くのは悪手であり、止めておいた方が無難だと四宮教授は説明した。
「日本の製品はリリース時の開発度を重視しすぎるあまり、市場の形成に及び腰な面があるのさ!
そうやって海外の企業に市場を奪われている事実を理解していても、やはり不完全な品を販売するのには抵抗があるんだ。分かっている問題を解決しないまま商業展開をする勇気が持てないのだね!」
「今回の、原神のようなロボットだと、致命的な事になりませんか?」
「そうでもないよ? アメリカでは、銃を装備したドローンがモンスターを撃ち抜いている動画も多くあるんだ。そして、それによって起こる『誤射』という事件も確認されている。
ダンジョンへのロボット投入は、人型でなければすでに現実の世界なのさ。原神も、コンセプトをコピーされないとは考えられないね!」
問題へのアプローチは多数あるが、そのどれを選択するかは、目的と状況を見極めて行うべきだとサムズアップされた。
そこは、俺が考える事でもないか。
俺は協力者ではあるが、教授らの身内ではない。
あくまで、俺たちはビジネスライクな関係だ。ドライに、踏み込まず、適度な距離をとろう。
俺が原神に関わっている理由は興味本位とか、軽い気持ちなんだ。
そんな気持ちのままでは身内にはなれないだろうからな。
その後も細かい話をして、俺たちは反省会を終えるのだった。
ちょっとだけ、古巣の身内の事を思い出した。




