続・新装備開発③
自衛隊の件は厄ネタとして共通認識されている。
太客なので断るのが難しく、受ければリスクを抱え込むのだから、そういうものだ。
「大仰な成果を出してしまえば、周囲の目も変わる。
望んで臨み、手にした評価でなくとも、人を縛るとは厄介なものだね」
バトルクロスへの過大評価に、四宮教授は苦笑いをする。
俺のバトルクロスは試作機で、量産品ではないのに、過度な期待を持たれても困る。
試作機が最強なのは、巨大組織が青天井の予算をつぎ込んだ戦争ロボアニメの世界だけなのだ。
試作機と量産機では、量産機の方が強いのが常識である。
そんな常識に従ったドラグナ○はテコ入れの新装備でごまかし、パトレイバ○はパイロットの慣れを理由に試作機優位の状況を作った。
困った事に、試作機が最強な方が漫画やアニメでは人気が出るというセオリーは手強い。量産機が主役のいぶし銀が主流になるには、まだまだ過去の呪縛が邪魔をしているようだった。
バトルクロスが自衛隊に配備されるという未来が来るかは深く考えず、それを置いて、光織たちの新装備開発プランも並行して行われている。
バトルクロスをメインにしているが、主力は原神の、人と同じサイズのロボットだ。
商品としてはこちらの方が売れるので、販促のためにもアップデートやサポートを充実させていかねばならない。
……自前のサードパーティなど無くても、他社の製品が流用できるし、他社の製品を使っている人でも買ってくれるし。
最近は搭乗型ロボットに押されているものの、まだまだ人型ロボットやその関連商品は売れるのである。
「すでに有りそうで、まだ他が手を付けていない商品ですよ! 既存の剣を槍にする、拡張用の長柄です!
しかも、スペツナズ・ナイフのように、セットした剣を発射する機構も付いています!」
「うん。アリか無しかで言えばアリだね。良いんじゃないか」
「よっしゃあっ!」
「ただし、発射した剣がちゃんと機能するならね? 普通の剣は、投げたりするのに向かないんだけど」
「おおぅ……」
「剣を槍にする発想そのものは良かったと思うよ」
スペツナズ・ナイフは空想の産物とも言われ、実在が疑問視されるロマン武器だ。
一応、証言や現物は存在するが、フィクションの世界で有名なだけで、本当に秘密部隊で使われていたかどうかの確証は無い。
発射機構なんて付ければ刃の固定が弱くなるし、刃をスプリングで飛ばしたところで、倒せるのは一体だけなのだ。そこまでする必要があるとは思えないし、投げた方が楽で良い。
そもそもオリジナルですら真っ直ぐ飛ぶのはほんの5m先が限界で、剣を発射しても相手の意表を突く事しかできないんじゃないか?
スプリングを押し込み再装填するのが難しかったりするのもマイナスで、槍だけに柄が長くスプリングも相応のサイズが使えると言っても、発射ボタンが留め金付近だから使い難く、そこまでのメリットが有るかどうか……。
残念ながら、趣味人相手にしか売れなさそうな気がする。
他が開発していないと言うが、他は開発する気が無いというのが真相なんじゃないかな。
ただ、剣を槍に変換すると言うだけなら有用だと思う。
長柄の武器は便利だが万能では無いし、シチュエーションごとに武器を使い分けられるというのは良い発想だと思う。
ロボットの合体に否定的な俺が言う事でもないと思うが、長い棒だけでも使い道があるし、無駄にはならない。
この場合の問題は、接合点の強度と、槍にした剣の使い心地だろうか。
使っているうちに簡単に壊れるようでは話にならないし、そもそも槍にしたあとが使い難ければ槍にする意味が無い。
その辺りだけは、ちゃんと詰めておくべきだろうね。
ちなみに、だが。彼らがこの装備の開発をし始めた理由は、バトルクロス側の事情であった。
「せっかくの魔法剣も、バトルクロスを使っている時には使えませんよね。サイズが違うので。
だったら魔法剣に柄のオプションを付けて、使えるようにしてはどうかと考えたんですよ。そうすると、人間用の剣はバトルクロスから見てナイフ扱いになるわけですから、そこからちょいと工夫をしてみたんです。
まぁ、考えすぎて駄目にしてしまったわけですが」
言っている事は分かるし、バトルクロスでも精霊銀の魔法剣が使えるのであれば、それは確かに有用だと思う。
一般商品への展開を考えたのも、希にしか出ない一品物を作るよりは商業的に正しい。
工場で物を作るのなら、量産品の方が都合が良いのだ。
これぐらいの商品であればいちいち特許を取りに行くような物でないのだから、秘匿するより公開した方が都合が良いのだ。
一度は駄目出しをしたが、発射機構付きの長柄はネタとして売れるかもしれないから、少数ロットに留めるが、開発チームに華を持たせるために作らせてみるか。
一部の好事家が買うだろうと、その程度の売り物になるけど。
売れなかった所で、少数ロットならあまり痛くもないだろうからね。




