続・新装備開発①
開発チームとの会話で何か引っかかるものを感じたが、自分の中でそれがはっきりしないのであれば、まだ横に置いておこう。
答えが出ないという事は、まだそこに至る材料が足りないって事だろうし。考えるだけ、時間の無駄である。
俺が「高ランク冒険者」であって欲しいとか、そうでなければならないとか。
そういう事なのかもしれないけど、俺自身に冒険者として栄華栄達を望む野望は無いし、そう呼んで欲しいとは考えていない。
それよりも、バトルクロスのパワーアップオプションの方が大事である。
「『神腕』。まぁ、オーバーソウルか筋肉大移動か。元ネタの所在はさておき、大物相手の装備を考えている訳か」
「元ネタはガガガな勇者王です。
そうですね、今より先のダンジョンで戦う場合、大物が敵の主力になりますから、それらを相手に戦える装備を考えています」
「ああ、そっちね。って、ネタは良いんだよ。
大物って言うなら、まずは対ゴーレム戦用の装備でも考えてもらおうか?」
左右のバランスを考えて、どちらの腕も大きくなっていたので分かりにくかったが。元ネタは仲間を装備品にして戦う勇者王ロボね。
変形や合体の機構とかって、それだけで結構なスペースを取るので、無駄が大きいんだよな。
正直なところ、同レベルの技術力であれば、ストライクやインパルスよりも、双子座のような、出撃前に換装するタイプの方が機械的には性能が高くなるんだよな。機体スペースっていうリソースの消費先としてはあまり美味しくない。
合体と変形はロマンだけど、今はまだ汎用性よりも基礎スペックが欲しい。
まだ技術が確立していない開発機のレベルでそこまで踏み込むのは無謀だろう。
ああいうのは、初代では欠片も存在せず、二代目の後半で主人公機になればいいんだ。
“仲間を装備”は勇者ロボシリーズではお約束のシステムだけど、こっちは勇者じゃないし。
少なくとも、やるとしてもバトルクロスの使いまわしみたいな運用までである。基礎ができていないうちに、いきなりハイレベルなど挑む気にもならない。
と言うかだな。勇者ロボが元ネタだと、光織とかを銃や剣に変形させて振り回すようなものを思い浮かべるんだよ。
そんなのは嫌だぞ、俺は。
2チームある開発チームのうち、片方を却下すると、もう片方も企画書を持ってきた。
なお、こっちが若手チームである。
「自信作です!」
「却下! どこからビックリドッキリメカを引っ張って来た! 素直にドローンを使えよ!!」
「待ってください! 地上型のミニロボットを使った、広域偵察は数が重要なんですよ。起きている時ではなく、人間の冒険者が就寝中に周辺警戒と前方の偵察を行うのであれば、ドローンよりもこういった小型ユニットが適切だと思ったのです。
通常のドローンよりも小型で、地上を移動するので見つかりにくいのが特徴なんですよ。小さい分、数も積めますし、同時多数展開が特徴です!」
「思ったよりもマトモな理由なのは良いんだけどな。それでも却下だ。
どっちかというと、退路の確保、通ってきたルートの現状確認に使うぐらいだな。小さすぎて自力移動のメリットがほとんど無い。それなら安いスマホを隠して置くってやり方の方がスマートだし、楽だろ。移動できたところで、敵の攻撃を躱せるものでもないんだからな。だったら固定設置型で十分だ」
「そう、ですか……。
では、こちらはどうでしょう?」
一つ目は、空飛ぶドローンではない、走行型ドローンもどき。
言ってしまえば遠隔操作できるミニな四駆にカメラを付けたような代物だった。
運用方法は理解できなくもないが、地上の移動は難しいし、移動速度が遅いし、隠密性に優れた物だろうと、そこまでは期待できない。
ドローンよりも小さかろうが、数を頼みにしようが関係なく却下である。
もっと考えろよと、睨むように相手の目を見れば、不敵な笑みを返された。
そして新しい企画書が出てきた。
出された資料にざっと中身に目を通すと、今度はまともな物だった。
「こっちが本命か。つまらない交渉テクニックだな」
ドア・イン・ザ・フェイスだったか。
先に大きい、断るだろう要求を出してから、本命の要求を突きつけるやり方だっけ。
そんなありふれたテクニックが通用すると思われたのは、面白くない。
俺は気分を害したまま、詳細まで確認する。
「参式パイルバンカーが使えたのは、確かにそうだけどね。それは特殊な状況だったからだっていうのが気になる点かな。
これだと、足場の固定には使えなくなるし」
本命の企画は、参式パイルバンカーの改良型だった。
参式・改と銘打たれたそれは、足を固定するのが本来の用途であった参式を、ボスオーガ戦のデータを基に戦闘用へと調整したもの。
新装備ではないので地味ではあったが、堅実な改善プランである。
参式パイルバンカーを今後も戦闘で使うのであれば、だけどな。
「足場の固定ってのも、全然使っていないし。そう考えれば、戦闘用にした方がマシなのか?」
下手な交渉プランに引っかかった訳ではないが、一考の余地あり。
俺は参式・改を一応、開発の候補に入れるのだった。




