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高ランク冒険者⑥

 帰ってきた俺は、及川教授と四宮教授の二人と光織たちの件で情報を共有し、次の装備について打ち合わせをした。

 今後の予定は未定だが、しばらくは通常運転で、次に備える事とする。



 そうして光織たちの新装備、パワーアッププランの企画にゴーサインを出したら、次はパワードスーツの開発サイドである。


「頼んでおいたものは出来たかな?」

「バッチリ仕上がってますよ!」


 ボスオーガ戦でボロボロになったバトルクロスは、自己再生能力を得た事で自力で回復し、修理不要となっていた。

 なので、レベルアップ分の機能チェックは必要でも、オーバーホールなどはしなくても良くなった。


 しかし新装備などを開発して、部品交換をするとどうなるのか? 再生能力はどこまで適用されるのかという疑問が残る。


 バトルクロスという『個』が能力を得たとしても、パーツを交換してしまえばその再生能力が適用されなくなるとする。宿った魂に依存するとか、そんな感じの能力だった場合だな。

 その場合は外したパーツが再生能力を維持している可能性が高いわけだ。再生能力がパーツ単位であるなら、おそらくはそうなる。

 そしてこれは願望だが、交換した新しいパーツがバトルクロス本体の影響を受け、早い段階で再生能力を得るかもしれない。

 そうなると、バトルクロスや光織たちを軸に、再生可能金属の量産ができるかもしれない。ちょっと削っては再生させて、無限に再生金属を得られたなら、笑いが止まらない。

 「かもしれない」ばかりだが、夢が広がる話である。


 逆に、再生能力がバトルクロスという『個』に従属する場合、外したパーツは再生能力を維持しない。

 その代わり、交換した新しいパーツにも再生能力が適用される可能性が高く、これはこれで美味しい。

 能力が弱体化する、新しいパーツが適用外になる、新しい機構のパーツを付けても元のバージョンに戻ろうとするなどのリスクはあるものの、それはそれで一つの結果だ。



 光織たちでこういった実験をするのは気が引けるからやらなかったけど、バトルクロスはリビングメイル化しているだけで自意識がまだ無いから。こういう実験をやっても、そこまで気にならない。

 この実験結果次第で、光織たちの先の予定もずいぶん変わるし、彼女らがダンジョンで特訓する間に、簡単な調査をさせていたのである。



「再生能力は『個』に依存するタイプで、部品交換をしても交換された部品に適用される。

 新しい物に交換すれば、その新しい物に合わせて再生が行われ、元のパーツには依存しない、か。

 外したパーツが何の影響も受けてい無さそうというのは残念だけど、重畳だね」


 結論としては、バトルクロスは再生する金属に置き換わったのではなく、バトルクロスという個体が再生能力を持っているようだ。

 よって再生金属を無限に生産するというプランは絵に描いた餅で終わってしまったが、これはこれで美味しいので、良しとする。

 光織たちのパワーアップがやり易くなったと、そう思っておけばいいのだ。



「交換パーツにも再生能力が適用されるようなので、これなら高負荷の装備が選択肢に入りますね」

「リミッターの上限を今より上にしてもいいね」

「再生速度が上昇すれば、今まで出来なかったあれやこれやが実現しますよ」

「その分、魔力を消耗するから、そこまで再生能力頼みにするのは危険だと思わないか? あくまで保険の範囲で納めるべきだと思うが」

「いいえ。せっかく使える能力があるのだから、再生頼りにはしませんが十分に活用するべきです。

 消費が大きくなった分は、プロペラント(増設槽)など別のフォローを考えましょう」


 バトルクロスは長時間戦闘まで行かずとも、ダンジョンの長時間滞在を考慮し、関節部にそこまで負荷のかからない機構を組み込んでいる。

 しかし再生能力があるのなら、そこの制限を少し緩め、関節部に負荷がかかっても構わないという考えのもと、運用する事が可能になる。

 戦闘モードは最初からリミッター度外視だからそのままだけど、移動中のような巡行モードを今よりも出力高めに設定し、再生能力でペイできる程度の負荷にすると、移動速度が向上する。

 その戦闘モード中だって、普段なら敬遠するような関節部に強い負荷がかかる装備を使っても、戦闘後に休憩して再生待ちにすればいい。今は選択肢に入れていない、高出力で高負荷な、切り札的な武装を装備しても適切に運用できそうであった。



「ちなみに、こういったプランもあります」

「『神腕』……。いや、大きすぎたらダンジョンに入れなくなるだろうが」

「ちゃんとダンジョンに入れるサイズに収めて見せますよ。これだけ大きければ、高ランク冒険者が狩るような、馬鹿デカいモンスターにも対抗できますよ」


 なお、再生能力は本体だけでなく、一部の装備品にも適用される。

 装備した状態をベースにするので、再生能力を利用して修理屋を営むことは出来ないが、なかなか適用範囲は広めであった。


 そこで開発チームは、高出力装備として『神腕』という、新しい腕を立案してきた。

 要は、人型のバトルクロスの大きな腕よりもさらに大きい、バランスの悪い腕への換装をするのである。神腕装備後は、腕だけが異常に大きい人型となる。


 腕が大きければその分だけ武器も大きくできるし、デカいモンスターへの対応能力を得られるようになるだろうけど。そんなバランスの取れていないデカい腕を振り回そうとするには足回りが貧弱だし、独特の戦闘勘を持たねば宝の持ち腐れになるだろう。

 あと、全身の関節に負荷がかかり過ぎるだろうよ。それこそ、再生が追い付かないぐらいに。

 『神腕』は、メリットよりもデメリットが大きいのは間違いないように、俺の目には見えた。



「これは却下として。再生ありきで何か考えてみるのはいい事なんだろうね」

「はい。そのままでは、成長も進歩がありませんから。それでは次のプランを考えてみます」


 企画書は入念に作ってはあったが、却下される前提で提出された気がする。

 それよりも、開発チームも「高ランク冒険者」って言葉を使ってきたのは……偶然じゃ、ないんだろうな。四宮教授の仕込みか何かか?


 なんか、どうにも妖しいね。

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