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高ランク冒険者⑤

 及川教授と語り合った翌日、四宮教授が戻ってきた。


「久しぶりだね! 息災であったかな?」

「もちろんですよ。四宮教授もお変わりなく。

 それはそうとして、レポートは読んでいただけましたか?」

「ああ、三人娘はずいぶん強くなったようだね! これならば、もっと“上”を目指せそうではないかな!!」


 四宮教授は自衛隊の知り合いとお話をしてきたらしいという事で、昨日はこちらに顔を出していない。

 レポートを読んでもらえたか確認すると、当たり前のように笑顔で頷かれた。

 そして、少し気になる事を言った。


「“上”ですか?」

「ああ、そうだとも!」


 何かの聞き間違いかと思い、オウムのように問い返してみた。

 だが、それは聞き間違いではなく、聞いたとおりだと四宮教授は笑顔のまま。

 そうして俺の意図とは違う、今後の展望を口にする。



「光織たちも、ずいぶん強くなったのだからね。適正なダンジョンで戦ってみるのが良いと考えているのだよ。

 さすがに、今の光織たちをゴブリンダンジョンで燻らせておくのは損失だとは思わないかね!」


 四宮教授は光織たちの今後を考え、自衛隊が確保しているダンジョンのうち、与しやすいダンジョンを使わせてもらえないかと交渉していたのか。ガーゴイルやゴーレムを相手に強くなった光織たちを、もっと強いモンスターの出るダンジョンに向かわせる準備をしていた。


 四宮教授が言っている事は分かる。

 わざわざ精霊銀の魔法剣などという高価なアイテムを使わせているのだから、今すぐでなくとも、それが必要とされるダンジョン(戦場)に行くと考えるのは、変な話ではない。

 そして高ランク冒険者御用達の高難易度ダンジョンというのは、利用する冒険者が無駄死にしないよう、ある程度以上の強さを求められる。


 一般的な冒険者であれば、冒険者ギルドが保証するダンジョン内活動の記録を提出して審査してもらうだけで済む。

 だが、俺はギルドに所属していないので活動内容の保証がされず、もし申請をしたとしても、審査が通るまで時間がかかるかもしれなかった。

 四宮教授は自衛隊を巻き込み、そちらに実力の証明を依頼する事でショートカットを図ろうと考えたのだろうな。


 俺に、高ランクダンジョンに挑む理由は、今のところ無いんだけどね。



「四宮教授。さすがに、高ランクダンジョンには挑みませんよ。気が早すぎます。

 たしかに強くなりはしましたが、まだまだ光織たちは経験不足。高ランクダンジョンのおっかないモンスターを相手にするには力不足です。

 最低でも中の上ランクの、属性系のモンスターとの戦いを経験していないと、話になりません」


 そういったダンジョンに挑むなら、最低でも俺が現役時代最後に潜った『火竜の塒』のような、魔法的能力を持ったモンスターが出るダンジョンでの戦闘経験が必要不可欠だ。

 また、そういったダンジョンの奥にいるボスモンスター、『レッドサラマンダー』のような強敵を倒すぐらいはしておきたい。

 固いだけ、パワーがあるだけのガーゴイルやゴーレムに勝てるだけでは、高ランクのバトルに付いていけないのである。


「しかし、精霊銀の装備をしているという事は、その力を引き出せるというなら、冒険者としては中堅どころでも上位で、高ランクに手が届いたところなのだよ。

 一文字君は手堅く考えるようであるが、少々ではなく、かなり自己評価が低くないかね?」

「重ねて言いますが、あの三人には経験値が足りませんよ。属性系のモンスターはオーガみたいなその他とは訳が違うんです」

「ガーゴイルなどは、地属性のモンスターではないか。それを考えれば、彼女たちはもう経験済みではないかな?」

「違います。ガーゴイルなど、属性持ちの中では最弱。ブレスを吐くようなファイアウルフなど、そういった手合いを完封できて、雑魚扱いできなければ話にならないんですよ」


 リアルはゲームとは違う。

 ダメージを負ってもHPが減るだけのゲームであれば、キャラクターはそのまま戦える。

 しかしリアルではダメージを負えばその分だけパフォーマンスが低下する。腕にダメージがあれば腕の動きが悪くなるし、攻撃力が減少する。足であれば機動力だけでなく踏ん張りがきかない。

 敵が雑魚であればダメージを受けず、安定して戦えるようになって“当然”なのだ。疲れるぐらいは構わないが、雑魚戦でいちいちポーション(高価な消耗品)を使うような冒険者は、まともに生活できないのである。


 それを考えると、攻撃力と防御力が高いが、他に見るべきところの無いガーゴイルなどはカモでしかない。

 防御力を突破する手段さえあれば、普通はそれが一番難しいんだけど、そこまで怖いモンスターではなかった。

 だからガーゴイルに勝てたところで、更に上の連中に通用するほど甘くはない。

 単純に、高機動高火力な忍者スタイルの戦い方ができるなら相性が良く、ジャイアントキリング(格上殺し)が容易であると、それだけでしかなかった。慢心などできないのである。



「そうかね? 私の目には、やはり光織たちを過小評価しているようにしか見えないのだがね。

 まぁ、すぐに挑めるという話でもなければ、必ず挑まねばならないという話でもないから、今すぐに結論を出す必要はないのだよ。それこそ、時間をかけて挑めるようになるのを待たせてもらうとするよ」


 四宮教授は、俺が過保護な保護者に見えるようだ。

 だが、現場の人間である俺の意向に強く反発はしないようで、こちらを尊重する姿勢を見せた。


 外部に話を通しているとは言ってもまだ構想の段階のようで、本決まりでもなんでもない、口約束にもなっていない選択肢として、俺に道を提示しただけ。

 ここから先は自分で考えればいいと、俺が進もうとは考えていなかった将来の選択肢を広げたようだ。



 そろそろ30歳が見えてきた男なら、そろそろ“先”を真面目に考えろと、そう言いたいのかもな。


 いつまでもこんな生活が続けられればいいんだろうけど、いずれ終わりが見えてくる。

 人生の、重大な選択を迫られる時が来るのかもしれない。


 なんとなく、そんな事を言われた気がした。

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