高ランク冒険者④
三人娘がまともに魔法剣を扱えるようになるまで、ガーゴイルやゴーレムを相手に戦うこと、20日という時間を要した。
同じ事ができるようになるのに、俺のときはどれぐらいだったかな? もう覚えていないな。
それなりに手間取ったとは思うけど、細かい日数なんて脳みその中に置いておくスペースが無かったからな。
三人娘の物覚えは、俺と同じぐらいという事にしておこう。
三人娘が修行する間、俺はチマチマと塩漬け依頼を消化してギルドに貢献し、多大な感謝を得た。
「お世話になりました。一文字さんがまた来てくれる事を、職員一同、願っています」
「こちらこそ、お世話になりました。ありがとうございます。
いずれ、またここに来るとお約束します」
「はい! その時をお待ちしています!」
ビジネスライクな関係ではあるが、ここのギルドとは良好な関係を築けた。
また来ようと思えるぐらいに、気分がいい。
思うに、変にプライベートに踏み込んでくるのが「いい人付き合い」ではない。
ビジネスライクでも何でも、お互いに適切な距離感で、変に緊張せずリラックスできる、信用できる関係が「いい付き合い」なんだと思う。
人や状況によって最善は変わるから、一概に何がベストとは言わないけど、お互いに仕事の付き合いと割り切り、距離をおき、互いの仕事の利益を最大にする様なあり方は、俺にとって好ましい。
埼玉の冒険者ギルドは、俺とウマの合う人たちだったみたいだな。
帰ってきたなら報告会だ。
四宮教授が自衛隊に顔を出しに行って不在だったから、及川教授に口頭で軽く済ませる事にした。
本格的な報告書はまた後でもいいだろう。向こうでは毎日の進捗をメールで報告していたんだから。
「しかしまぁ、これで光織たちも中堅の良いトコロってぐらいかな?」
長く修行に時間を取られたが、そこは織り込み済みで、問題無い。それよりも得られた成果を誇るべきだろう。
ゴブリンの掃除屋が、オーガを瞬殺できる戦士に育ったのは、快挙と言って良い。
なにしろ、最近の冒険者は、ロボット頼りでオークが限界なんだからな。
「そうですね。
一文字さん、聞き難い言い方ではありますが、確認しておきたい事があります。以前のお仲間と比較して、光織たちはどの程度でしょうか?」
そんな事を考え自画自賛していると、及川教授が変な話を振ってきた。
元仲間の件なんて、俺の中では解決済みで、どうでもいいんだけど?
「そうですね。俺を含めて、4対6で戦うのであれば、互角……ではなく、勝てるんじゃないですか?
装備まで含めて考えれば、光織たちの個人戦力は当時の仲間よりも上です。俺自身も、当時の自分ともう一人ぐらいなら受け持てるし、多少苦労はしますけど、勝てると思いますよ」
聞かれた意図はよくわからないけど、答えは簡単だ。
多分も何も、8割ぐらいの確率で勝てると思う。引き分けになるかもしれないけど、負けはないだろうね。
特に装備の性能が段違いなので、これで負けたら笑いものになるかもしれないな。
「はー。それは凄い。一文字さんらは、5年のキャリアを積んでいたんですよ。数で劣っていてもそれに勝てるというのは、開発者でも予想できませんでしたよ」
「子供の成長は早いものですよ。それこそ、親の目では気が付けないぐらいに」
「あはは。その通りですね。
ですが、それを独身の一文字さんに言われるとは思いませんでした。私は子持ちの妻帯者ですのにね」
俺の例え話に、及川教授は笑って返す。
自分の子供がいる人相手だからこそ伝わる例え話だけど、それを言う俺は未婚の独身貴族。一般論だが言葉の重みはゼロである。言う相手が子持ちなら喜劇でしかない。
そりゃあ、笑うしかないよな。
その他、光織たちが出来るようになった事、まだ無理な事を伝えて、情報共有をしていく。
及川教授は彼女らのパワーアップのために色々と考えないといけないので、本人らの録画データだけでなく、俺からの客観的ではない、主観的な情報も必要だからね。
良い開発者は、客観性を大切にするけど、現場の主観も馬鹿にせず、大切にするものだ。
俺はそこから一歩踏み込み、三人娘をどの様に強化していくか、夜遅くまで新装備のプランを詰めていくのだった。




