テストパイロット④
「一文字君。嫌な報告があるのだよ」
新人テストパイロット、柚子川君が働き始めてしばらくして。
ダンジョンでバトルクロスの慣熟訓練をさせていると、四宮教授から報告が上がってきた。
「本人に自覚は無さそうだがね。彼の体に、色々と仕込まれていたのだよ。
レーダー対策はされていたが、レドームの前ではそんな対策も誤差だったというわけさ」
レドーム搭載の六花が近くに行くと、彼の体の中に機械の反応があった。
そこで病院に連れて行き検査してみると、腹に盗聴器が仕込まれていたのが判った。
本人未承諾でこんな事をするのは違法なので、警察に犯罪被害として訴えられる。
これは大々的に黒幕を追い込めそうな証拠なので、いいネタが手に入ったと笑ってしまう。
そう考えていたけど、話はそう簡単でもない。
「昔であれば、こんな事ができるのは病院だけだったのだよ。
しかし今はポーションがあるからね。病院に連れ込まなくても、こういった事ができてしまうのだよ。
いつ仕込まれたのかは調べがつくのだけれど、誰がやったかを特定するのは難しそうだね」
「いや、仕込むにしても、結構な作業になりません? 仕掛けが厄介なほど、分かりやすくなると思いますけど」
いつやられたかが分かっても、犯人に結びつかない可能性を指摘された。
俺の頭では、体の中に盗聴器を仕込むなんて難しい作業なら、すぐに露見しそうな気がするんだけど。
「すぐに露見するようなやり方であれば、その時に露見するのだよ。最低限の偽装工作をしていると見るべきであるし、対策の一つや二つはしているはずだろうね。
もっとも、さすがに町一つ分の監視カメラをどうにかするのは不可能だし、手がかりが全く無いとまでは言わないのだよ。少しは足取りを掴めるはず、だけれど」
敵が黒幕に結び付かないようなデコイの情報を残している可能性もあり、運の要素が強いのだという。
「警察の人員と予算は有限なのだよ。殺人事件のような犯罪でもなければ、そこまでしっかりとした調査をしてもらえないと考えた方が良いね。
警察が面子にかけて捜査をするのは、この規模の事件ではないのだよ」
警察が頼りにならないとか無能という話ではない。
しかし警察に任せておけばオールオッケーではなく、期待値は低めに見積もっておくよう、四宮教授は釘を刺した。
過去になにかあったのだろう。四宮教授の発言にはそこはかとなく警察への侮蔑が見え隠れしていた。
柚子川君にも話を聞いてみるが、こちらもあまり期待できない。
もっとも、それは仕方がないと思うけど。
「柚子川君は、何か気が付かなかった?」
「お腹の違和感には気が付いていましたけど、それが盗聴器とは思わなかったです……」
「まぁ、腹に違和感があっても、普通は、それを盗聴器が仕込まれていたからだとは考えないよなぁ」
これは本心からのセリフである。
彼は自宅で寝ていた所をやられたらしい。
俺の山のように、セキュリティがしっかりしているならともかく、少しお高くても一般の個人住宅なら不法侵入ぐらい容易い。
「いや。それが出来るのは一文字先輩だからです。普通は出来ません」
「そうか? カメラの位置を確認しておけば、そこまで難易度は高くないと思うけど」
……細かい話は横に置き、腹に違和感があったものの、そこから盗聴器の存在を連想できたら、そいつはアレな人である。
普通は盗聴器など意識しない。盗聴器を探し出す検出器は市販されているが、それを持っている知り合いなど片手の指で足りる。
いや、会社では世話になってるけどね?
なんなら、会社で盗聴器を見付けた事もあるけどね?
一般人は、自分が盗聴されているとは考えないのである。
それと、盗聴器に気が付けなかった理由だけど、想像力の問題だけではない。
推定、盗聴器を仕込まれた翌日に、熱を出したからだ。
軽めの発熱で、病院に行くほどではないが、自宅で薬を飲んで静養していたのだという。
ここで病院に行っていれば、そこで発覚したかもしれないが。彼は病院に行くほどではないと考えてしまえば面倒だと避けてしまう傾向にあり、その時もそうしたのだという。
「……病院、嫌いなんですよ」
「分からないでもない」
余談であるが、男女で比べると、男は病院に行きたがらない傾向にあるらしい。
嘘か本当かは分からないが、俺も大した事が無いと思えば病院には行かないだろうし、そんなものかと思ったよ。
「毎年やっている会社の健康診断ではx線撮影もあるのだから、本当ならそこで発覚するはずだったのだよ。
相手も、私のレドームの性能までは把握できていなかったようだよ!
もっとも、今回の件で知られてしまったと思うけれどね」
盗聴器の件は、今後どうなるか?
警察に任せないとしても、俺だって個人の伝手で色々と並行して調査や捜査をしているので、手が足りない。
まさか、それが狙いじゃないよな?




