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テストパイロット③

「これ、ホントに一文字さんが使ってたのと同じなんですか?

 明らかに、その……」

「長期の使用によるレベル差に、魔力の親和性。

 同じように作ったけど、同じだけ使ってあるわけでもないし、使ってるのが違えば違う結果になる。当たり前だろう」


 柚子川君にバトルクロスを使わせて見る。

 すると、オーガ相手に戦える冒険者の柚子川君が、ゴブリンと戦うのがやっとのへっぽこ冒険者と化した。

 バトルクロス初装着なのだから、そんなものである。



「うす! 申し訳ありません!」


 肩透かし、期待外れという顔をした柚子川君を窘めれば、彼はすぐに頭を下げて反省した。


 仕方ないよな。

 大量のオーガとやり合い、生き残った俺たちが使っていたパワードスーツなんだから。多少スペックが落ちたとしても、ここまで弱いとは思わなかったんだろう。

 俺は怒っていないと笑いかけ、これから平日は習熟に努めるよう、指示を出すのだった。





「ふむ! 新人が来たのは良い事であるね! いつまでも一文字君がテストパイロットというのも良くないから、新人君がメインになってくれれば助かるのだよ!」

「他の人が使うとなれば、新しいデータも取れますね。

 他の人がどの様に戦い、どの様な負荷をかけるのか、興味があります」


 新人について、四宮教授と及川教授は良い事だと笑顔で受け入れた。


 テストパイロットが一人というのは、データ収集の面で不安があり、一般販売を目指すとしたら、大きなハンデになった。

 俺に特化したロボットと言うと聞こえはいいが、俺にしか扱えないロボットであれば、売れるはずもない。





「個人用のフィッティング、カスタマイズ。これらは防犯の面では都合がいいんですけれど。定番のイベントで盗まれ難いのはメリットですよ。

 自分専用機が大好きなお金持ちに売るとしても、もう少し、汎用品を売らないとプレミア感も出ませんよ」


 及川教授は、今のままでも販売戦略を立てる事はできると言う。

 しかし個人用の調整をするにしても、複数のテストパイロットで調整のノウハウを確立していないと駄目だと断言する。


「ユニットとソフト。これらはいいんですよ。

 しかし、販売となれば私達の運用、サポート体制をしっかり決めておかないと、最初期に躓き、後に続きません。

 そうなれば我々の失敗に学んだ後発の同業他社が、悠々と我々を追い越していくでしょう」


 ある程度は未熟な未完成品を世に出す戦略も、世の中にはある。

 ただ、それも戦略的に動くのが前提で、行き当りばったりに、勢いだけで始めるのはご法度だ。


 失敗は成功のもとと言うが、それは他人の失敗であっても変わらない。

 人の振り見て我が振り直せ。

 他人の失敗だって自分の糧になるのだから、安易に失敗できないし、失敗をすぐに自分の糧にできるよう、真剣に取り組まないといけないんだ。





「“多くの人から学習する事”で、“効率的な学習方法”を学習させるAIを作っているのだがね。こちらはあまり期待しないでくれたまえ」


 四宮教授は、俺の行動を学習したAIと柚子川君と共に学ぶAIを上手く使う事で、AIの学習速度向上を目指している。


 個人のデータなど、地道に積み上げていくしかないので、そこに近道は無い。

 普段の行動を深く理解していても、緊急時の行動が同じとは限らず、結果、行動に齟齬が出るなどザラにある。

 平常時も緊急時も等しく学ばないと、求める結果は出せないのだ。


 四宮教授はこれまでの行動に加え、筋肉の状態や脳波の振れ方、視線などからパイロットの行動を予測させているが、その精度はまだまだといったところ。

 純粋な予測だけでパイロットの行動は予想しきれない。

 これも、自分だけでなく相手、戦っている敵のデータにまで気を遣わないといけないのも問題なのだが。



「ここまでくると、ゼ○システムを完成させる方が早いかもしれないのだよ」

「モビル……光織たちが、ある意味ではソレですね」

「で、あるのだよ」


 このパイロットの行動予測システムを突き詰めると、予想の対象は敵にまで及び、自分がとるべき最適解まで導き出せるようになる。

 そうなると今度はパイロットに合わせてパワードスーツを動かすのではなく、敵に合わせてロボットが勝手に戦う方が効率が良くなり、パイロットはただの魔力供給源に成り果てる。


 そうなると……と考えたんだけど、その最終形態は光織たち、自立行動型のロボットである。

 人間の冒険者をロボットに乗せる意味と言えば、人間のレベルアップぐらいになりそうだ。


 そうなると人間はロボットに“乗る”パイロットではなく、ロボットに“載せる”荷物になるわけだ。

 ……まともな冒険者の数が減りそうだな。



「そうなると、パワードスーツは“冒険者用”の装備なのだよ。オトモ冒険者には使いこなせない装備というわけだね!」


 なお、四宮教授はロボットに乗る事しかできない冒険者の事を、某狩りゲーにちなんで『オトモ冒険者』と呼ぶ。

 チートでどんなモンスターも数発で倒せるチート猫を連れた『オトモハンター』と同じと揶揄しているのだ。


 いや、まぁ。そんな彼らだって、序盤だけとは言えダンジョン攻略の役には立っているんだから、そこまで悪く言うのもどうかと思うんだけどな。

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― 新着の感想 ―
[一言]  即落ち2コマ宜しくすぐさま正体を現すかと思ったけど粘るな。次か、その次の話辺りかね。
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