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テストパイロット②

 テストパイロットの追加が欲しいという話は度々出ていた。

 俺一人では、俺に何かあった時に対応できないからだ。俺が他の仕事に掛かり切りになってもアウトとか、業務上のリスクが大きすぎるのだ。



「柚子川君はここが地元だから、他のどこかの悪影響にさらされている危険も少ないと思いますよ」


 雇い入れた鴻上さんも、考え無しではない。

 地元出身という生まれを利用し、何か悪さをし難い相手を選んで採用している。

 家族と仲が良ければ、オレたちを裏切って罪を犯せば残された家族に迷惑がかかると、躊躇するのを期待しているのだ。

 他の地方の出身者では、こうはいかない。



「人格の方も問題ありません。

 それにもちろん、テストパイロットを志望する理由も問題ないでしょう」


 柚子川君は、パーティメンバーの寿引退に伴いパーティが解散したので、冒険者を辞める事にした。

 そして地元に帰って就職先を探していたら、ここに行き着いたのだと説明する。


「自分、不器用ですから。普通の会社員にはなれなかったんです。

 今度こそちゃんと働きたいです! 粉骨砕身の精神で働きます! 見捨てないで下さい、よろしくお願いします!!」


 なお、彼のパーティ解散は半年前。

 その後、一般企業に入社するが普通の人の中に馴染むことができず、3ヶ月で退職。

 すべて俺がダンジョンに閉じ込められる前の話なので、裏も何も無いと鴻上さんが保証した。


 確かにそこまでは、裏が無いだろうけどね。

 その後は? と思ってしまった。



 しかし、あまり疑いすぎても身動きが取れない。

 俺は追及もそこそこに、彼に仕事の説明をする事にした。





「ここがバトルクロスの保管室。

 入るには認証キーが二枚必要で、自分のカードだけでは入れないから、注意してね」

「あ、盗難対策とかですね! 了解しました!」


 まずはどこにメインの仕事道具があるのかを説明する。


「こっちに保管してあるのは、柚子川君用にする予定だから」

「あれ? 一文字先輩のバトルクロスは、ここにないんですか?」

「リスク分散のためにも、一括管理はしないんだよ」


 そこで柚子川君に使ってもらう予定のバトルクロスのハンガールームに案内した。

 普段はほぼ使わない、予備機の置き場所だ。


 柚子川君は俺のバトルクロスが気になったようだが、残念だけど、見せてあげないし、どこにあるかも教えない。

 アレの情報はハイグレードな機密だから、会社に入ったばかりの新人に教える様な事でもないのだよ。

 教えなくても仕事はできるし、気にしないでほしい。



 ちなみに、ここに無いバトルクロス。

 けして、それはダンジョン前の自宅に置きっぱなしとか、そういう事実は無い。無いんだよ。いいね?



「バトルクロスを着てもしばらくはまともに戦えないだろうし、自分に馴染ませるところから始めてもらうよ。

 動作の癖を学習してもらう必要があるし、ひと月ぐらいは見習い期間だと思ってて」


 そんなわけで、次に当面の予定を教えた。


 バトルクロスは俺がたまに使ってレベル上げをしてあったので、それなりに魔力が俺に馴染んでいて、柚子川君には悪いけど、しばらくはデバフがかかった状態である。

 よって、当面はバトルクロスに柚子川君の魔力を馴染ませないと、まともに動かない。


 また、バトルクロスの操作には、パイロットの癖を学習させる必要があった。

 これをやらないと緊急時など瞬間的な判断が要求される場面で機体の追従性が足りず、とっさの動きができなくなる。

 出来るだけ多くのシチュエーションを経験させて動きを良くしていかないと、これまた使い物にならない。



 困った事に、柚子川君は就職直後からバリバリ働くつもりだったようで、肩透かしを食らったようだ。


 こちらの説明のうち、魔力が馴染む、馴染んでいないという話は、自身の経験則から理解していたようで、言われるまま、納得していた。

 しかしAIの学習とか、そういったハイテク方面には詳しくないようで、こちらは納得ではなくスルーしたように見えた。


 まぁ、適切な行動さえとってくれるなら、納得も理解も必要が無いけど。

 言う事を聞いてさえくれれば、それでいいと思った。

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― 新着の感想 ―
[一言] 主人公はすっかり人間不信が体にしみこんでますね。
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