テストパイロット①
探偵さんを複数雇い入れた。
彼らには結構な調査費用を先行投資で渡しておいたが、結果が出るまで半月以上かかるだろう。運が悪ければ数ヶ月経とうが結果が出ない。
どこぞの小学生名探偵なら即日解決もあり得るのだが、リアル探偵の仕事はとても地味で、地道で、時間がかかる。
真実はいつだって一つだろうが、そこに至る道は有ったり無かったりと、あやふやで掴みどころがない場合が多いのだ。
誰か一人ぐらい、真実に辿り着いてくれるといいんだけどな。
そうやって調査の依頼を済ませれば、テストパイロットの仕事が待っている。
「オーガ戦の戦闘データのフィードバック、終わりましたー」
「機体のレベルアップで出力も継戦能力も大幅に向上していましたよ! これ、機械的な性能向上よりもずっと効率が良いんじゃないですかねぇ!
え? ああ、そうですね。命がけですもんねぇ。そうそう美味い話なんて無いわけですかぁ」
バトルクロスは、リビングメイル系モンスターをベースにしたパワードスーツで、激戦を経て幾度もレベルアップを遂げた今は生きていると言っていい機体である。
光織たちのように自己再生とまではいかないものの、オーバーホールをして、完全復活を果たしている。
パーツ交換により一部の強度が脆くなってはいるけれど、それでもダンジョンに行く前よりはずっと強くなっている。
自分だけの手柄ではないが、オーガを1000体近く倒したようなので、ゴブリンダンジョンに日参するよりもずっと早いペースで強くなったようだ。
「まずは軽く馴らしをお願いします」
「了解」
オーバーホールをした後にするのは、軽い馴らし運転だ。
オーバーホールをしたという事は、ほとんど新規製作をしたのと変わらない状態という事で、どこに不具合があるか分からない。
だから馴らし運転で不具合が無いかチェックしないといけない。
「たまに思うんスけどね。ロボットアニメのロボットって、何であそこまで故障しないんスかねぇ? 海外の車とか、ガンガン故障車を出すっていうのに。
アレっスか? アニメのロボットは全部メイドインジャパンなんでスかね?」
「……日本のロボットアニメだから、メイドインジャパンなのは間違い無いよね」
「ああー! そうでしたねー!!」
今回は分解と修理。つまり基本機能の変更は無いのだが、向上した機体性能、オーバーホールで弱くなった部分、それらのデータを加味した微調整が必要だった。
だから馴らし運転はとても気を遣ったし、細かいインターバルを入れていた。
馴らしには時間がかかるけど、手を抜いた方が後で手間がかかるので、最初にしっかり時間を使って、キッチリと仕上げを行った。
「いやー。一文字さんが来てくれないと、仕事がなかなか進まないっスからねぇ。今日はガッツリと頑張ってもらうっスよー!」
「そうですね。しかしウチだけではなく設計の方も顔を見せて欲しいって話じゃないですか。ここだけで1日を終えられたら、絶対に後で煩いですよ」
「ですよねー。ああー、本当に、面倒っスよー」
ただ、じっくり時間をかけてテストパイロットの仕事をやるというのは、それ以外の仕事を止めるという事でもある。
俺はわりと忙しい方で、仕事を多く抱えているので、テストパイロットに集中できるという訳ではない。
自分の仕事を他の人に割り振って、山積みされた「俺にしかできない仕事」を熟しているものの、上手く回っているとは言い難い。
どうにも、時間の捻出が上手くいっていなかった。
「人手、増やした方が良いかもしれませんね」
「えー。それは分かるっスけどー。テストパイロットとか、かなり重要で信用のいる仕事スよ。そんな簡単に増えます?」
「そもそも、冒険者の引き抜きが難しいんだよなぁ。テストパイロット候補がいないんだ」
「じゃあ、発想を変えて一文字さんに秘書を付けるとか? 効率のいい仕事の段取りをしてもらえれば、今よりはマシになるっスよね」
仕事が溜まれば不満も溜まる。
至極当たり前の話だが、仕事量に対しマンパワーが足りていない。
ただ、俺は人任せにできない仕事を割り振れるようにテストパイロットを増やすというのは、かなり難しかった。
冒険者崩れの奴とか、外のロボット乗り冒険者モドキではバトルクロスを着せても意味が無い。
ある程度以上の、戦える冒険者じゃないと意味が無いんだが……そういう人は、そのまま冒険者として頑張っている方が稼げるので、こっちに来てくれない。
現実的な落としどころは、スケジュールの管理と調整ができる秘書を雇うぐらいだろう。
それでも、条件が少しマシになっただけなんだがね。
「いや、本当にすまん」
「いえいえー。悪いのは、裁判を起こした奴っすよー」
「人は簡単に集まらない、すぐには育たない、ですよね。一文字さんは無理をしないで下さいね」
会社はいつでも人手不足。
欲しい人材は、いくらでもいる。
募集は年中受け付けている。
ただ、そういう人材はどこでも欲しがるものなので、中小企業に過ぎないウチは、美味しい人材が好条件で大企業に掻っ攫われるのを、指を咥えて見ている事しかできない。
こちら基準の好待遇も、大企業の好待遇には敵わなかった。
「どーにかならないものかねぇー」
会社のお偉いさん、管理職としては忸怩たる思いがあるが、安易な条件のつり上げは会社の寿命を短くするからなぁ。
きっと来ないと思いつつも、今の条件で人が来るのを待つしかなかった。
なかったんだけどね。
「こちら、テストパイロット候補の柚子川君だ」
「『柚子川 圭吾』です! よろしくお願いします!!」
本当に人が来たら来たで、裏を感じてしまうという、救いの無さ。
鴻上さんに一任してあった人材募集が人を探し当てると、俺は心の中でとても嫌な顔をするのだった。




