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妨害工作③

 テレビ関係でそういった話が出ると、興味のある人、行動力のある人は俺がMPK加害者を見殺しにしたと訴えられている事に気が付く。

 この裁判で俺が負ける可能性は非常に低く、ほぼゼロと言っていい。もし負けるとしたら、雇った弁護士がよほどの間抜けか、雇う費用をケチって自分でどうにかしようとした時ぐらいである。


 裁判の内容は完全に公開されるものなので、調べようと思えばだれでも知ることができるようになっている。

 行動力のある人たちは、その内容をSNSで拡散していくわけで。



「うわー、炎上していますね」

「ネットリンチは怖いですね。これ、相手の自宅住所や電話番号とかだけじゃなくて、就職先にツイ垢やらなんやら、個人情報が駄々洩れじゃないですか」

「一応、私の方から火消しをしておきましょうか」

「ええ、それがいいですね」


 俺を訴えていた遺族は、正義マンの圧倒的暴力により個人情報をネットに晒され、引っ越しを余儀なくされていた。

 勿論本人らの引っ越しだけで済まず、その親類まで巻き込んでの大騒動だ。

 ただでさえ、俺が提示した和解案を受け入れず「殺人(未遂)犯の身内」というレッテルを貼られていたのだから、引っ越し先もなかなか決まらず苦労したようだ。


 ……本当に、なんでわざわざ法廷で争うような真似をしたんだろう?

 負けると分かっている裁判で仕事をしなければいけない相手の弁護士さんが気の毒である。



 こうなる事が分かってやったんだけど、オーバーキルはこちらの評判を落とすので、ネット民がこれ以上暴走しないように火消しを行う。

 こちらのSNSアカウントで公式メッセージを発信し、ネットリンチをしないようにと訴えかける。

 彼らとの争いは法廷でしっかり勝負をつけるので、嫌がらせの書き込みや電話をしないように、そういった行為は犯罪だから止めるようにと、ちゃんと断言しておく。


 自作自演、マッチポンプの極みであるが、これも必要な行為だ。

 こういった状況になっているのを俺が知らないというのは無理があり、ここで何もしないと今度は俺が後で叩かれる材料になる。

 連中の事を思いやる気持ちは無いが、保身のために自己防衛をしておく。


 ネット社会で一度目立つと、こういった印象操作に手を抜けなくなる。

 面倒だけど、それ以上に便利だから有効活用させてもらうけどね。





 俺を訴えていた遺族は、死んだ奴の弟と、子連れの嫁さんだ。


 弟の方は兄弟どちらも結婚しておらず、まだ被害が小さく収まっている。

 精々親から叱られるぐらいで、親子の仲が険悪になるぐらいだった。


 しかし嫁さんの方は大事になっていて、今は親族から相当叩かれているようだ。

 結婚しているという事は、夫婦どちらの親族も関わってしまうので、単純計算で親族の数が2倍になる。

 嫌な言い方をすると、俺が付け入る隙も、2倍になる。

 悪役の手口かもしれないが、俺は彼女の親族の一人に渡りをつけ、こちら陣営に引き込むことにした。



「この度は、本当に申し訳ありません! 何とお詫びをすればよいか! 申し訳ありません!!」

「頭を上げてください。望月さんが悪いという訳ではありません。責任の一切合切は、あの嫁独りにあるのですから」


 俺は遺族の親族の一人、望月さんとファミレスで顔を合わせていた。

 望月さんは50代で3人いる子供が成人し始め手がかからなくなるので、そろそろセカンドライフを楽しむべく、その準備をしている所だった。

 しかし親族の一人がMPK犯として有罪になり、その嫁が馬鹿な裁判を起こして世間を騒がせたため、色々と苦労をしている最中だった。


 俺の感覚で言えば、望月さんもあの嫁の被害者の一人であり、仲間のようなものである。

 俺はこの人の息子よりは上の年代であるが、それでも世代1つは若い。そんな俺に平謝りしなければいけない望月さんの姿には同情を禁じ得ないし、こういった人が苦労するのは間違っているとも思う。


「私としては、できるだけ話を小さく、穏便に済ませたかったんですよ。ですから、ああいった裁判を起こされるのはとても困るんですよね」

「ええ。寛大な御配慮に対し、あの馬鹿が無礼な対応をしたと聞かされた時、私どもも止めるようににと説得をしたのですが、どうしても聞き入れてもらえず……」

「そうでしょうね。裁判の前に顔を合わせた時も、話が通じない様子でしたから」


 最初はお互いが手を取り合える関係だと確認するような会話を重ね、互いが味方であると宣言するようなやり取りを交わす。

 あえて明言はしないが、そうやって分かり合ってから俺は本題を切り出した。


「私が望月さんに相談したいのは、彼女の子供の事なんですよ。

 あの女が母親で、子供はちゃんと育つのか。そもそも、アレに子供を育てる意思があるのか、って部分なんですよね」


 ここで打ちたい手は、相手の子供である。

 子供に罪はなく、両親の愚行の被害者とするには忍びない。

 無駄に「犯罪者の子供」としてハンデを背負わせるのも、あまり良くない事だと思う。


 それに、あの母親が将来のことを考えていた場合、最悪な手に出る事すら考えられた。


「普通に考えれば、俺の申し出を受け入れるしかなかったんですよね。そうしないと子供は犯罪者の身内として、将来、結婚や就職するにも困る事になります。

 もしもそういったリスクを承知で裁判を起こしたのだとしたら……こちらへの当てつけで無理心中を計画しているかも、というのは穿ち過ぎでしょうかね?」

「え……。いや、しかしそれでは」

「まぁ、性分なんです。可能性の一つとして、そんな最悪も想定してしまうんですよ。私としてはあって欲しくない未来予想も考慮してしまう。

 そこで、あの女から親権を取り上げ、子供の安全を確保して欲しいのですよね」


 いや本当に。

 ここで子供を道連れに死なれでもしたら、最低なんだよな。

 テレビで追い込みはかけたけど、ネットが絡むと制御ができないし、匙加減とか無いから。


 テレビタレントとかもネットでの誹謗中傷を理由に自殺する世の中だしさ。

 面倒でもフォローしとかないと後が怖い。


 ……嫌な話だよなぁ。いろんな意味で。

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