妨害工作②
「光織でーす」
「六花でーす」
「ミナミハル……あいたー!」
テレビカメラの前、三人娘はいつものノリでコントをかます。
あまりにも古いお約束ネタだけに、俺は恥ずかしくなって両手で顔を隠した。
「一文字さん?」
「すみません……。こういう娘たちなんです……」
しかし番組MCは許してくれない。
俺に白い目を向けつつ、説明を求めてきた。
こいつらがこんな風に育ったのは、俺のせいじゃないよ? ホントだよ?
俺は出入り口が消えたダンジョンを攻略し帰還を果たした冒険者として、テレビ番組に出演していた。
あの一件は滅多にない大事件として扱われているので、テレビ的に美味しいネタだったからだ。
事件解決の立役者である俺は、結構な出演料を貰い、取材をうけたりダンジョン内映像記録の提出をしていた。
これは報道関係のコネを維持するためのコストである。
そして、俺に対する妨害工作への牽制でもあった。
「六花さんが腕を吹き飛ばされたシーンですが、その前に晴海さんがオーガメイジを倒しているんですよね。
つまり、ボスオーガのパワーアップはこの段階から行われていたのでしょうね」
「はい。オーガメイジがやられる前後で動きの速さが変化しています。それにより、回避のタイミングがズレたのですね」
今出ている番組は、モンスターの能力の検証をメインにしている情報番組だ。
変異体モンスターの情報は貴重なので、こちらが値を吊り上げなくても、戦闘記録は高値で買ってくれたよ。
こういったレアモンスターは、出遭えば死んでしまう冒険者がほとんどなので、情報は有り難いらしい。
実際に戦った冒険者の生の声は、更に貴重なんだとか。秘密主義の冒険者も多いからね。
「しかし、ボスオーガが10体いたのは、やはりMPK冒険者の影響でしょうか?」
「その可能性は非常に高いですね。
ダンジョンというのは、とてもゲーム的な性質を持っています。ボス戦への参加人数がボスオーガの数に影響を与えたと見て、間違いないでしょう。
もしも一文字さんたちだけであれば、多くても5体だったはずです」
この番組に出演するとき、俺は一つの条件を提示した。
それはMPK冒険者に対する発言の許可だ。
テレビ番組の中で、あの戦闘で苦戦した理由を、MPK冒険者がいたからだと断言したかったのである。
実際、アイツらがいなければボスオーガのパワーアップは程々に抑えられ、あそこまで苦戦する事は無かったのだ。
番組スタッフも気を利かせて、こちらが言い出していないボスオーガの数にまで言及し、忖度してくれている。とてもありがたい。
「適正人数で戦えば、もう少し楽に戦えたのでしょうね」
「それはそうでしょう。戦いは数ですよ」
その後は敵の攻略法をみんなで考える時間となり、戦術の検討を行う。
不自然にMPK冒険者へのヘイト稼ぎをすると番組の質が落ちるので、話題にするのは種まき程度に留めておく。
その辺りのさじ加減は事前の打ち合わせで取り決めがあるので、お互いにルールの範囲内で、無理なくやっておくよ。
こうやって俺は1つ目の種を蒔く。
種まきのためとはいえ、いくつかの番組への取材には応じたが、すべての番組に関わる気などない。
そこまでやるのは無駄である。
取材や番組出演は断る事の方が多い。
「ええ、裁判もあるので、そこまで時間を割けないのですよ」
そこでも俺は、種を蒔く。
MPK冒険者の遺族に訴えられている話を拡散するためだ。
「ええ。遺族にしてみれば、助けなかった私は冷血漢で、犯罪者なのでしょうね。
私もあの戦いはギリギリで、助ける余裕など無かったのですが……理解して頂けないのです」
取材には応じないが、自分の事情は話す。
本人の言葉なので、それが報道で使える数少ない情報となる。
俺をネタにしたいテレビ局は、直接取材できなかったが、そこから網を広げて番組を作っていく。
そうして。
「いやー。MPK防止関連法を、未だに理解していない人もいるんですね」
「うーん。生存権と、緊急避難の考えも分からなくはないんですが。無茶をさせないためのMPK防止関連法ですので、これが覆る可能性は全くありませんね」
「ほとんどの遺族の方々は、一文字さんと和解しているのですが……。彼らはなぜ、ここまで頑なになるのでしょうか?」
俺が何かしなくても、勝手に遺族を追い込んでいく。
ダンジョン関連法はまだ歴史が浅いため、細かい修正を何度もしている。
だから、その是非を問う番組はこれまでに何度も放映していたから、その一つとして関わりを持たせようとしたのだ。
いくら話題のトピックでもその寿命は短いので、使えるうちにネタにしたい局の意向である。
こうして、遺族サイドへの攻撃は行われていった。




