俺はこうして大金を手に入れた
モンスターのドロップアイテムは、その全てが「宝箱」の形でたまに出てくる。
この「宝箱」は、開封するまで野球のボールぐらいの、小さなガラス球みたいな見た目だ。
見た目は脆そうだが、宝箱は意外と硬い。割ってもいいのだが、これを持って開封の意思を持つ事で中身を取り出せる。罠の類はない。
中身はだいたい宝箱より大きいので、嵩張り荷物が増えるからとダンジョン内では開封せず、帰ってから開封するのが常である。
俺はダンジョンでかなりモンスターを倒していたが、手持ちの宝箱は、最後に戦ったファイアウルフ変異種(?)のもの以外を荷物持ち担当に預けていたので、そちらは強奪された形になる。糞が。
引退すると決めたのでもうどうでもいいが、壊れた装備の修復や消耗品の補充を考えると、赤字は間違いないだろう。
冒険者は高収入だが支出も大きく、命がけなのを考えると手取りは思ったほど多くない。まぁ、それでも分配金は月に300万円ぐらいにはなったのだが。
宝箱を開けるのは、大体が冒険者ギルドの「開封室」と呼ばれる場所だ。
ここで宝箱を開封し、冒険者ギルドにドロップアイテムをそのまま売りつける。そうする事で冒険の成果を人に見られることなく、安全に売り捌けるのだ。
中には自分で鑑定したり、独自の販売網で売り捌く強者もいるが、それは専門の技能や伝手のある特殊な連中だ。
特に売買は税金の申告が面倒になるし、買い手が詐欺に遭うのも珍しくないので推奨されない。
だから俺は冒険者ギルドへの売却一択である。それが一番楽で確実なんだ。
推定変異種とはいえ、ファイアウルフのドロップアイテムに、期待はできない。通常は20万円ぐらいなので、レアでもせいぜい4〜50万円といったところだろう。
そんな事を考えながら宝箱を開けてみると。
「ヒュゥ。大当たりかよ」
出てきたのは、一振りの剣と、真紅の魔石がいくつかと、毛皮、爪、牙といった素材。
剣は刃渡り80センチ、肉厚のロングソードで、柄の尻に填められた宝石にかなりの魔力を秘めている。どう見ても魔剣の類だろう。
真紅の魔石は滅多に見ない大粒で、色が良い。魔石の大きさは内在魔力に比例するし、色の良さは魔力の質に直結する。つまり、この魔石はかなりの値打ちものである。
素材については、よく分からん。こちらの品定めは俺にはできないので、専門家任せとなる。
素人目ではあるが、これを全部売れば100万円どころか一千万円を超えるのは間違いなく、普通に冒険者を続けるにしても、大幅な黒字と断言できた。
だが、俺の考えは良い方に大きく裏切られる事になる。
「50億……」
手に入れた魔剣は、有り得ない金額で売れた。
俺は雑な目利きで一千万円以上と考えたが、ギルドのオークションにかけられるとたちまち値が釣り上がり、50億円もの大金に化けた。
税金に10億以上持っていかれたが、それでも手取りは40億近くになった。
あの魔剣は持ち主に炎を操る力を与えるらしく、火属性の敵の攻撃を封殺するほど凶悪な代物だった。
あの魔剣があればレッドサラマンダーだって楽に狩れるだろうし、売却利益があれば、そもそも狩らなくても史郎は悲願を成就しただろう。
あのバカは一時的な感情で本来手に入った輝かしい未来を捨てたのである。
逆に、俺は幸運を独り占めする機会を得た訳だ。
そう思うと史郎への怒りも解け、どうでもいいという気分になる。
助力を請われても手を貸す気にはならないが、敢えて煽ったり陥れたりする必要もない。
関わるのが面倒なので、俺はすぐに引っ越し、スマホの番号を変えた。冒険者を引退するので、ギルド経由で連絡されることも無いだろう。
家族には落ち着いたら連絡する旨を伝え、しばらくは身を隠すと言ってある。新しい連絡先はしばらく身内にだって伝えない。
一応、史郎とは幼馴染みだったのだ。
うちの家族も史郎とは知らない仲ではないし、喧嘩別れをしたのだから仲裁をしようと思っても不思議はない。
こちらも復縁を考えてもいいけれど、だからと言って今回手に入れた金を渡したくはないので、しばらくは放置だ。
最低でも一年は距離を置くつもりでいる。
二度と顔を見せるなと言ったのはあちらなのだから、それぐらいしてもいいだろうさ。
予定外の収入があったのだから、しばらくは働かず、のんびりしようと思う。
思えば、冒険者になってからは随分生き急ぐ生活をしていたからだ。
モンスターと殺し合う冒険者は、全てが自己責任。
ヘマをすれば命に関わるので、休みを返上することも多々あった。とんでないブラック社畜の様な毎日だった。
まとまった休みを取って旅行に行くだとか、そんな事を考える暇があったら、ダンジョンで生き抜くための訓練と勉強の日々であった。
「田舎に家でも買って、カントリーライフでも楽しむか。山付き川付きの土地にすれば、アウトドアも楽しめるな」
馬鹿なこと、例えば無知なのに投資などに手を出せば、40億円でもあっという間に溶けるのが現代社会だ。
そういった話には一切手を出さず、浪費癖の無い嫁をちゃんと選べば、あとは適当にやっていくだけでも死ぬまで自由に生きていけるはずだ。
史郎。
俺は自由に、幸せに生きていくよ。
だからお前も、自分の願いを叶えられるといいな。
俺はもう、協力しないけど。