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リザルト②

 基本的に、ボスオーガのドロップアイテムは売らない事にした。

 今の俺は資金に余裕があって、すぐに現金が必要というわけでもないからだ。

 それならば、自分で使ってしまった方が利益になる。



 それに、ただ売るだけではもったいないのだ。


 前回のドロップアイテム売却は、オークション経由で俺に多額の資金をくれた。

 しかし、手に入ったのはお金だけである。


 世界トップクラスの冒険者が購入したのに、彼らは俺となんの関係もなく、ただ売っていたアイテムを買っただけ。

 伝手にも何も、なっていない。


 これが、もしも個人間で行われる売買であったなら。

 俺は彼らと顔見知りになり、か細くはあるが伝手と言っていい関係を結べていた。

 その時は、五十億という大金を彼らも払ってはいなかっただろうが。


 今回のボスオーガのドロップアイテムを残すのは、将来的に高ランク冒険者の縁を結ぶためだ。

 それまでは自分たちで手に入った装備を人数分だけ使いつつ普段通りの生活をしようと、そんな考えでいたのだ。



 ただ、まぁ。

 MPKをやらかした連中の親族、その一部が騒ぎ出し、非常に面倒な状況に追い込まれてしまったのだが。





 俺は大金を手に入れてすぐに契約を結んだ、顧問弁護士の一人と話し合いをしていた。


「では、死んだ彼らの親族のうち、面倒なのは二つだけと」

「はい。残りはこちらの提案に肯いてくださいましたよ」


 冒険者は、原則として自己責任でダンジョンに潜る仕事である。

 よって、奥まで攻略済みのダンジョンであれば、変異モンスターが出てこない限り実力に見合った冒険計画を立てる事ができるため、無茶な攻略をしない事が可能になっている事もあり、内部での行動は厳しく取り締まられる。


 ダンジョン発生初期、ダンジョン内で冒険者同士が殺し合う事件もあったため、ボイスレコーダーなどを用いた冒険記録が義務化されていた。

 こうでもしないと、女性冒険者の強姦事件や初心者冒険者の搾取などが防げないのだから、当然の処置だ。


 普段は冒険記録の提出義務など無いのだが、こういった記録が無い時にダンジョン内で犯罪行為があったという話が出ると、真っ先に疑われる事になる。

 下手をすると、仲間に死なれただけでも殺人容疑がかけられる。

 ダンジョンの攻略は自己責任だが、同時に連帯責任でもあった。



 そしてMPK冒険者の死は、何があったのか俺に説明責任が発生した。

 光織たちの映像記録があったため、もちろん俺は無罪であり、彼らは冒険者がもっともやってはいけないMPKをしたとして、死んでからだが、犯罪者という扱いになった。

 俺からの情報提供もそうだが、彼らは自分たちの行動が問題の無い行為と考えていたので、彼ら自身の冒険記録も証拠として判断された結果である。


 俺の予想していた最悪の展開だが、奴らは俺が食料や水を豊富に持っていると考え、それを奪おうと話し合っていたらしい。

 極限状態なので、それくらいでは犯罪にはならないと考えていたのだ。


 いや、法的にはそれが正しかったりするんだけどね。

 それを記録に残してしまうあたり、連中は本当に残念で、早めに死んでおくべき馬鹿だったようだ。

 言葉では取り繕い、本音を筆談で話し合うぐらいの知性は見せろよ……。



 そんな残念な連中の親族だが、俺としては彼らと悪い縁を結びたくなかった。

 奴らを犯罪者として糾弾せず、ある程度穏便に話し合いで済ませて、なぁなぁで誤魔化しても良かったのだ。


 MPKは許されざる犯罪だが、本人ならともかく、親族にまでその責任を追及するほどでもない。

 だから俺は遺族から金を毟り取るような真似はせず、賠償請求をしない予定だったのだが。


「この、人殺し! 兄貴を返せ!」

「まだ幼い娘を残して、なぜ夫が死ななければいけなかったんです!? なんで助けてくれなかったんですか!!」


 ほとんどの遺族はアホな身内の自爆に巻き込まれないよう、俺の提案を受け入れた。

 俺は死んだ連中に賠償請求をしない。よって遺族が馬鹿の遺産を受け継いでも問題ないよう、取り計らった。


 なのに、たった二人だが、遺族が俺を殺人犯と糾弾したのだ。

 現代戦の基本戦術として、SNSを通じ味方を作りながら。


「保険会社は、彼らが攻略予定にないエリアに踏み込み、MPKを行った事を理由に、保険金の支払いを拒否したのですね。

 ちゃんと規約に唱われているため、それを覆すのは不可能です。

 ですからまだ可能性がある、一文字さんへの糾弾をしているのでしょう。タチの悪い弁護士も背後にいるようですね」


 顧問弁護士の古谷(ふるや)さんは、これが法律に詳しい誰かの入れ知恵だと考えていた。

 面倒で、対応に時間がかかると、俺に頭を下げる。


「一文字さんが、あのドロップアイテムをオークションにかけないので良かったですが、そうしていたら、もっと面倒な状況になっていました。

 可能であれば、他のアイテムも出来るだけ換金しないようにお願いします」


 こんな状態では、ドロップアイテムの換金は面倒事になると古谷さんは言う。


「金銭の取引は誤魔化しが出来ません。情報公開の義務こそありませんが、すぐに漏れるでしょう。

 そして彼らは、一文字さんが大金を手に入れたのなら、それは自分たちにも分け与えるべきだと主張します。

 お話にならないのですが、世論を味方に付ける扇動者が手を貸しているようなので、ここは慎重にお願いします」

「構いませんよ。換金したかった素材に、売却期限はありませんし。

 ま、倉庫を逼迫するので、その分の負担を損失として、彼らに負担してもらいましょう」

「分かりました。そのようにしますね」


 手に入れたアイテムのほとんどは魔石であり、金銭的価値が高いのは売る予定の無いボスオーガのドロップアイテム。

 俺としては高ランク冒険者に売り込みをしてみたかったが、今は売れないとなると、方針転換が必要か。


 物理的にぶっ飛ばせない相手というのは、とても手間のかかる敵であった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 徹底的に裁判とこういう事例で裁判を起こした悪党の弁護士の名前を記載して公表しておくべきでしょうな。 同じような事例でMPKで裁判を起こそうする弁護士とか社会的な害悪そのものでしょうしね。 物…
[一言] 資産持ってる人が弁護士軍団雇えば物証もあって勝てる見込みは無いのに 世論を味方につけ法を曲げてまで金を毟ろうとしてるって事は 黒幕は金じゃなくこういった場合の判例をゴリ押しで作ろうとしてる感…
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