リザルト①
俺に治療は必要ない。
怪我はしたけど、ポーションで回復済みだからだ。
しかし、光織たちは修復が必要だ。
光織はボスオーガの一撃を、六花はオーガメイジの魔法を受けていて、かなりのダメージを受けている。
晴海に目立ったダメージが無いのだけは、数少ない、喜べるポイントだろう。
ついでに、バトルクロスも修理が必要だ。
直撃こそ避けていたが、ボスオーガの攻撃をそこそこ喰らっていたので、装甲部分の入れ替えは必須。骨格もチェックが必要で、下手すれば新規作成したほうが早いかもしれないレベルであった。
「……いえ、その必要は無いかもしれません。
認めたくはありませんが、光織さんたちは途轍もないパワーアップをしていました」
光織たちの修理はハード担当の及川教授の仕事だ。
しかし、その修理計画を立てようとした及川教授は、どこか暗い表情をしていた。
「自己再生を始めています」
「……へ?」
「光織さんたちは、みんな自分で、自力でダメージを直しているんですよ! どういう事なんですか! 説明! 説明を求めます!!」
「いや、それを俺に言われても……」
及川教授がダメージの確認をしていたら、光織たちの損傷が、目の前で直っていったのだという。
素材を用意し、ゆっくり時間をかけて直す方に魔力を使わないといけないので、戦闘中に回復するというのはできないらしいが、それでもとんでもない成長を遂げていた。
時間をかければ数日で回復し切るようなので、あとは回復に使われる魔力を切らさないように、ダンジョンで魔力の補充を怠らなければいいらしい。
「自己再生、自己増殖、自己進化。
三大理論のうち、二つが成立しています。どこのアルティメット原神ですか、彼女たちは」
さすがにナックルバンカーの炸薬の補充まではできないが、それでもダメージ回復能力が手に入った事で、光織たちは、見方によっては人類の天敵になりかねない力を得たと言える。
それで最後の一つ、自己増殖まで出来るようになれば、国から破壊命令だって出るかもしれない。
及川教授はこの事を危険視していて、かなり神経質になっている。
仲間である四宮教授すら、蚊帳の外に置きたいようだ。
「一応、一文字さんには説明をしましたが。くれぐれも、この事は漏らさないでください。四宮教授にだって、言わないでくださいよ」
「あの人なら、自力で気が付きそうな気もするよ?」
「それでも、です。あの人は――人としては信用していますし、技術者としての腕も信頼していますが」
情報を慎重に扱うよう強く語る及川教授は、四宮教授への懸念を口にする。
「あの人の、技術者としての人格は、信用していません。
なんだかんだ言って、こちらの知らない動きもしています。私達に不利益を出さない配慮はするのですが、機密を守れるかと問われれば、守らないだろうと断言しますよ」
それは、強い確信のこもった言葉だった。
「じゃあ、光織たちとバトルクロスは、しばらくは戦えないとして。
俺も、今回は死ぬかと思ったから、ダンジョンに行かないから、それは良いんだけど」
一番の懸念、光織たちの様子に問題が無さそうなのは良い事だ。
そうなると、次に気になるのは、今回の戦利品である。それがどれくらいの収入になったのだろうか?
全部を売り払う事はしないけど、魔石を自分たち用に残したとしても、いい小遣い稼ぎになったと思う。
俺は持ち帰った山のようなトレジャーボックスに期待を込めて、及川教授に聞いてみた。
すると、及川教授は仏の様な顔になった。
何か悟りを開いたような、穏やかな表情だ。
「持ち帰ったトレジャーボックスは、指示通り、中身を確認しましたよ。
オーガの魔石、オーガの皮、オーガの骨。ええ、大量でした」
ここまではいいんですけどね。
及川教授は思い出したくないものを思い出したような顔をして、続ける。
「一文字さんが最後に戦ったボスオーガのトレジャーボックスからは、いかにもなレアアイテムが。
ええ。一文字さんが以前手に入れたという火食いの魔剣。アレよりワンランク落ちますが、同種のアイテムが十個もありました」
「え? 十個?」
「はい。十個ですよ。全部オークションにかければ、いくらになるのでしょうね?」
告げられたのは、死闘の対価。
通常は一割程度のドロップ率のトレジャーボックスが、十割、全て全部手に入ったという、驚きの結果だった。
オーガがベースのため、ファイアウルフの変異体ほどのレアアイテムは手に入らなかったが、それでも普通に手に入れようと思えば数億円相当のお宝が出たらしい。
死ぬような思いをしたので、同じものが手に入るとしても二度とやりたくはない。割りに合わない。
だが、貰えるものは貰っておこう。
俺はそう考えていたが、最後の最後に、もう一働きしなければいけなかった。




