帰還
俺は魔力枯渇、光織たちもボロボロ。
生きている、ではなく、死んでいない。
俺たちはそんな状態だった。
「けど、勝った」
しかしそれは些細な話で、生きているのだからそれでいい。
生きて次に繋げるのなら、何も問題は無いね。
俺は2割か3割ぐらい魔力が回復するまで、ここで休んでいく事にした。
ロボの光織たちだって、小休止をして体を休ませれば、もうしばらくは動き回れるようになる。
もうボスオーガは居ないのだからと気を抜きすぎ、魔力もないのに一人でウロチョロして、雑魚オーガにやられてしまっては間抜け過ぎる。
無理を通す場面は過ぎた。
俺は水で口を潤すと、座ったまま寝息を立てるのだった。
「一文字君! 無事かね!?」
ボス部屋で休んでいると、四宮教授がタイタンを連れて駆け込んできた。
俺は驚き辺りを見回すが、俺がいるのはまだボス部屋で、ダンジョンから出たわけではない。
なんで四宮教授がここにいるのかと驚いた。
「ダンジョンの出入口が消えた件だがね。出入口は元通り、ちゃんと開いているのだよ」
「……では、帰れるんですね?」
「ああ。出入口で待機していた、他の冒険者から話を聞いているのだよ。
急に出入口が消えて、帰れなくなったのだよね? もちろん、聞いているとも。
そんな彼らも、今はダンジョンの外で保護されているさ。
ダンジョンの出入口が復活した理由が、ダンジョンボスの討伐という事も、分かっているのだよ」
どうやら俺は、ボスオーガを倒してから8時間も寝ていたようだ。
その間に、出入口が再び開くと信じてダンジョンの前で俺の帰りを待っていた四宮教授はここまで来たようだ。
「及川君や鴻上君も君を心配してこちらに来ているよ。
早く帰って、みなを安心させてくれたまえ」
四宮教授のように、冒険者資格を持っていないのでこの場には来れなかったが、及川教授や鴻上さんもダンジョン前までは駆けつけてくれたようだ。
なんだろう、かなり嬉しい。
「あはは。ちゃんと休めたし、もう帰りますね」
「光織君らもボロボロだからね。護衛は我らに任せてもらおうか!」
完全回復したわけではないが、それでも多少は戦える所まで魔力が回復したと思う。
体力の方はまだ辛いけれど、どちらかと言えば、寝すぎたのが原因でこわばっているだけだ。軽くストレッチでもやれば、すぐに動けるようになるはずだな。
なお、四宮教授がここまで来れたのは、バトルクロスに付いている発信機のおかげだ。
これでおおよその方角を割り出し、やってきた。
「それにしても、一文字君たち十人は、ダンジョンのボスを、よく撃破できたのだよ。無事ではないが、一文字君だけでも帰ってこられてホッとしたのだよ」
あの広間、ボス部屋には、俺のあとを付けてきた連中がいた。
ボス戦の間はまだ何人か生きていたはずだが、彼らは俺が寝ている間に事切れていた。全滅だ。
ボス戦のあと、すぐに助けようとしていれば助かったかもしれないが、俺だってそこまで余裕があったわけでもない。
あんな連中でも助けられた方が良かったのだが、神様でもない凡人に、そこまでの事はできやしない。
力及ばず死なせてしまったが、俺に責任は無く、この結末も冒険者たる彼らの自己責任だ。俺は知らん。
そういう俺の言い分は、外でどれだけ受け入れられるか。それを思うと気が滅入るけれど。
「む、邪魔なのだよ!」
今、そんな事を考えるのは無粋だろ。
助けてもらえる事に感謝し、生還だけを考えよう。
助けてくれている四宮教授に守られながら、山のような戦利品を抱え、俺はダンジョンから脱出を果たすのだった。




